ソープランド火災、再発防止に向けて業界と地域にできることはなにか?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

大宮「風俗店ビル」火災、ゴミ置場で出火か

※日テレNEWS24

犠牲になられた方の御冥福をお祈りします。その上で事件から学べることは何だろう?という思いで筆を執りました。

■きちんと事件から学ぶ

今回は関東有数のソープ街(通称:北銀)に店舗を構えるソープランドでの火事であったことに加え、犠牲者が多数出てしまった為社会の関心が高まっていますが、いつもこの記事でお伝えてしている通り、風俗的な何かが絡むことで注目が瞬間的に高まる現象(所謂、ピンクの火薬現象)がこの事件に対しても発生しています。その結果、事件から学べる点が見えにくくなってしまうことが懸念されるため要点をまとめていきたいと思います。

■国内の火事、最大の原因は

下記の資料を参考にしながら事件を考えます。

【火災の概要】

※消防庁のサイトより

資料を見る限り国内の火事最大の原因は『放火』と『たばこ』です。平成28年時点で各、約3500件ずつ、全火災件数に対する上記2つの原因の割合は、約20%を占めています。前述の記事を見る限り、今回の火元はボイラーなどがある箇所ではなくゴミやタバコの吸い殻を捨てておく箇所からの出火と見られているため、最終的な調査結果が出るまでは断定はできませんが、放火またはタバコが原因と推測されます。

放火やタバコが原因だったとしたらソープランド特有の火元とはいえず、今回は性風俗業界特有の体質や環境が原因となった火事だとは言えません。所謂一般的な火事の原因が今回はソープランドという場所で発生した状況だったと言えます。決してソープランドが入っている建物がそのまま火事発生の確率が高い建物ということにはなりません。

■ソープランドと火事の関係

少し複雑な話なのですが、日本国内において性風俗産業はキャバクラやホストクラブの様に国や自治体から『許可』を受け営業をしているのではなく、あくまで『届出』による営業を行っています。簡単に言うと

「国として認めて(=許可)いないが、状況を把握する必要があるので営業するなら届出を」

という理屈です。風営法の不思議な面については一冊本が書けるくらい深いので触り程度の共有とさせていただきましたが、こうした状況から『性風俗に関する公的なレポートは存在しにくい』のが現実です。当然、性風俗店での火災件数も消防の資料に記載がないのですが、興味深いことに『火災種別・建物用途別における死者の発生人数別火災件数』においては『性風俗施設』の項目が確認できます。

データを参考にすると今回同様、性風俗店内の火事が発生し死亡事故に至ったのは9年ぶり。平成20年から継続している施設型性風俗店は約8100件(警察白書 参照)ありますが、その全てが約10年火事による死亡事故を性風俗業界は起こしてこなかったといえます。もちろん小火(ぼや)の件数は不明ではありますが、性風俗店内の火事で死者が出る事件はかなり珍しいことだったのです。

■法律より厳しい店内ルール

ソープだから性風俗だから火事が起こりやすい状況だったのではないか?と思われた方もいたかもしれません。しかし前述の通りソープランドでの火事による死亡事故は約10年間発生していませんでした。ではその理由は何だったのでしょうか?

ソープランド内廊下
ソープランド内廊下

※筆者撮影

性風俗の運営者の方々にヒアリングをしている立場である私の仮説ではありますが、性風俗産業の中でも特にグレーな領域にあるソープランドは運営に関しては細心の注意を払っています。整理整頓、情報共有が徹底された運営が店舗内で行われています。これは彼らの仕事における僅かな落ち度が即営業停止の理由になりうる状況があるためです。「店内ルールのほうが国の法律よりも厳しい」という言葉も現場スタッフから聞こえてくるほどです。こうした店内でのルール徹底が放火やタバコの消し忘れ等の火事の発生原因の予防になっていたのではないかと推測できます。10年間の実績が裏付けているのではないでしょうか?

しかし一方で悩ましい問題も現場からは聞こえてきます。それはルールを徹底しても施設老朽化へ抗うことが困難だという点です。

■ソープランドは修繕困難という現実

ルールや振る舞い運営の適切さを徹底したとしても、建物や施設が老朽化することは避けられません。聞いたことがあるかもしれませんが、ソープランドの様な施設型性風俗店は、建替えはもちろん修繕や補修をすることが難しいのです。前述の通り『許可』を受けて運営しているのではなく、昔からやっているから現状を認められている形態のため(既得権営業と言います)修繕等を建物に施してしまうと建築物として昔から存在してなかったと扱われ今後営業ができなくなる可能性があり、防火対策や耐震補強、設備の入れ替えなどを積極的に行えない現実があります。

埼玉にあるソープランドのボイラー
埼玉にあるソープランドのボイラー

※筆者撮影

今回の火事は性風俗業界にとっても間違いなく大きな出来事として映っています。風俗産業には業界団体こそありませんが自浄機能はありますので、ルールに厳しい運営をしている各店舗は独自の対策を検討すると予想されます。しかし禁煙化やさらなる整理整頓などの防火対策を充実させるルールこそ徹底できても、施設修繕や改修に踏切ることは難しいのです。最終的には施設の修繕は避けられない問題なのです。では今回の火事を踏まえて業界と社会はどのように変化していけばよいのでしょうか?

■文化として受け入れられる動きを

参考になるのが2016年4月に発生した『歌舞伎町ゴールデン街火災事件』です。業種こそ異なりますが、ゴールデン街も既得権営業であり実質グレーゾーンを踏まえた営業が行われている地域と言えます。

路地を歩いた方ならおわかりかと思いますが、火災が起きたら危険な構造となっている地域なことは事実です。しかしながら火事が発生した後の反応は意外なものでした。危険性を指摘する声よりも、文化として受け入れている方々から応援の声などが多く、クラウドファンディングなどによる焼失した店舗を支える動きも盛り上がっていました。これは普段からゴールデン街の各店舗が連携しており、さらに防火訓練や地域の祭り等を積極的に行っていた結果、顧客や周辺の店舗や行政と顔の見える関係性が生まれていたことが大きいのです。

法律で定められている以上、修繕が出来ない現実を嘆いても仕方がありません。また運営として細心の注意を払っていたとしても、もしもの火事は起こりえます。建物というものは老朽化は避けられずいつかは消えてしまうものです。それに伴いビジネスモデルも変化していきます。実際に今回の火事が発生したソープランドも派遣型風俗店(デリヘル)の軒数よりも圧倒的に少なくなっており性風俗業界としても既に変化は起きています。しかしながら建物が消えても文化は消えるものではありません。

かつての同潤会アパート(現、表参道ヒルズ)がそうであったように、建物として消えても文化やひとの流れを変えない事はできます。建物が既存不適格であり、同時に業態もグレーゾーンだといえる立場にあったとしても、文化として人々の心のなかに残していくことは可能ですし、そういう状況を作り出してはじめて、業界としても生き残っていくことができます。

今回の火事を踏まえて業界間の連携を更に深めると同時に、施設を置いている地域の方や地元NPOなどとのコミュニケーションを積極的に図り、法律の一員より先にまず、街の一員としての立場を確立し、地域の安全及び防災環境の向上に寄与することで、悲しい事件の再発防止ができます。業界としては地域への働きかけを、地域の方々は性風俗店だからというだけの理由で排除しない姿勢を互いに持つことが今回の火事の犠牲を無駄にしない唯一の方法なのではないでしょうか?

社会が決めつけや排除を越えていければと思います。