今の「グッチ」に見る“タイムレス”“ジェンダーレス”“ファーフリー”の新しい考え方

「グッチ」2018-19年秋冬コレクション(写真:ロイター/アフロ)

 「グッチ(GUCCI)」にアレッサンドロ・ミケーレ=クリエイティブ・ディレクターが就任し3年が過ぎたが、これほど大きな変化を遂げ成功しているブランドはそう多くない。彼の強みは、何と言っても国や文化、時代、性別を飛び越え、それらを自由に混ぜ合わせる装飾的なスタイルとファンタジーのような世界観。2月にミラノで行われた2018-19年秋冬コレクションのショーでは、歩くモデルが自分の顔にそっくりな“生首”やドラゴンを持っていたり、奇妙な目出し帽や宗教的なターバンを被ったモデルがいたり。そんなエキセントリックなデザインや演出ばかりが取り上げられがちだが、彼の就任以降、業績も絶好調だ。2017年の通期決算では売上高が前年比41.8%増の62億1120万ユーロと、就任前の14年の約35億ユーロに比べ驚異的な伸びを見せている。それだけでなく、ミケーレによる「グッチ」は、われわれに新たな価値観や考え方を提案し、時代を牽引している。実際、ミラノ・ファッション・ウィークに先立って取り組んだWWD JAPAN.COMのインタビュー記事の翻訳とミラノでの取材は、“タイムレス”“ジェンダーレス”“ファーフリー”に対して考えるきっかけになった。

変わらないのに攻めている新しい“タイムレス”

 新しいものを求めがちなファッション業界では、“タイムレス”という言葉はこれまでコンサバティブ(保守的)なブランドを評するのに用いられることが多かったように思う。ミケーレはそこに新たな解釈をもたらした。「WWD」のインタビューで「コレクションは映画の衣装のようなものであり、毎シーズン見せているのは映画の一章のようなもの」と彼自身も語っているように、現在の「グッチ」のコレクションは、シーズンごとに方向性は大きく変わらない。18-19年秋冬もこれまでと比べてオリエンタルな要素が減り、アメリカや中東的な要素が強まったものの、レイヤードを軸にした装飾的なスタイルは引き続き。ストライプシャツやメジャーリーグのロゴをワンポイントにしたコートなど着やすいものもミックスされているが、コーディネートとして見ると相変わらず攻めている。ただ、常に一貫した世界観の上にあるため、いつのシーズンのアイテムかすぐには分からず、デザイン性の強いアイテムもシーズンを超えて組み合わせることができる。むしろ、それを自由に楽しんでほしいというのがミケーレの考えで、それが“タイムレス”の新しい価値観につながっていると感じる。

中性的とは異なる“ジェンダーレス”

 ミケーレは2015年のデビュー・コレクションから停滞気味だったミラノ・ファッション・ウィークに新風を吹き込んだ。一番印象的だったのは、肉体美を基本としたイタリアファッションの根強い価値観を打ち砕いたことだ。それまでもパリやロンドンにアンドロジナス(中性的)なスタイルを見せるブランドはあった。しかし、ミケーレの「グッチ」は、“男性だからこうあるべき”“女性だからこうしなければ”という固定観念にとらわれることなく、いいと思うものはどちらのデザインにも取り入れる自由で分け隔てのないアプローチが新しい。そこには、世間の目よりも自分らしさを大切にして、自分がいいと思うものを自由に選べばいいという“ジェンダーレス”へのメッセージが込められているように思う。さらに、2017-18年秋冬からは他ブランドに先駆けてメンズ・コレクションとウィメンズ・コレクションのショーを統合し、彼の打ち出す世界観やメッセージ性をさらに強めている。

ファー好きなのに“ファーフリー”を宣言

 昨年10月に「グッチ」がリアルファーの使用を中止する“ファーフリー”を発表した時は正直驚いた。というのも、“ファーフリー”宣言を行うブランドは近年増加しているが、もともとミラノにはファーを扱うブランドが多く、「グッチ」も毎シーズンのようにショーでファーコートを披露したり、人気のシューズ“プリンスタウン”の内側にファーを使用していたりしたからだ。中止の理由について、「個人的にはファーが好きだし、われわれの文化の中にはファーの長い歴史がある」としながらも「ファーの使用を止めることは、“禁煙”と似ていると思った」と語っているのユニークで、ミケーレらしい。そして、すぐに代替素材の開発を進めたといい、2017-18年秋冬コレクションでは早速リアルファーに代わるファーライクなアイテムが提案されていた(使用中止は一部を除き18年春夏コレクションから)。代替素材も、防寒のためではなく装飾やデザインとして用いるのであれば、もはや十分なクオリティーに達しているように思う。ただ、ファーの使用についてはさまざまな意見があり、一概に何が正しいかというのは難しい。しかし、「グッチ」のような影響力のあるブランドの動向は、今後も業界全体に影響を与えるだろう。