7か国を対象とした調査で、日本のみ修士、博士の取得者数が減少に転じていることが明らかとなり波紋を呼んでいます(文部科学省科学技術・学術政策研究所調査)。

【参考リンク】修士・博士 日本だけ減少…研究力衰退あらわ 7カ国調査

理由としては報道にもあるように、大学の正規ポストに就く人間の既得権を全面的に保護したまま若手のみ任期付きの研究員待遇を増やしたことで学生から敬遠されたことが一因でしょう。ただ、それ以上に、民間企業が修士以上を採用したがらないという構造的な理由が大きいというのが筆者の見方です。

「平成30年度学校基本調査」によると「博士課程修了者に占める就職者の割合」は67.7%、修士課程は86.2%、学部卒は86.6%ですから「上に行けば行くほど就職できなくなる」状況と言えるでしょう(修士学士は進学数を除く)。

各国と比較すると、日本企業の博士嫌いはさらに際立ちます。企業の研究職における博士号取得者の割合は、米国やオーストラリアの半数以下にとどまります(グラフ、文科省「博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて」参考資料より)。

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なぜ日本企業は博士を敬遠するのでしょうか。

年功序列制度では若いほど有利

日本企業の多くは今でも年功序列制度をベースとして運用しています。このシステムでは年齢をベースに処遇を決めるため、28歳の博士号取得者が入社した場合、22歳で入社して6年間働いている学部卒と同じだけのパフォーマンスを発揮することが求められることになります。専門分野でどれだけ優秀な博士でもそれはなかなか難しいはずです。

また、その後のキャリアにも年齢は大きく影響します。一般的な大企業なら、たとえば管理職登用に「35歳から40歳まで」といった内規が存在するものですが、28歳に博士は学士と比較して6年少ない勤続年数でそのレンジ内で課長昇格しないといけないわけです。

実際、筆者自身も「最初から課長の芽がないような新人を配属するな!」と、博士を配属した事業部からクレームを受けた経験もあります。

まとめると、こうした年功序列カルチャーを企業が見直さない限り、特に文系で大学院に進学しようと考える学生が増えることはありえないでしょう。政府が無理に進学数だけを底上げするなら、大量の就職難民が発生するリスクもあります。

「これ以上の教育は必要ない」と考える日本人は少なくない

一方で、それほど悲観的になる必要はないという見方もあります。そもそも高等教育には「優秀な人材だと企業に見せるシグナリング効果」しかなく、進学率を上げても経済が成長するわけではないという考えです。

実際、「自分の仕事は自分の学歴や資格に見合わないレベルのものだ」と考える日本人は、先進国中トップレベルの水準に上るとする調査もあります。日本人は「仕事で使わないんだからこれ以上勉強する必要はないだろう」と冷静に判断出来ているとも言えるでしょう。

【参考リンク】高等教育無償化は、一体何を目的に行うのか

いずれにせよ、世界的に学歴がインフレ化し、MBAや海外大学院留学等で教育コストが高騰する中、日本だけは学歴においても“デフレ”が進行中であるということは言えるでしょう。