『ミニストップ成人雑誌販売中止』から読み解く真の需要

(写真:アフロ)

女性や子どもに配慮 雑誌市場の縮小も背景 ミニストップ成人誌販売中止

表現規制に関する議論が盛んで論点が見えにくくなっています。本件は表現規制派の勝利でも、表現派の敗北でもなく、マーケティングに本質があると思い筆を執りました。

■3つの論点

表現規制、成人雑誌の定義等…他領域に飛び火したことで議論が盛んですが、事態を俯瞰すると論点は下記の3つに集約されます。

1)民間企業の意思決定に千葉市の影響があったか?

2)民間企業が自主的に成人雑誌を棚からなくすことについて

3)成人雑誌をなくしたと『記者会見』をしたことについて

これら3点について考えていきたいと思います。

■1)民間企業の意思決定に千葉市の影響があったか?

これはもう、真意は我々にはわかり得ない事なので熊谷市長がFacebookで発言されたことが私達の知りうる全てです。

その中で千葉市長は表現規制問題について

“コンビニという空間においてゾーニングが適切に実施されることが重要との立場”

出典:熊谷市長Facebookより

と明言しており、ゾーニング推奨のスタンスを取ってはいるが表現規制強化に賛同している立場ではないことも読み解けます。

しかしながら、記者会見を報じた記事は

ミニストップ、成人雑誌販売中止

このような内容となっています。

市長はFacebookで

“同席の判断の際にはリスクも懸念”

出典:熊谷市長Facebookより

と記者会見の同席に対するリスクも明言されていますが、今回のような表現への圧力を行い、且つ規制強化側と誤解されるような場に、「リスクあるけど行っちゃえ!」と安易に飛び込む必要がどれだけあったのかは疑問です。せっかく表現規制に関してゾーニングの立場であることを明言されているのであれば、記者会見の場を表現規制の賛成反対双方が前向きに議論を進める機会づくりとして利用する役割まで担っていただきたかったと思います。

■2)民間企業が自主的に成人雑誌を棚からなくすことについて

前提としてコンビニは売れるものしか置かないビジネスです。売上が見込める商品のみ陳列し、売れていない製品は素早く入れ替えています。狭いスペースに在庫を抱えられないため、空間の効率を最大限する宿命を担っています。

では、雑誌(成人雑誌)はコンビニにおいて売れている商品だったのでしょうか?(他社で恐縮ですが)ローソンが2017年8月に公開されていたレポートを参考に調べてみました。

ローソン統合報告書

参照したところ、2016年の全売上の内訳は下記のとおりです。

・食品の売上(タバコ含)90.4%

・非食品の売上(書籍等)9.5%

もちろん当該店舗の数字がどうであったかは不明なのであくまで推測ですが、ここ数年書籍を含む非食品書籍売上は低迷しており(成人雑誌を含む)雑誌は売れていないと断言していい状況です。またもしミニストップが成人雑誌販売で儲かっていたのならば、利益が出ているにもかかわらずカットしたと発表するほうがミニストップの広報戦略上、効率的になるのにそうした情報が出されてないことと、前述の数字を見る限り、コンビニの棚から雑誌は遅かれ早かれ消えてしまいそうだと言えます。

成人雑誌の内容がどうであるかに限らず、売れないという理由で雑誌自体がコンビニのビジネスモデル上はお荷物気味な存在となっているわけです。コンビニというビジネスはそういうものだと割り切るしかありません。

しかし今回の記者会見は『売れないで且つ不人気な商品を棚から下げた』というコンビニ界で常識の行為が、とてもすごいことをやり遂げたかのように報じられています。実際は、「成人雑誌、儲からないしめんどくさいので廃止しました。」これがミニストップ側の本音だと言えるのですが。

■3)成人誌をなくしたと『記者会見』したことについて

そもそもミニストップは何がしたかったのでしょう?

『売れてない成人雑誌の取扱い停止を千葉県からの声掛けと絡ませて実行することで、陳列棚の効率を改善し、メディア露出機会を得て、企業イメージ向上を図った』

これが真の狙いだったといえます。ミニストップ側としては売れている商品を切り捨てたわけでもなく、さらに広告費を掛けずに露出機会を得られ、社会的配慮を実践した企業イメージまでついてくるため(『#ミニストップさんありがとう』というハッシュタグまで立てられました)低リスクで高い効果が得られた機会となりました。

では千葉市は何がしたかったのでしょう?

都市景観の美化と一部市民から発信されていた苦言に対する「配慮」が大きな狙いであったと思われます。記者会見を通し市内ミニストップで成人雑誌が消えたことを市の働きかけの結果起きた現象とすることで、住民への実績証明を期待したのでしょうか。しかしながら、前述の通り千葉市は表現規制に関してゾーニング推奨のスタンスであり、落とし所を模索していたバランス派であったにも関わらず、今回の記者会見では千葉市が規制に肩入れしたような見え方になっていることは事実であり、熊谷市長がリスクを取って記者会見に参加したことが裏目に出ている印象です。

まとめると記者会見したことで、ミニストップ側はアピールに成功したといえますが、千葉市側はミニストップの『成人雑誌を無くしました!』という刺激的なマーケティングに上手く利用されている立場だと言えます。ミニストップが得して、千葉市がどちらかと言うと損した立場ですね。

■刺激に依存しないマーケティングこそ重要

前述の通り、表現規制が拗れた状況にあることは自明です。千葉市が成果を示す機会とはいえ「成人雑誌をなくした旗手」として振る舞うマーケティングに便乗し実績報告してしまったことは、ゾーニングへの理解を広める機会を自ら切り捨ててしまったように見えます。実績報告は重要な取り組みですが、極端な線引をせず段階的な取り組みを実施してきた千葉市が、今回の件で片方に振れた存在として認識されてしまうことは実に勿体無くマーケティングの失敗だと言えます。では千葉市は今回の件にどのように情報発信を行えばよかったのでしょう?

例えば、記者会見の場を成人雑誌撤去とアピールするのではなく、

「ベビーカーや車椅子でも利用しやすいよう、不人気製品を撤去し店内を広くしたミニストップさんを評価します」

など発言するのみでよかったのではないでしょうか?

そもそも成人雑誌のゾーニングが目指していたことは何だったのかというと、「有害な何か」の排除ではなく、市民からの要望へ応えたいというとても優しい理由だったはずです。そして市民の真の需要は成人雑誌の撤去ではなく、ATMに立っているときの気まずさの解消だったり、子どもへの配慮などが本質です。

千葉市は、時間が経てば棚から消えてしまう商品である成人雑誌については一切触れる必要はなく、棚が空いた結果生まれるメリットだけを評価(例:空間の拡張、製品の充実)してあげればよかったのです。企業、行政それぞれに思惑があったかと思いますが、目指すところはユーザー及び市民の真の需要に応えた、安心できる地域づくりなはずです。「悪そうな何か」を退治することではありません。

マーケティングというものは、言われたことに素直に従うことではなく、真の需要を見極め最適な解を提案することです。影響力の高い千葉市と柔軟なミニストップが今回の反発を踏まえて変化していくことを望みます。誰かや何かを悪者にしないマーケティングにこそ成果がついてくると信じています。