ものづくりを志す若者の聖地に。伝統産業の「職人に会える」オープンファクトリーに4万人来場

(撮影:Tsutomu Ogino)

つくり手が工場や工房を公開し、来場者に現場を見てもらうオープンファクトリーが、ここ数年、各地で盛んだ。伝統産業や手工業など「産地」と呼ばれる地域には、その分野の職人や工場が揃う。だが卸やOEM生産などBtoBが主なため、一般の人たちには馴染みが薄いものも多い。

オープンファクトリーとは、そうした産地が直接一般客との接点を開拓しようと始まった試みで、工芸都市高岡の「高岡クラフツーリズモ」や、新潟県燕三条の「燕三条 工場の祭典」などが知られる。

福井県の越前・鯖江地域で先週10月19日~21日の3日間行われたRENEWもその一つ。4回目となる今年は開催エリアも広がり、眼鏡・漆器・和紙・打刃物・箪笥・焼物・繊維と7つの産地から111社の工房・企業・ショップが参加。3日間で延べ3万8千人が来場した。(10月24日時点の集計結果。微増の可能性あり)

(撮影:Tsutomu Ogino)
(撮影:Tsutomu Ogino)

産地のものづくりを、次の時代に継ぐために

福井県鯖江市の河和田地区。メガネや漆器の産地であるこの町に、数年前に取材で訪れた際、木地職人やデザイナーの若手が集まり「いつかこの町を職人、デザイナー、作家などあらゆるものづくりに関わる人たちが集う町にしたい」と話していた。その思いに端を発したイベント「RENEW」は2015年に始まり、今年で4回目を迎えた。

福井県の鯖江、越前エリアは、古くからものづくりの盛んな地域だ。越前和紙の歴史は1500年を超えるといわれ、公家や幕府の公文書紙をつくってきた日本三大和紙のひとつ。越前漆器も起こりは約1500年前。明治以降は旅館やレストランなどで使う業務用漆器としての生産地として栄えた。

ところが長年大手メーカーのOEM、下請けなどを担ってきたことで、産地はすっかり黒子の役に徹してしまった。最近でこそ「鯖江のメガネ」は知られるようになったものの、漆器や繊維などは高い技術力を持ちながら世間の認知度はそれほど高くない。

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

そこで、ものづくりに携わる若手が集まり、2015年から始まったのがこの取り組み。

「今はただつくるだけでなく、つくること、デザインすること、伝えることをすべて産地側でやっていかなければならない時代です」と話すのは、RENEWのディレクターで本イベントの発起人でもある、TSUGI代表の新山直広さん。

RENEWのディレクター、TSUGI代表の新山直宏さん(撮影:市岡祐次郎)
RENEWのディレクター、TSUGI代表の新山直宏さん(撮影:市岡祐次郎)

TSUGIとは2015年の起業以来、地域産業や文化をこれからの時代につなぐための、商品開発や販売開拓までを一貫するデザイン会社。

RENEWの初年度は地元の職人に理解してもらえないことも多かったが、当時の河和田地区長で現・実行委員長の谷口康彦さん(谷口眼鏡社長)などの強力なバックアップもあり、一年目から来場者約1200人を記録。約4割が県外からのお客さんだったことに手応えを感じた。今年からは新たに越前焼や繊維の会社も参加して、広範囲の地域あげてのイベントに成長しつつある。

問屋など流通の力が落ちる中、産地として顧客とどうつながるか、どうブランドを構築していくかは、ものづくりの町であれば他の町にとっても重要な課題になっている。

(撮影:Tsutomu Ogino)
(撮影:Tsutomu Ogino)

歴史と技術力のある産地ゆえの、イベントの深みと厚み

長田製紙所の和紙でピアスをつくるワークショップの様子(撮影:筆者)
長田製紙所の和紙でピアスをつくるワークショップの様子(撮影:筆者)

実際に工房をまわってみると、各産業の歴史と技術力の高さが、このイベントをより深みと厚みのあるものにしていることがわかる。

越前市今立地区の和紙エリアでは、昨年より多く17の製紙所や問屋、工房が見学を受け入れた。今立地区は「和紙の里」とも呼ばれ、細い川沿いに風情のある和紙漉き工房が軒をつらねる場所。

 町のシンボルである、紙の神様をまつった大瀧神社を製紙所の方が案内してくれる短いツアーも(撮影:筆者)
町のシンボルである、紙の神様をまつった大瀧神社を製紙所の方が案内してくれる短いツアーも(撮影:筆者)

この現場を歩くだけでも、歴史ある紙漉きの町の風情を楽しめるが、工房をのぞくと新しい技術にも遭遇する。

長田製紙所では四代目の長田和也氏がランプシェード用の紙づくりを行っていた。従来の手漉きとは違って三椏(ミツマタ)などが混ぜ込まれた和紙の原料を、飴細工のようにチューブ先で描いていく、自身が新たに開発した製法。見学用の実演ではなく実際に仕事している現場を間近で見ることができ、職人と自由に会話できる素朴さと楽しさがある。工房にしつらえられた店舗では、完成品を購入することも可能。

長田製紙所では四代目の長田和也氏(撮影:筆者)
長田製紙所では四代目の長田和也氏(撮影:筆者)
山次製紙所の山下寛也氏(撮影:筆者)
山次製紙所の山下寛也氏(撮影:筆者)

「やなせ和紙」でも工房を開放し、紙漉きの実演や、和紙で立体的な形をつくったという小物入れなどの新製品を展示。訪問者が和紙づくりを体験できるワークショップも行われた。

手漉き和紙の昔ながらの製法から最新の和紙づくりまで、工房ごとに幅広い特色を見ることのできる面白さがある。一般客にも開放されていた問屋「杉原商店」での夜の交流会では、和紙職人による民俗唄を聞くこともできた。やなせ和紙の柳瀬藤志子は、こう話していた。

「和紙をつくるのにどれだけ手間がかかっているかを知ってもらうだけで、わぁなんでこんな高いん?って思われなくなると思うんですよね。実際に見たり、手でふれてみることが大事なんかなぁって。私たちも農家が苦労していることを知ったら、何十円だか野菜が高くても高いとは思わない。本格的には今年からやけど、RENEWは貴重な機会になる」

一流の職人と身近に接することのできる希少さ

この道何十年の腕利きの職人と、身近な距離で接することのできる貴重さもある。

河和田地区の越前漆器エリアでは、長年東京の高級料亭に漆器をおさめている「錦古里(きんこり)漆器店」のご主人に直接漆塗りを教えてもらうことのできる体験も行われていた。プロの職人が素人に、自分の仕事場や道具を提供することに抵抗はないのだろうか?

越前漆器の塗師、錦古里正孝(きんこり・まさたか)さん(撮影:筆者)
越前漆器の塗師、錦古里正孝(きんこり・まさたか)さん(撮影:筆者)

「全然そんな感覚はないです。関心のある人が来てくれるから、こちらも話していてとても楽しい」と、見事な塗りの仕事を目の前で見せてくれて、漆器の良し悪しを決めるポイントなど詳しく解説してくれた。直接職人と接し、背景を知ると、使いたくなるし、欲しくもなる。今後の生活に役立つ知識も得られる。

ほかにも蒔絵の絵付け体験や、形や塗り仕上げを選び、オーダーメイドで漆器をつくることのできる「オンリー椀」のサービスを展開する木地工房など、同じ「漆器」でも、新旧さまざまな取り組みが混在しているのが面白い。

お客さんはより、生っぽいモノを求めている

さらに今年は特別企画として「まち/ひと/しごと-Localism Expo Fukui-」を開催。全国各地の、ローカルを拠点にものづくりを行う21の店や活動を紹介するショップ型の博覧会や、トークイベントも行われた。そこでは、九州から東北までの先進的なものづくりの企業が集まり、新たなモノの売り方、地域文化を商品として発信する方法などの話が展開された。

「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」の展示会場(撮影:筆者)
「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」の展示会場(撮影:筆者)

新山「目指しているのは、ものづくりを志す若者の聖地。そのために外から訪れるファンを増やすアウターブランディングと、地域の熱量をつくるインナーブランディングの両方が必要だと思っていて。4年間やってきて、今年は一番手応えが大きかった。丹南エリア7つの産業すべて、民間手動でイベントをつくれたこと。そして、出展者の本気度が上がってきて自発的ないろんな動きが起こってきているのが泣けるほど嬉しいことでした」

各工房や店舗の主体性が上がったことで、訪れたお客さんからの評判も良かったのかもしれない。

SNSが普及し、一般のお客さんからも、つくり手のことが見えやすくなっている。どんな人がどんな場所で、どんな技術を用いてものづくりをしているのか。知りたいと思う人が増え、知った上で欲しいと思う。最近、とある繊維工房の方に話を聞く中で、次のような話もあった。

「野菜をスーパーではなく直売所で買いたい人が増えているのと同じように、洋服などのモノも、より生っぽいもの、つくり手に近いモノを欲しいお客さんが増えている気がします。工房を直接見に訪れたり、作り手の話を聞きに来てくれる。モノを買うだけでなく体験も含めて買うような感覚に近い」

(撮影:Tsutomu Ogino)
(撮影:Tsutomu Ogino)
木地工房「ろくろ舎」に集まった人たちが、熱心に漆の映像を見ているところ(撮影:Tsutomu Ogino)
木地工房「ろくろ舎」に集まった人たちが、熱心に漆の映像を見ているところ(撮影:Tsutomu Ogino)

モノをつくる人、売る人、の「人」が大事という話も。先述の漆の塗師錦古里さんは、来年春には一年を通して見学や予約制で体験にも応じられるよう工房を改装する予定。少しずつ仕事を収束させていくつもりだったが、RENEWによって大きく考え方が変わったのだという。

直販の割合は数にすればそれほど多くなかったとしても、ブランディングの意味は大きい。さらに職人のやる気やエネルギーにつながれば、産地に活気が蘇る。RENEWは、結果として多くの人の気持に火をつけるきっかけを提供しているのかもしれない。

(参考)福井新聞オンライン(2018年9月14日「進化するRENEW 企業数最多/越前焼産地にもエリア拡大」)