性風俗産業側から考えてみた、奨学金制度のしんどいトコと、今すぐできるコト

(写真:アフロ)

いろいろと話題になっている奨学金問題。私が関わる夜の世界においても無関係とはいえません。性風俗の業界で働いている女性の中にも、奨学金を受給している・していたという女性は現状では珍しくありません。今回は、夜の世界からこの奨学金について問題点を考えてみたいと思います。

客観的な統計や調査がないので正確な数字はわからないのですが、性風俗業界に数年間勤ているスタッフ数人に確認してみたところ、全員「ここ数年で、奨学金を返済していると語る夜の世界で働く女性は増えている。」と感じているそうです。 また、私は性風俗で働く女性のための相談機関を運営しているのですが、そこでも奨学金返済に関する相談は間違いなく増えていると感じています。

■奨学金問題を“ウラ”から考えてみる

奨学金の問題点を考える上で、「性風俗で働きながら返済している女性を例に出すのは強引ではないか?」というご意見もあるかと思います。もちろん、「奨学金返済が大変だから風俗で働かざるをえなくなった女性がたくさんいる、だから奨学金制度は問題だ」と言うつもりは全くありません。“奨学金受給と性風俗産業との関わりは直接の問題ではない”という前提を共有した上で、この記事の主テーマ『夜の世界からみた現代のゆらぎ』にそって、この問題を考えてみたいと思っています。

僕の前職でもあるデザイン業界では、アイデアを逆さにしたり、裏から見たりすることで、別の視点の発見や、発想の転換を行います。社会を見る際もこの方法は応用ができるはずです。社会のウラから表をみてみることで、今欠けている発想や、社会をより良くするヒントを見つけられるのではないかと考えています。

何より、性風俗産業も好む好まぬはさておき、事実上ひとつの仕事であり産業となっているのが現実。ですから、何も性風俗で働かざるを得ないような奨学金の問題をどうにかしないといけないという趣旨では全くありません。性風俗で働きながら奨学金で大学に通う(通った)人たちの状況を紐解くと、豊かとはいえない経済状況で進学するということはどういうことか、どのような困難があるのか、凝縮された課題が垣間見えてきます。少し目線を変えて彼女たちの置かれていた状況から奨学金問題をみることで、解決のヒントがあるのではないでしょうか。

今回、趣旨を理解していただいた、奨学金を受給しており且つ性風俗産業に関わっている4名の女性に、奨学金受給の動機、負担の程度、なぜ性風俗産業に関わっている(いた)のか?等など、あれこれ質問をさせていただき、以下に要点をまとめてみました

■共通していたのは「お金がない」だけではない

お話を伺った4名に共通していたことが3つありました。

1つめは全員、実家が東京ではないこと。

奨学金を受給しているということは、実家がそれほど裕福ではないということにほかなりません。また、地方出身で大学進学のために上京し一人暮らしをしている場合、首都圏に実家がある学生と比べ、家賃や光熱費など生活費がかかります。 実家に十分な仕送りをできるだけの経済力があれば別ですが、無理な場合は親に頼らず生活していくだけのお金を自分で稼がなければなりません。1名の方は東京に家を借りなかったそうですが、代わりに地元の栃木県から電車で2時間以上かけて通学していたそうです。 とはいえ奨学金が必要な経済状況で大学に進学しているため、学業だけしていればよいという状況ではなく、アルバイトの必要がありました。しかし通学時間を考えるとどうしてもアルバイトに費やす時間が足りず、穴埋めとして夜の仕事を利用していたとのことです。また、風俗業界は地方からの出稼ぎニーズに応えるインフラを伴っていることも使い勝手の良さとして捉えられていました。

2つめは、全員在学中から風俗業界の仕事をしていたということ。

在学中の仕事としてこの世界を選んだ動機を聞いてみると、

「遊興費を稼ぐためのアルバイトではなく、生活費のためなので、大学生活と両立するためには短時間で稼ぐ必要がある。風俗業界以外のアルバイトだと時間が足りない」「急に仕事が行けるようになったときに、時間を無駄にせずいつでも仕事に入れる利便性」等を共通して挙げていました。

3つめは、奨学金“そのもの”にプレッシャーを感じ出したのは卒業後だったこと。

慣れない環境の中、卒業後すぐに返済を始めることは、就いたばかりとはいえ、先が見えない労働環境の中で精神的にしんどかったそうです。結果として返済への不安から、卒業後も夜の仕事を続けているということです。

■今は『お金』より『時間』

『奨学金は借金』というレッテルが散見されますが、奨学金制度そのものを悪者とするのは少々雑な考えだと私は思います。実際に、奨学金で進学し進路を開拓している方も存在しており、必要としている学生も大勢いると思います。ただ、現在は10年前と比べ環境の変化、時間の流れが早くなっています。時代の流れに合わせて制度もこまめに見直す必要があるはずです。ではどの部分を修正していく必要があるのでしょうか。

先ほどの性風俗の世界に関わりを持つことになった彼女たちの意見から見えてきた現実は、『時間的余裕の無さ』です。奨学金を受給したこと自体が、性風俗へのきっかけになっているわけではありません。中間が失われ格差が広がっていると言われて久しいですが、「学費“だけ”が足りない」という状況でない方が増えてきている現実が見えてきます。奨学金を受給しているということは、同時に生活費等を自身で賄う必要性が高いということです。

生活費が足りなければ自分で稼ぐ必要が出てきますが、キャリアやスキルがまだない学生にとって、お金を稼ぐということはイコール時間を売るということです。しかし、時間を売りたくても、学業と並行して行うには時間の制約が多いのは学生という立場を考えれば当たり前です。こうした中、短時間である程度稼げて、現金日払い可能、当日出勤(欠勤)可能という風俗業界の仕事を奨学金受給者が選んでいる現状は合点がいきます。

■現代(いま)の奨学金のあり方

理想は貸付型ではなく、間違いなく給付型の奨学金制度の一般化でしょう。ただ財源の壁が立ちはだかります。

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また「そうか。やはり格差が大問題だ!」とだけ、声高に叫んでも、今この瞬間の学生が楽になるわけではありません。対処療法かも知れませんが、まずは今あるものを修正していくことが重要です。性風俗に関わる女性の現状から考える奨学金問題をマシにするやり方があるとしたら、まずは現行の貸付型に現実に合わせたオプションを加えていくこと。下記のようなしくみの組込が有効なのでないかと推測できます。

・学業の成績次第で奨学金返済金額の補助

・無職になった際、免除期間の対応をハローワークと連携

・上京組に対する優遇措置

・奨学金を抱えている若者が孤立しない場を設ける

対処療法かもしれませんが、政策の動きを待つ間でも民間の側でこのような動きを取ることで、卒業後安定して仕事をはじめてから無理なく返済することが可能となりますし、在学中も学業と並行して無理な仕事を続ける必要がなくなるのではないでしょうか。

■制度の変更だけではない、社会で今すぐできること

とはいえ、制度そのものの変更にはやはり時間がかかります。視野を広げると、奨学金制度だけではなくすぐにできることがあるはずです。例えば、アルバイトとして学生を受け入れているお店や企業で、改善できることはないでしょうか。

まず、学生をアルバイトとして雇用する場合、奨学金の有無を聞く。その上で、シフトの柔軟性を優先的に保証することや、お給料の日払い制度などを設ける。こうした対策は比較的すぐ出来て効果の高い策だといえます。ほかにも、生活費を稼ぐことと学業とを両立させようという若い人たちを社会として支援する際に、現状足りていないことはたくさんあるはずです。学生たちはこれからの社会を担う宝です。経済状況に関わらず、学ぼうという意欲を持った若い人が教育を受けられる世の中が必要です。奨学金を受給してまで学んでいることを雇用側など社会が評価することが重要ではないでしょうか?

また今夜、半年がかりで取材・撮影を共同で行っていたテレビ朝日『報道ステーション』の奨学金問題の特集に、恥ずかしながらコメント役で出演させて頂きます。 夜の世界で働きながら奨学金を返済する女性を取材し、制度の問題点を考える内容になっているはずです。ただ毎度のことですが、TVでは尺の関係で伝えきれないことが山程あるので補足として本記事を書かせていただきました。

6年以上、社会のアンダーグラウンドと呼ばれる立場の方々と接する機会を多く頂いてるからこそ感じることは、孤独なことが本当にヤバいということです。そして、孤独というのは人に「言えない。言い難い」という状況から生じやすいものです。なかでも、「借金の抱えている状況」はもっとも人にいいづらいことのひとつです。一方的に奨学金を借金と呼び、良くないものとするのは簡単ですが受給している学生の肩身が狭くなる恐れ(スティグマに繋がるリスク)があります。奨学金を抱えている理由を社会側が理解し、できることから受け入れていく体制づくりを各方面から起こしていくことが大事なのではないかと感じます。