「ルイ・ヴィトン」メンズに「オフ-ホワイト」のヴァージル・アブロー起用は吉と出るのか?

ヴァージル・アブロー「ルイ・ヴィトン」新メンズ・アーティスティック・ディレクター(写真:Shutterstock/アフロ)

 ラグジュアリー・ファッションにおいてもストリートの影響が強まる中、時代の変化を決定づけるデザイナー人事が発表された。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が、メンズ・コレクションのトップに「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH、以下オフ-ホワイト)」を手掛けるヴァージル・アブローを起用したのだ。自身のブランドが若い男性を中心に人気を集めているアブローだが、ファッションを専門的に学んだ経歴はない。そんな彼の就任は、多くの業界人を驚かせた。

夢見続けてきたメゾンでの仕事

 しかし、アブローは自分の夢を叶えるために着実に歩みを進めてきたとも言える。2014年夏に来日した彼に取材した時、彼は「自分にとってのゴールはビッグメゾン(ラグジュアリー・ブランド)で働くこと」だと語っていた。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリアや「グッチ(GUCCI)」のアレッサンドロ・ミケーレのようなストリートを感じさせるクリエイションで見せるデザイナーたちがトップを担うようになったという時代の追い風もあるが、彼自身も目標をぶらさずに一歩ずつスターダムへの階段を上ってきたのだ。

 1980年にアメリカ・イリノイ州で生まれたアブローは、大学では土木工学、大学院では建築学を専攻。DJやカニエ・ウエストのクリエイティブ・ディレクターを務める傍ら、2012年に「オフ-ホワイト」の前身となる「パイレックス ヴィジョン(PYREX VISION)」を発表し、本格的にファッション業界での活動を始めた。「オフ-ホワイト」では初期から、一定の商品ラインアップを扱えるショップに販路を絞り、強いブランドの世界観と希少性で熱狂的なファンを獲得。現在、セレクトショップなどでの卸に加え、世界にある単独店や百貨店内のコーナーは24を数えるまでに拡大している。

 また、15年にはLVMHの若手発掘コンテスト「LVMHプライズ」でファイナリストに選ばれた他、メンズとウィメンズのパリ・ファッション・ウィークでのショー発表をスタート。「ナイキ(NIKE)」「モンクレール(MONCLER)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」「イケア(IKEA)」など、スポーツからラグジュアリーまで幅広いブランドとのコラボも行い、大きなバズを起こし続けている。今夏にはLVMH傘下のラゲージブランド「リモワ(RIMOWA)」とのコラボアイテムが発売されることも発表された。

期待と不安が入り混じるアブローの就任

 今回の就任は個人的にももちろん驚きだったし、否定的な反応や懐疑的な意見が多いのも事実だ。従来のラグジュアリー・ブランドの価値観に照らすと、ファッションデザインを専門的に学んでおらず、新たなものを生み出すクリエイティビティーというより既存のもののアレンジやリミックスに長けるアブローは不適当かもしれない。しかし、今の一般的な消費者は玄人向けのデザインよりも分かりやすいものを求める傾向にある。また、アブローがヒットアイテムやバズを生み出すプロデュース力やディレクション力を持っていることはこれまでの実績で証明済みで、彼のアイデアとそれを支える「ルイ・ヴィトン」の優秀なクリエイティブチームがうまく化学反応を起こせば、クリエイティブかつ売れるコレクションが生まれる可能性は十分ある。ビジネス視点で考えても、「ルイ・ヴィトン」は確実に新たな顧客、それも次世代の消費を担うと言われているミレニアルズやジェネレーションZの若者を獲得することができるだろう。それに加えて、現在のメンズファッション全体の流れを踏まえると、このタイミングでアブローが選ばれたことは理にかなっているように思える。

 正直なところ、「ルイ・ヴィトン」とアブローの長期的な関係はまだ想像がつかないが、6月に披露される初のコレクションがどんなものになるのかは楽しみだ。デザインそのものだけではなく、その演出や、デジタルとアナログ両面での露出の仕方、販売方法に至るまで、彼らしい既存の価値観を打ち砕くアプローチで我々をアッと驚かせるのではないだろうか。世界最大のラグジュアリー・ブランドのメンズ・コレクションが異色のアーティスティック・ディレクターによってどのような方向に導かれるのか、そして、ファッション業界全体にどのような影響を及ぼすのか、非常に興味深い。