ウェアラブルの時代に向けて、GoogleとAppleの対照的な戦略

先日Googleが、ウェアラブル向けプラットフォーム「Android Wear」を発表しました。

Google、Androidをウェアラブルに拡張するAndroid Wear 発表。年内に各社からスマートウォッチ発売 - Engadget Japanese

モバイルコンピューティングの市場はスマートフォンのコモディティ化が進む中、ウェアラブル端末、つまり時計やメガネのように身につけることができるウェアラブルコンピュータが新たな市場として注目されています。

特にスマートウォッチは、アメリカのクラウドファンディングサイト(資金調達サイト)Kickstarterにて「Pebble」が1,000万ドル(約8億円)の支援を集めるなど、新しもの好きのアーリーアダプター層での注目度は高いと言えるでしょう。

-クラウドファンディング- 「Pebble Smartwatch」が調達額1,000万ドル(8億円)を記録 : イケハヤ書店

そんな中、満を持してIT業界の最大手企業の1つGoogleがウェアラブル用のプラットフォームを発表した意味は大きく、この分野の動きは今後一気に加速しそうです。

Android WearはほぼGoogle Now、だからこそ超有望 : ギズモード・ジャパン

◯Android Wear成功の要件は?

スマートフォン市場で8割のシェアを持つまでに至ったAndroid OSですが、ウェアラブル端末でも同じように成功を収めることができるでしょうか。

ウェアラブルでこそAndroidは真価を発揮する | fladdict

Googleが取るべき戦略は、様々なブランドの商品が通信、連携できるウェアラブルのネットワークを作ることである。Androidそのもののと、基本アプリのスキニングAPIを充実させると同時に、Android OSの操作フローや、基幹レベルでの挙動は厳格に統一すること。そして、様々な企業がAndroidの表面だけを美しくカスタマイズし、バックグラウンドは安定してデバイス間で協調する世界観を作ることが根幹となるだろう。A社の首飾りに、B社の腕時計、C社の指輪と、D社の靴が協調して動作する。それがウェアラブルの目指す基本形となるはずだ。

一方で、Android Wearの詳細はまだ明らかになっていませんが、スマートフォン用に開発された既存Android OSを拡張しているものだと思われます。元々Androidはハードウェア要求(CPUやメモリなど)が高い領域があり、今回のAndroid Wearがどこまで最適化されているかによりますが、バッテリー持続時間やハードウェアコストの観点で今までのAndroid OSの特徴をどこまで継承しているのか、注目されます。

もしかなりの部分を既存OSの特徴を引きずっているのであれば、過去を振り返ると、MicrosoftがWindowsでPCマーケットを支配した勢いのまま、2000年代前半にモバイル端末への進出を図り、タブレット向けにWindows OSを改修する形で参入し、失敗したことが想起されます。

生前にSteve Jobsは、Microsoftのタブレット事業の失敗とiPadの成功を比較して、こう述べています。

(下記動画の36分06秒から)

Steve Jobs in 2010 at D8 - YouTube

That drove everything. That drove everything. Their table PC is based on a PC, had all these expense of a PC, had a battery life of a PC, had a weight of a PC, it used a PC operating system.

(Microsoftがタブレット開発時にPC用のOSとスタイラスに固執したことを指して)全てはそこに起因するんだ。彼らのタブレットはPCがベースだ。だからバッテリー持続時間や端末の重さなど、PCの弱点を全て持ち込んでしまった。PC用のOSを利用したからだ。

That really needed a precision of the tip of the arrow of a cursor. Well the minute you throw a stylus out, you cannot get that precision. You have the precision of a finger which is much cruder.

PC用のOSでは(マウス利用が前提のため画面を操作するためには)カーソル並の精確さが必要なため、彼らのタブレットにはスタイラスが必須になってしまった。スタイラスがないと、操作時にそんな精確さは望めない。しかし人の指を使えば遥かに粗野な精度になってしまう(=既存のOSでは使い物にならない)。

Therefore you need to have a totally different software, so you can't use the PC operating system. And you have to bite the bullet to say we gonna have to create this from the scratch because all the PC apps won't work without being re-written anyway. And so we've build a very different animal.

だから(人の指での操作に対応するために)今までとは完全に異なったソフトウェアが必要になる。そのためにはPC用のOSじゃダメなんだ。歯を食いしばって、ゼロベースで新しいソフトウェア(OS含む)を創らなければいけない。なぜならPC用のアプリは全て書き直さないと動かないからね。だから我々は全く異なる製品を一から創ったんだよ。

つまり、本来PCと異なるフォームファクター(ハードの形態)とユーザ体験が求められるタブレットに対して、PC用のOSとマウスの代替としてのスタイラスに固執し、モバイル端末に最適化したOSやソフトウェアの開発を怠ってしまったことが明暗を分けた、と指摘しています。

特にバッテリー持続時間は、日々身に付けるような使い方を想定するウェアラブル端末では最重要な機能であり、Android Wearに対する懸念の一番に挙げる記事もちらほら見かけます。

What Android Wear Needs to Win our Wrist | Digital Trends

しかも、ウェアラブル端末というのはスマートフォンよりも遥かに多様なフォームファクター(形態)を持つはずです。

現状のスマートフォンでさえ、AndroidはメーカーやOSのバージョンがFragmentation(断片化)し、互換性を保つことに開発者が大変苦労している中で、ウェアラブル端末には今のスマートフォン業界よりもさらに関与するメーカーが増えることはまず間違いないでしょう。そうすると、

A社の首飾りに、B社の腕時計、C社の指輪と、D社の靴が協調して動作する。それがウェアラブルの目指す基本形となるはずだ。

という上述で紹介した基本形を考えるに、はたしてAndroid Wear搭載の端末同士またスマートフォンとの連携を、Googleが実用的なレベルで実現できるかどうかは、現段階では未知数と言えます。

バッテリー持続時間の問題、ハードウェアへの要求水準の問題、各端末との互換性/連携の問題など解決すべき課題は様々ありますが、逆にこれらが解決されるのであれば、Android Wearはウェアラブル端末のデファクトスタンダードを一気に取る可能性を秘めています。

◯いまだ沈黙を続けるAppleはどういう手を打ってくるか。

一方で、音楽プレイヤー市場や携帯電話市場などイノベーションを起こすマーケットを明確に定義し、その市場向けにハード、ソフト、サービスの緊密な連携で最高のユーザ体験を提供してきたApple。いまだ彼らは沈黙を守っていますが、新規採用している人材を見るに、ヘルスケアや医療の市場に焦点を合わせている可能性が高そうです。

噂のアップルの健康管理アプリ「Healthbook」は、ヘルスケア業界を革新するか WIRED.jp

アップルはこれまでに、有名なフィットネス・インストラクターであるジェイ・ブラニックや、医用センサーに関して経験を持つエンジニアを多数雇用してきた。これは、同社が何らかのウェアラブルな健康管理デヴァイスを用意していることを示している。

また、ウェアラブル端末を想定した特許がいくつも申請されていることを見るに、この分野において近い将来に何らかの新製品が登場することは充分考えられるでしょう。

Apple Patents A Smarter, More Accurate Wrist-Based Activity Tracker | TechCrunch

Apple Patents Bluetooth LE For Intermittent Network Sharing, Perfect For Smartwatches | TechCrunch

心臓の鼓動計内蔵とタッチ画面上の(指の)ホバリング検出でAppleが特許を出願 | TechCrunch Japan

公開されている特許申請を見る限りの方向性として、ウェアラブル端末にはディスプレイを持たせずあくまで身体情報のセンサリングに特化して、それをiPhoneと連携させることで付加価値を出していくということはあり得るシナリオの1つです。

メガネと腕時計以来、人が常時身に付ける機能的な装置というものは、実は普及していません。メガネがコンタクトレンズになり、人によっては腕時計をしない方も最近増えてきている中で、スマートウォッチのような端末をわざわざ身につけるかという問題があります。しかし例えば腕輪、指輪、靴、イヤリングなど多様な選択肢が用意されていて、それらがペアリングや充電などの手間が一切掛からずに、自然な形でiPhoneと連携し、自分の日々の活動や健康状態を簡単に把握することができるようになったら?

もちろん、具体的なサービスが出てこないと何とも言えませんが、スマホの代替や補完としてのスマートウォッチとはまた違った方向性もあり得るでしょう。

水平分業のGoogleと垂直統合のApple。この道はいつか来た道。さてこれからどうなるか、各社の動向に目が離せない状況は続きそうです。