政府目標の「父親の家事・育児を1日150分」達成するための労働時間を試算
父親の育児・家事参加を阻む長時間労働
母親の産後うつ予防や子どもの発達の促進、女性の社会進出、少子化の抑止など、ポジティブな効果が期待される父親の育児参加。内閣府は「6歳未満の子どもをもつ父親の家事・育児関連時間」を、2011年の1日平均67分から、2020年までに1日150分にする目標を立てていました。
まだ結果は発表されていませんが、これまでの家事・育児時間の推移を見る限り、2020年までの達成は難しい状況です。「子育てに積極的に関わりたい」「プライベートを大事にしたい」という男性は増えているのになぜでしょうか?
まず、子育てを自分の役割と考えている男性は一部にすぎず、「男は仕事、女は家事・育児」という意識の男性はまだ多いということが考えられます。しかし、「令和元年版 男女共同参画白書」によると、「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきだ」という考え方に対して「そう思う」または「どちらかというとそう思う」と答えた男性は、30代では24%、40代では22%と、どちらかというと少数派でした(ただし、このような質問に対して、大抵の人は社会的に望ましい方向で回答しますので、過少評価されている可能性はあります)。
意識の問題がそこまで大きくないとすると、長時間労働などの社会環境が大きく影響していると考えられます。日本は世界でも「働きすぎの国」として有名で、過労死は英語で「Karoshi」として通じてしまう、不名誉な状況にあります。過労死ラインと呼ばれる週60時間(1日12時間)の労働を行っている男性は、子育て世代の30・40代で多く、全体の14%にも上ります(内閣府「令和元年版男女共同参画白書」)。このような状況では、父親に対していくら「家事や育児に参加しましょう」と啓発を行っても、無理筋というものです。
では、家事や育児に関わるには、仕事に関わる時間をどのくらいにすると良いのでしょうか?このたび、厚生労働省の研究班(代表 国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部、部長・竹原健二)の仲間とともに、父親の1日の生活時間を分析し、政府目標の1日150分の家事・育児を実現するための仕事関連時間を推計したので、ご紹介したいと思います。
父親の1日の生活時間の内訳
今回、分析に用いたのは総務省が実施している「社会生活基本調査(2016年)」です。この調査に参加した人のうち、(1)末子が未就学児、(2)夫婦と子どもの世帯、(3)就業している、といった条件を満たした父親3,755名を対象として、仕事がある日の1日の生活時間を分析しました。
生活時間は、「仕事関連時間(仕事、通勤)」、「家事・育児関連時間(家事、育児、介護、買い物)」、「1次活動時間(睡眠や食事、入浴など身の回りの用事)」、「休息・その他の時間(娯楽・自由時間など)」の4つに分けました。
まず、全体の傾向として、「仕事関連時間」が12時間以上の父親は、全体の36%に上りました。そして、「仕事関連時間」が長いほど、「家事・育児関連時間」が短くなる傾向が見られました(下図)。
次に、「1次活動時間」や「休息・その他の時間」は、人間らしく生きていく上で最低どのくらい必要なのかを検討しました。「1次活動時間」については、仕事関連時間が過労死ラインを超えない9時間から12時間未満の父親で10時間前後費やしていることから、10時間程度必要であると判断しました。
「休息・その他の時間」については、仕事関連時間が9時間から12時間未満の父親でおよそ2時間半以上費やしていましたが、これまでの研究で、未就学児を持つ女性の自由時間が2時間15分であったことを踏まえ、2時間程度必要であると判断しました。
24時間から、「1次活動時間」10時間、「休息・その他の時間」2時間、「家事・育児関連時間」2.5時間(150分)を引くと、残りは9.5時間になります。つまり、「仕事関連時間」は9.5時間まで減らさないと、政府目標1日150分の家事・育児時間を達成できないことになります。
仕事関連時間を9.5時間以内にするには
仕事関連時間には通勤時間も含まれますから、これを9.5時間以内にするとなると、通勤時間が片道1時間近くになる都市部では、定時を少し過ぎた時間に退社するイメージとなります。残業が当たり前の現状からは「いやいや無理だろう」と感じる男性も多いでしょう。
ではどうしたら良いのでしょうか。企業はまず、週に2日程度の定時退社制度を導入してはいかがでしょうか。同時に、業務を効率化し生産性を向上したり、残業ありきの給与体系を見直したりしながら、徐々に目標に近づけていくと良いのではないでしょうか。通勤時間の長い都市部では、リモートワークなどで通勤時間を短縮することが有効でしょう。労働時間の短縮により夫の給与が減ってしまう場合には、夫のみで家計を支えるのではなく、夫婦で支えるという発想にシフトするのも一案です。
冒頭でもお伝えしたように、父親の育児参加は、女性の社会進出や少子化の抑止、つまりは労働力人口の維持にもつながりうるものです。長期的には企業にとってもメリットのあることですから、父親が家事や育児に参加できるように、働き方改革をお願いしたいものです。
なお、今回ご紹介した研究(筆頭著者:国立成育医療研究センター 研究所政策科学研究部、研究員・大塚美耶子)は、「厚生の指標」第68巻15号の24~30ページに掲載されています。