ヤンキーとキャストの就労支援を考える【書き起こし記事】

GAP代表理事の角間(左)とハッシャダイ代表取締役の久世大亮さん(右)

2017年1月20日、東京都内で株式会社ハッシャダイと一般社団法人Grow As People(GAP)の協定書締結式とトークイベントが開かれました。ヤンキーの就労支援をする会社と、風俗店で働く女性(キャスト)のキャリア支援をする団体が協力し、今後お互いの持つノウハウや情報を共有していくことになりました。

今回は、司会の飯田泰之氏(明治大学政治経済学部准教授)を迎えて、GAPの角間惇一郎代表理事、ハッシャダイの久世大亮代表取締役のトークイベントを書き起こしでお届けします。ヤンキーとキャストの共通点、今後の活動について語ります。

※司会は、「夜の経済学」(共著、扶桑社)や「経済は損得で理解しろ!」(エンターブレイン)でおなじみの、飯田泰之氏(明治大学政治経済学部准教授、経済学者)です。

■「変わりたい」という想い

飯田:本日はよろしくお願いします。

角間・久世:よろしくお願いします。

飯田:久世さんがこの仕事を始めたきっかけはどこにあるのでしょうか?

久世:始めたのは、もともと周りの友達が全員ヤンキーだったということですかね(笑)

ヤンキーの友達が多くて、僕が地元から東京や大坂へ出ていった時に、「変われた」と感じた経験があったんです。その経験をビジネスとして生かしたいと思い、この仕事を始めました。一昔前であったらできなかったことが、今だとITの波によってできるようになってきているので、これからはビジネスとして色々広がっていかなければいけないと思いました。

飯田:例えば、地方出身で「非大卒」という縛りの中で、これまでインターンとして参加してくれた方々が1番求めていたものは何でしょうか。

久世ざっくりと「変わりたい」という気持ちがあるということですかね。僕は京都出身なんですが、僕を含めて「何かをしたい」と思った時に、何もできないんですよ。

飯田:なるほど。その一方で、例えば少し前に、「マイルドヤンキー論」というものが流行りましたが、地方が地元って1つのセーフティネットを提供していて、その中にいると、それなりに仕事の回し合いや友達の紹介のし合いがあると思います。でも、そこから抜けるということは、地元のしがらみも捨てることになりますし、同時に良いところも捨てることになりますよね。

久世:そうですね。「今のままではダメだ」という気持ちから、「変わりたい」と思って地元を出ると、今まで周りにいた人たちは「あいつは俺らを捨てていった」という形で地元のセーフティーネットがなくなってしまうことがあります。しかし、ある一方で「あいつは何かを決めて頑張っているから俺も頑張ろう」というような側面もあるんですよ。この違いってかっこいいかどうかというような感覚なので、数字で表せられないんです。そういう「自分で決めて挑戦した」っていう感覚をビジネスとして作っていくことに取り組んでいます。

飯田:「自分で選ぶこと」や「かっこいい」という感覚はとても重要であると思っていて、それがないと地元にも戻った時に低く見られたり、戻りにくいということがあると思います。GAPのほうが深刻な問題かもしれないのですが、「風俗産業で勤めている女性がいます」といったら、一般的なNPOでありがちなのは、「なんとかそこから助けてあげたい」、「よくないことをよくないことであると教えたい」という形になってしまう。ヤンキーからビジネスの道へ、夜の世界から仕事に就くために、という過程での闘いになりますよね。

角間:そうですね。闘いそのものにやはり意味は無いと考えています。重要なのは、僕たちが支援したい相手が何を望んでいるのかということです。やはり、7年程現場を見ていて感じる夜の世界の特徴は、「過去に生きていない」ということです。夜の世界で働いていていない人たちや業界外の方々は、「なぜこの世界に来たのか」というきっかけを気にする傾向があります。しかし不思議なことに夜の業界にいると、きっかけというのは段々とどうでもよくなってくるものなんです。それにも関わらず、「夜の仕事をやっていてかわいそうね」という動機をえぐる趣旨の話は世の中的にウケがいいので乱発されがち。そんな話は本人の未来にとってなんの役にも立たない。情報の出し方が、当事者のニーズ把握につながっていません。「予防した方が良い」というような話をする方が結構多いのですが、厄介なのは、「予防しないと何が起きるのか」という部分まで語っていないということです。

とりあえず、「夜の世界は行っては行けない場所」としか語られていない。それ自体の何が問題かという点は意外とみんな知らないし考えようともしない傾向がある。正直、何が動機になったか?は本当に多様です。しかし、誰にでも辞める瞬間は絶対に訪れて、その時困ることは共通している事が多い。戦うのではなく、その事実を伝えていかないといけない。

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■過去にとらわれない

飯田:夜の仕事で生活をしていると、次の仕事に就くためのステップがなかったり、知識がない、就労経験がない、履歴書の連続性がないというものがあると思います。意外と日本は履歴書の小さな空白を気にすることがありますよね(笑)

角間:そうですね。確かに(夜の仕事を)望んでやっていないという気持ちを持っている方も存在しますしその比率は確かに多いです。だから素直に夜の経験を履歴書に書くことはしません。その事自体は仕方がないのかもしれません。これは大きな問題ではあります。

しかし、この問題を語る時気をつけなければならないのは、望んでいないことそのものは夜の仕事特有の問題ではない事です。世の中全体を見回した時、望んで仕事をやっていない人って果たしてどれくらいるかとかんがえると…そんなに少なくないのでは?望んでやっていないから可哀想だから助けましょうという話をするのであれば、世の中全体に言えてしまうことでもあります。望んでるかどうかではなく、今何に“困っているか?”が大事。キャストさんと僕らの距離が近くいれるのは、過去を問わず、背景も関係なく、今の時点で履歴書空白の埋め方を具体的に示すことにこだわっているからだと思います。

飯田:なるほど。その一方で、ヤンキーコミュニティだと、消したい過去と言うか、地元にいる限り、引きずらざるを得ない過去ってあると思います。例えば、中学時代の人間関係の序列って結構長く引きずりますよね。

久世:そうですね。僕らのところにくるのは、地元を牛耳っている人ではないんですよ。あくまで上位の人ではなくて、小さいコミュニティの中で生きづらさを抱えてくる人が多いですね。

飯田:固定化されたメンバーでいると、正直学歴であると高校受験の段階で、そのコミュニティを抜けてしまって二度とその地元に戻ってこないというようなケースは結構多いと思いますが、そこにとどまっている限りは、それがずっと続いてしまう、生きづらさを感じてしまうということですね。一方で、コミュニティをすべて捨てるのはもったいない、だからこそハッシャダイが提供したいのは、「かっこよく変われて、ちゃんと地元に帰ることができる状態」ということですね。そのためにハッシャダイが工夫したいことはありますか。

久世:支援者に対して「救っている」「救われている」というような、福祉の対象として認識しないで、ヤンキーの人たちと対等な関係であることを意識しています。ヤンキーたち優位の、「自分たちで選んでいる」というスタンスをぶらしたくないですね。

■ニーズに合わせた取り組み

飯田:実際、どのくらいの数の問い合わせがあるんですか。

久世:月間でいうと、多い時に100件あります。

飯田:その中で実際に上京してくるのはどれくらいいるんですか。

久世:問い合わせの中の10%くらいで、すぐ上京するというケースはなかなかなないですね。最初の問い合わせから半年後とかに、「やっぱり上京したいです」と言ってくる方もいます。基本的にSNSで繋がるようにしているので、ゆるい繋がりで取り組んでいます。

飯田:SNS上で実際のインターンシップ生が、かっこいい活動をしていたりすると、その活動自体の求心力が高まるといった形ですね。

「変わりたい」という意志に対して提供するのは、座学や就職支援があると思うんですが、企業に派遣するインターンというのも就職支援として取り組んでいるんでしょうか。

久世:そうですね。近年、色んなところがそうした取り組みをビジネススクールとして提供しています。だけど、そうしたところは、リテラシーが高い人向けに設計されていたりするので、届きたい人に届いていないんですよね。なので、ハッシャダイの取り組みは、設計時に情報のアクセスを支援するためにその間に入ることだと思います。

飯田:GAPは、企業と連動して働ける場所を探すというような取り組みをしていますね。30日のうち12日働いて、残りの18日引きこもっているという状態から、その18日をアルバイトしているどうかだけでも違ってくるわけですよね。

角間:そうですね。僕たちが提供しているのは、支援や福祉といった性質のものではなくて、あえて言うのなら「空いた時間の安全」です。彼女たちは、それこそ「変わりたい」と思っているけれど、それ以上に「その仕事をしていることをバレたくない」と思っている方が多い。なので、18日の中で提供するのは、「まともっぽい仕事」ではなくて、「バレないで安心できる何か」にしないといけないと思っています。いきなり、夜の仕事から次の仕事には行きづらいので、12日夜の仕事で働いて収入を維持しながらが徐々に移行することが重要です。そのための受け皿をGAPで選定することが重要な機能になっています。具体的には理解を示してくださっている中小企業やNPO法人等がその受け皿として機能しています。

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■自分で決めるということ

飯田夜の世界もヤンキーの世界も、出口をしくじるとかなり苦しいことになるんじゃないかと思います。特にヤンキーのコミュニティからの出口については、2008年に起きた秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大容疑者は、典型的なヤンキーコミュニティを足抜けしようとした人ですよね。まあまあ頭が良かったので、住んでいる地区の中で一番良い高校に行くんですけど、その後でもインテリコミュニティの中では常にビリになって、そこだと成績でマウンティングすることになります。しかしヤンキーコミュニティの中では足抜けできなかった時に、それをカバーするのは結構難しいと思うのですが。

久世:そうですね。僕たちは、「成功する」というようなことを謳っているわけではなく、「選択するのが良いこと」というスタンスとして取り組んでいます。就職してからギャップがあったりして辞めたいとなった時でも、それを止めることをしないで、「辞めることを選択したこと」を良いものとして捉えています。

飯田:「自分が決めた」と思うと、自己決定権というか納得感が違うんですよね。行動経済学でも言われていることですが、自分が選んだことは、後々良いものに違いないというような幻想かもしれないけれど、自分に対してそう思えるものは実際に重要であるし、自己肯定感を上げていく方法としても大切だと思います。夜の世界でも、30日のうち、12日働いて18日引きこもりがちになってしまうのは、自己肯定感が低いと考えられるのでしょうか。

角間:そうですね。風俗で稼いでいる人とキャバクラで稼いでいる人を比べると、全員ではないのですが、後者の方が自己肯定感が高い方が多いと思います。例えば、AV産業を見てみると、女優の名前があってコンテンツが作られています。風俗の場合は、女優の名前はあまり意味がなくて、自分というものがサービスやプロダクトにならないという点があります。

飯田:そうなると、自分自身がどこに必要とされているのか分からなくなるということですね。自己肯定感って、人生の満足感に大きく影響すると思っていて、ときどき企業経営者の中でも自分1人で立ち上げた人は、すごく自己肯定感が強い人だったりします。でも、それはそれで成功の秘訣だったりするので(笑)どうすれば、学歴も経歴も自信がないヤンキーコミュニティから抜けてきた人の自己肯定感は高くなると思いますか。

久世:だんだん、肯定感の場所が変わってきているなと思うところがありますね。年配の方とお話しすると、車とか家とかの話から自己肯定感を持っているなと感じる方が多いんですけど、もっと若い人になると身につけているものに対してあまり自己肯定感を感じていないんですよね。それよりも「SNSで何を発信できるか」のほうが重要になってきていると思いますね。「友達と一緒にいるところを写真で撮ること」や「休みの日にどこに行っているか」とか(笑)どれだけSNSで発信することができるかが重要になってきていると思います。

飯田:そういった「かっこよさ」みたいなものは結構重要だと思いますね。GAPのほうはどうですか?

角間:一時期、『可愛い』を打ち出したコンセプトで進めようとしたことがあったんですけど、失敗しました。風俗をやっている人の次のステップを考える際、「知られたくない」というような奥手な人が多いのが現状です。、見た目派手な格好をしていたとしても根は臆病。このよう方も多いです。なので、自己肯定感を考えるのであれば、所謂女子ウケの良さそうな、「可愛い」「素敵」「綺麗」というよりも「役に立てる」「社会に貢献できているか」というものを刺激する方が効果があると思っています。「平日昼間、自由が利くあなたは社会貢献できるから何かやってみようか」というような感じですかね。

飯田:最終的には夜の世界の人もヤンキーの世界の人も次につなげていくような1つのきっかけになると思うんですけれども、次のステップを選ぶというときに、ハッシャダイとGAPがこれから互いに何をしてほしいか、また価値あるものが生まれてくると思いますか。

久世:僕のところにも女性の方が来られたりするんですけど、社員が男性しかいないので、女性の視点を教えていただきたいですね。お問い合わせがきた時に相互に活動できれば良いなと思っています。

飯田:GAPのほうはどうですか。

角間:僕たちの取り組みで厄介なことは「どうやって当事者にアクセスするか」ということです。そのための戦略として、今はお店にお願いして情報を出していただく戦略を取っています。しかしながら、地方の情報はどうしても手が届かない。つまり、上京してきて東京にいる子はアクセス可能なのですが、上京していない田舎の小さな風俗に在籍しているなどで取りこぼしてしまう方がいますので、その部分をハッシャダイにつなげていただきたいと思います。

■次の世代を育てていくこと

飯田:ヤンキーの世界、夜の世界でも、「抜けたいけど抜けられない」というハードルは、本人自身にとってすごく高いと思っているかもしれないし、実はそんなに高くないものかもしれない。しかし、ハードルが低いと分かったところで、「自分で決断する」というような道があるということですね。最後に、これから自分の組織のことや相手の組織と一緒に取り組みたいことをひと言ずつ聞かせてください。

角間:僕らは活動自体は7年程ですが、ソーシャルビジネス、ソーシャルセクターと関わって10年以上経っています。その過程で大きな転換点がいくつかあると思っています。震災以降あたりからソーシャルビジネスなどが目立ちました。また、去年とか一昨年は貧困がすごくブームでした。しかし、ブームになったのになかなか今までのやり方を崩せていない面があります。それを変えていくためには事業の力だけではなくて、新しい世代を育てていくことだと思います。アンダーグラウンドだから怖いと考えるのはやはり安直で、活用方法もある。それを知って欲しいですね。わかりやすい社会課題だけではなく、従来課題だと認識されていなかった領域を社会課題として扱おうという傾向が高まってきているので、今後ハッシャダイの方々と交わる形で情報共有や協力をしていきたいと思います。

久世:僕たちがやっていきたいことは、2020年に成人年齢の引き下げが起こることに対して、市場を作っていくことですね。高卒の新卒の市場は民営化されていないんですよ。ビジネスを作っている人たちがこういう市場が分からない面があるので、市場の流動化を目指していきたいです。

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