バーバリーを去るクリストファー・ベイリーの功績 英国らしさの追求とデジタル化の推進

ショーのフィナーレに登場したクリストファー・ベイリー(写真:ロイター/アフロ)

 英国の老舗バーバリー(BURBERRY)のプレジデント兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めるクリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)が17年間在籍した同社を去ることが発表された。2018年3月で現職を辞任し、その後はマルコ・ゴベッティ(Marco Gobbetti)CEOとデザインチームのサポートを続けて、年末で退社するという。ライセンスやトレンチコートなどのアウターウエアを主軸にしたビジネスからインターナショナルなラグジュアリーブランドへの転換を支えてきた功績は非常に大きく、彼が去った後のブランドの動向にも注目が集まっている。

 1971年、ヨークシャーで生まれたベイリーは、ロンドンのウエストミンスター大学でファッションデザインを学んだ後、名門ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの修士課程を修了。卒業後は、ダナ キャラン(DONNA KARAN)とグッチ(GUCCI)でデザイナーとしての経験を積み、2001年にバーバリーに入社した。その後、2009年にはチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任。現在アップルのリテール部門のシニア・ヴァイス・プレジデントを務めるアンジェラ・アーレンツ(Angela Ahrendts)元CEOと共に改革を推し進めてきた。そして、彼女が去った2014年5月からゴベッティ新CEOが就任した2017年7月までは、クリエイティブ面を統括するチーフ・クリエイティブ・オフィサー職に加え、ビジネスの舵取りを担うCEO職を兼務。異例の抜擢ではあったが、経営のプロとしての経験がない彼にとってCEOの職務は荷が重かったのかもしれない。新CEO就任後は、プレジデントとして経営戦略にも関わりつつ、よりクリエイションに力を注いでおり、9月に行った新コレクションのショーは心動かされる素晴らしいものだっただけに、退任の発表は正直非常に残念だ。

クリストファー・ベイリーの功績とは?

 

 バーバリーでの功績は、ベイリーを同社に迎えたローズ・マリー・ブラボー(Rose Marie Bravo)元CEOとその後を継いだアーレンツ元CEOの存在なしに語ることはできないが、彼がいなければここまでの変化は成し遂げられなかっただろう。ベイリーが入社した頃、英国では“チャヴ”と呼ばれる反社会的な労働者階級の若者が“バーバリー・チェック”のキャップなどのアイテムをこぞって着用していたことからブランドイメージは地に落ちていた。そこからラグジュアリーブランドとしての新たなイメージを作り上げるのは容易くはなかったはずだ。

 ベイリーは英国ブランドとしてのDNAやルーツに敬意を払いつつ、時代の潮流を読み取り、さまざまな手法で形にしてきた。そんな彼のクリエイションとブランディングの手腕が一際注目を集めるようになったのは、おそらく2009年頃から。毎シーズン発表するコレクションでは、アートや歴史などのインスピレーション源からアイテムや使用する素材に至るまで、さまざまな形で“英国らしさ”を表現。英国の若手ミュージシャンとのつながりも深く、ショーや広告ビジュアルのモデルに起用したり、ショーやイベントで演奏する機会を与えることで、ブランドに若々しくクリエイティブなエネルギーを注入した。2010年には、新たな才能の発掘と支援を行うための音楽プロジェクト「バーバリー・アコースティック」も始動。ベイリー自身がアーティストのセレクトを手掛け、音楽を通してブランドの世界観を描いてきた。

 さらに、自身もテクノロジーに強い関心を持っているベイリーはデジタルを活用した施策を次々に打ち出してきた。2009年には、今では一般的になっているファッションショーのインターネットでのライブストリーミングをいち早く開始。翌年には、世界の旗艦店でライブ配信のイベントを開催し、ショー終了後に披露したばかりのアイテムを期間限定でオーダーできる取り組みも始めた。ショーでの発表から発売までには半年程度かかるのが普通だった当時、オーダーから7週間で届くというのは画期的だったと記憶している。また、ツイッターやスナップチャットを使ってコレクションの模様をリアルタイム発信するなど、時代に合わせてSNSも積極的に活用してきた。

 ブランドを象徴するアイテムであるトレンチコートにおいても、2009年に世界中の人々がトレンチの着こなしを投稿しシェアできるウェブサイト「アート・オブ・トレンチ」を開設。2011年には、ウェブサイトでトレンチのカスタムオーダーを行える「バーバリー・ビスポーク」をスタートした。“SNS活用”や“パーソナライズ”など、ファッションブランドにとって今では当たり前の施策に早くから取り組んでいたことが分かる。

 そして、ブランドイメージの一貫を図るため、2015年にはバーバリー プローサム(BURBERRY PRORSUM)、バーバリー ロンドン(BURBERRY LONDON)、バーバリー ブリット(BURBERRY BRIT)と3つに分かれていたブランドをバーバリーに統合。日本では、三陽商会とのライセンス契約を終了し、直営展開に切り替えた。さらに2016年9月からは、従来別々に開催していたメンズとウィメンズのショーを一本化。ショーで発表したアイテムを終了後すぐにオンラインと店舗で発売する、いわゆる“See Now, Buy Now(見てすぐ買える)”体制に移行した。現在のバーバリーは、21世紀のラグジュアリーブランドの在り方を考える上で欠かせない存在になっている。

後任は一体誰になるのか?

 今回発表されたリリースにもゴベッティCEOは「ベイリーの決断を尊重し、後任探しを始める」と書かれており、英国を始め欧米のメディアでは早くも“後任は誰なのか?”の推測が始まっている。中でも有力視されているのは、フランスのラグジュアリーブランド、セリーヌ(CELINE)のクリエイティブ・ディレクターを務めるフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)。2008年から同ブランドを手掛ける彼女には度々退任の噂が浮上しており、最近では10月中旬に英ファッションメディアの「ビジネス・オブ・ファッション(Business of Fashion)」が業界筋からの情報をベースに報じたところだ。しかも、ゴベッティCEOの前職はセリーヌのCEOであり、ファイロは彼と共に低迷していたブランドを立て直し、トレンドセッターに押し上げた実績がある。ファッションブランドを成功に導くために、CEOとデザイナーの二人三脚は必須。そういった意味でもファイロは適任だと言えるだろう。噂の真否が明らかになるまでにはまだ時間がかかりそうだが、ファッション業界にとって大きなニュースになることは確かだ。