「セリーヌ」を人気ブランドに押し上げたフィービー・ファイロ退任の衝撃 

「セリーヌ」2016-17年秋冬ショーのフィナーレに登場したフィービー・ファイロ(写真:Shutterstock/アフロ)

 フランスのラグジュアリーブランド「セリーヌ(CELINE)」を手掛けるフィービー・ファイロ=クリエイティブ・ディレクターが、来年3月に発表する2018年プレ・フォール・コレクションを最後に退任する。すぐに他のブランドに移籍する予定はないという。08年に就任以来、マルコ・ゴベッティ現バーバリーCEOと共に「セリーヌ」を一躍人気ブランドに押し上げた彼女の退任は、すでに噂されていたとはいえ、ファッション業界に大きな衝撃を与えた。

 さまざまなメディアが取り上げる中で興味深かったのは、ファッション批評家のキャシー・ホーリンが米ウェブサイト「THE CUT」に寄稿した「Phoebe Philo and the Death of Leisure Time. Philo is a designer for a slower era.」という記事だ。ホーリンによると、「ファイロは多くを語るデザイナーではないが、それは同時に想像する自由を与えてくれる。彼女の作る服は単に女性のためのものというだけでなく、女性とは何かを表しているもの。気晴らしや日課、着こなし、グラマーに対する遠回しな欲、ベーシックの軽蔑、ユニフォームへの愛、知恵、成熟さ、その全てが毎シーズンのコレクションで表現されている」と。そして、「彼女の旅立ちはファッションにおいて重大な分岐点になる。今後、我々は女性の感情や経験、年齢などの幅広い領域を尊重したデザインを見ることが減るだろう」という。

 確かにファイロは、現代女性に寄り添うだけでなく、新しい価値観を提案してきた。その背景には、自身のライフスタイルを大切にしていることがあるように思う。彼女は2006年、家族との時間を優先するため、当時務めていた「クロエ」のクリエイティブ・ディレクターを退任。その2年後に「セリーヌ」に加わる際にも、同ブランドの拠点であるパリではなく、家族と暮らすロンドンにデザインスタジオを置くことを実現させた(こういったケースはラグジュアリーブランドでは極めて珍しい)。ファイロは才能溢れるデザイナーであると同時に、母であり妻であることを尊重してきた。そんな彼女だからこそ、これほどまでに多くの女性から共感や支持を得ることができたのだろう。

 そして、ファイロのインスピレーション源は日常生活の中にある。それは、都会で働く女性であったり、子供のお迎えに行く母親であったり、現代社会を映し出している。しかし、そこに独創的なアイデアやウィットを加えて表現することで、我々にいつも驚きやワクワクを与えてくれた。ホーリンは「ファイロはおそらくもうファッション業界に戻ってこないだろう」と推測し、「彼女がファッション以外の挑戦に力を注ぐ姿が想像できる」と語っているが、個人的にはまたファイロがファッションを通して、我々を楽しませてくれる日を待ちたい。