まさかの「島と島が手を結ぶ」が実現。全国の離島が加盟できる「離島百貨店」プラットフォーム

島根県隠岐郡の海士町。(筆者撮影)

日本は6852の島からできている。そのうち人の住む有人島は420島。都会から遊びに行くと、島は海や山に囲まれた、のどかで、魚介の美味しい豊かな土地に思える。ところが有人島の約9割では人口減少、高齢化が進み、多くの島では担い手不足と産業の衰退が進んでいる。

島が産業面で不利なのは、本土に比べてものを運ぶ輸送時間とコストがかかるためだ。せっかくの新鮮な島の産品も、運ぶ間に鮮度が落ち、送料がかさむ。島外から何か仕入れるにしても、同様だ。

そこで生まれたのが「島と島が手を結ぶ」という発想だった。島同士が連携することで、本土から先の物流や、都会に店舗展開するコストを共有し、一つの島にかかる負担をおさえる。島の産品や加工品を売り出す共同体になろう、というアイディアである。

言い出しっぺは町づくりの先進地でもある、島根県隠岐郡の海士町。まず形になったのは、島の食材をふんだんに用いた飲食店「離島キッチン」だった。海士町が運営主体としてスタートしたが、当初からほかの島々を巻き込むことを念頭に「海士キッチン」でなく「離島キッチン」と名付けられた。

離島キッチン日本橋店の入り口。東京の一等地、日本橋三越駅前の通りから、店前ののぼりが見下ろせる。筆者撮影
離島キッチン日本橋店の入り口。東京の一等地、日本橋三越駅前の通りから、店前ののぼりが見下ろせる。筆者撮影

2015年には第一号の神楽坂店がオープン。さらに2019年春には一般社団法人「離島百貨店」が設立された。飲食店やアンテナショップの運営だけでなく、離島の自治体を連携するしくみとしてスタート。現在、加盟する自治体は9、島の数としては33の離島が登録しており、さらに加盟自治体は増える見込みがある(*)。

■離島キッチンとはどんな店か?

いま離島キッチンは、神楽坂店をはじめ、東京には日本橋店、札幌と福岡、海士町と計5店舗を展開している。来客数は全国4店舗の合計(海士町を除く)で年間約10万人。日本橋店に限ると月3500〜4000人の来店者がある。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

札幌店では北海道の島々、福岡店では九州の島々…といった風に、近隣の食材を中心に用いるが、加えて全国の島のものが「離島キッチン」ネットワーク間で流通する。日本橋店は各地方店から集まってくる食材の拠点にもなっており、ここから都内の小売や飲食店に卸したり催事販売を行うなど、展開を広げている。

日本橋店を訪れてみると、とにかく立地がいい。日本橋三越前駅の目の前で、コレド室町に並ぶユイト日本橋室町野村ビルの地下1階。

離島キッチン代表の小池岬さん。明るい店内。写真手前が飲食スペースで、奥が物販。(筆者撮影)
離島キッチン代表の小池岬さん。明るい店内。写真手前が飲食スペースで、奥が物販。(筆者撮影)

広い店内は約半分が飲食店で、半分が物販のスペース。場所がら、ディナーよりランチのニーズが高い。

お昼のメニューは「ミニ島ビュッフェ」ランチ(1000〜1600円※平日限定。休日はビュッフェランチ)。日替わりでメインとなるご飯ものを4種類から選ぶことができる。この日は長崎県小値賀島の「ヒラマサ漬け丼」、大分県保戸島の「ひゅうが丼」、長崎県五島列島、鹿児島県屋久島の「鯛出汁カレー鯖スモークのせ」、岡山県真鍋島の「ひじきとベーコンの混ぜご飯」。ほか、ビュッフェには壱岐島の海藻オゴや、粟島の炒り豆フレーク、伊平屋島のあおさ、利尻島の昆布酢漬けなど、島の食材がずらりと揃う。

大分県保戸島のマグロを醤油で漬け込んだ漁師めし「ひゅうが丼」。(筆者撮影)
大分県保戸島のマグロを醤油で漬け込んだ漁師めし「ひゅうが丼」。(筆者撮影)

これはと思う美味しい食材があれば、ものによってはその場で購入することもできる。

飲食店付きのアンテナショップを、自治体単位でなく、“離島”連合で出しているといったイメージ。物販と飲食の売上比率は、1:2(2019年11月時点)。今後、より物販の比率を伸ばしていきたいという。

■離島キッチンの情報ネットワーク

面白いのは、この離島キッチンネットワークが、離島の情報網になっていて、ほかの小売や飲食店が島のものを扱いやすくする、地域商社のような役割を果たしていることだ。

たとえば、仕入れる側からすると、どの時期にどんな島の海産物や加工食品があるかといった情報がない。かといって、特定の島との直取引だけでは、品の種類や量が限られてしまう。

離島百貨店を介すことで、日本橋店で扱っているあらゆる島の食品にアクセスできるほか、各島の旬の食材や美味しい食べ方、レシピまでわかったりする。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

離島キッチン代表の小池岬さんはこう話す。

「加工品の商品開発のお手伝いもやっています。業務用が多いんですが、屋久島のトビウオの漬け、漬け丼のもとみたいなやつですね。あとは粟島だと枝豆があるので、ずんだのペーストとか」

たとえば、新潟県の北部、日本海に浮かぶ粟島の粟島浦漁協では、もともと人手が足りずに行えていなかった魚の加工が始まったという。

「粟島の魚は本土に送っても到着するのが昼過ぎになって競りにかけられず値段も下がる一方だったんです。収入が増えないので担い手も定着しない。そこで日本橋店で粟島フェアをやることになって、地元の郷土料理、わっぱ煮を出そうと」

わっぱ煮とは、焼いた新鮮な魚・ネギ・味噌をわっぱに入れて、食べる直前で真っ赤に焼いた石を落し、グツグツ煮立たせる豪快な漁師料理。ところが島で魚加工をしていないため、獲れた魚の量によってお客さんに提供できなくなってしまう。

新潟県粟島浦村、粟島のわっぱ煮。
新潟県粟島浦村、粟島のわっぱ煮。

「これを機に島で加工しようと。漁協で体制をつくってくださって、さばいて真空パック詰めをして、ストックしてもらって。うちが必要な分を発注して送ってもらうというしくみがまわり始めました」

島の側に体制ができれば、別の販路にも売ることができる。現在、離島百貨店の関わり方は大きく二つ。一つは小売や飲食店、加工業者との間に入って卸の役割を果たす立場。もう一つは情報だけ提供して直接依頼者と島とやり取りしてもらう仲介者。

近いうちにオンラインで情報が一覧できるシステムもできる予定。何重にも入る卸や流通にかかるコストを抑え、島が直取引できるようになる。

さらに今はまだ離島ネットワーク間で動いているのは加工品や、冷凍保存された品が主だが、物量が増えて独自の物流経路が構築できれば生鮮品に広げることも期待できる。

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■新規事業や、人材発掘までを離島連携で

さらに食の流通面だけでなく、島同士で連携できることはもっとあるのではないかと2019年2月には「一般社団法人離島百貨店」が設立された。たとえば離島キッチンを拠点とした離島ファンとの交流、関係省庁との連携事業、空き家対策や人材発掘まで。小さな一島では難しいことを連携して行っていく。離島百貨店に加盟する自治体は月2万円の会費を支払う。一つの自治体内にいくつもの島を有する市町村が多い(*)。

たとえば現在、大手人材派遣企業と進めているのが「離島×旅×副業」だ。派遣される人は島の仕事を手伝いながら、2〜3週間、島に中期滞在する。島には季節労働が多く、一年は雇用できないけれど、忙しいときだけ手伝ってほしいなどのニーズがある。ここにワーキングホリデーのように都会の人が派遣されるモデルを、試験的に始めようとしている。

「各離島で抱えている課題や取り組みたいことは、島同士共通していることが多いんです。特産品を都会で売りたいと思っているなら一緒にブランディングしようと。三越でフェアができたり、それぞれにいる離島ファンを一堂に集めるとか。空き家の問題も連携して民間企業と組もうと」

一つの島では規模が小さすぎて民間企業に相手にされなかったり、コストがかさむ。単独でそうした問題を解決するのでなく、みんなでお金を出し合って、規模の優位性を出していこうという発想だ。そのためのプラットホームをつくる。

日本の離島には本土ですでに失われた風土や文化が色濃く残っている。島を存続させ、そうした文化を残すためにも、まずは「おいしいもの」を入り口に、離島キッチンを訪れてみるのはどうだろう。

(「離島百貨店」提供)
(「離島百貨店」提供)

(*)2020年2月12日現在の加盟自治体:上島町(愛媛)、笠岡市(岡山)、隠岐の島町(島根)、海士町(島根)、知夫村(島根)、壱岐市(長崎)、三島村(鹿児島)、十島村(鹿児島)、粟島浦村(新潟)

こちらは、拙著『ほどよい量をつくる』(ミシマ社編集、インプレス発行)に掲載した事例を新たに書き起こしたものです。

本書では大規模生産、流通にはのらない、小さな取引や、適量生産を試みる各地の企業を紹介しています。