経団連が2018年の春闘に向けた指針の中で「3%の賃上げ方針」を明記したことが話題となりました。労働組合が目標として掲げることはあっても、経営側が方針として提示することは異例中の異例と言っていいでしょう。では、この経団連の異例の方針はどこまで実効性を持つものなのでしょうか。

終身雇用を前提とするため、日本企業の労使は雇用の維持を最優先に労使交渉するという強い特徴があります。具体的に言えば「その賃金水準で20年先も従業員の雇用を守れるか」というスタンスです。20年先の経営状況をどう予測しているかは会社によりけりなので、経団連のような団体が一律で決められるものではありません。「3%の賃上げ指針明記」というのは、おそらく経団連にとってはとりうる最大限の努力と言っていいでしょう。

どの程度の実効性があるか

多くの企業が最高益を更新する中、企業の賃上げ余地は十分あります。

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また、昨年から続く残業自粛の影響で減った残業手当分を還元できる余地もあります。ただし、多くの労使が10年先20年先に強い不透明感を抱いており、固定費の増加となる賃上げには及び腰だとの印象があります。残念ながら3%の賃上げは浸透せず、払うにしても状況に応じて見直しの可能なボーナスでの支払いにシフトする企業が中心ではないでしょうか。

賃上げには何が必要か

政府に出来ることは、企業の将来的な見通しを上向かせるための人口減対策、規制緩和による経済活動の活性化などが挙げられます。また、不況時に柔軟に人件費を見直せる解雇規制緩和も、短期的な賃上げには非常に有効でしょう。

ただし、そうした改革という点では驚くべきことに安倍政権はほとんど全く何も実現できていません。近年、総理の春闘での賃上げ要請が話題となっていますが、有権者に対する「頑張ってますPR」と言われても仕方ないでしょう。

安倍政権の鬼門は社会保険料?

ただ、賃金が上がらないことに対する政権の危機感は本物だと筆者は考えています。消費税引き上げは総理によって二度見送られたものの、その間も一貫して社会保険料は引き上げられ続けています。また、昨年にきまった教育無償化コスト3千億円の社会保険料への付け替えも、今後サラリーマンの賃上げに対する下押し圧力として加わってくることは確実でしょう。要するに、消費税で取れない分をサラリーマンにこっそり保険料として負担させているわけです。

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思い切って社会保障の見直しに踏み込まない限り、多少の賃上げは帳消しにするほどの社会保険料の負担増が続き、実感なき景気回復と呼ばれる奇妙な状況が今後も続くでしょう。そういう意味では、今年の春闘は意外に政権にとって鬼門となるかもしれません。

賃上げ要請に応じない企業が多ければ、可処分所得の減少を通じて現政権の政策に疑問を持つ中間層がサラリーマン中心に増えることが予想されるからです。アベノミクスの本質が「痛みを伴わない政策に見せかけつつ取りやすい所から取る」ものであると多くの人が気づいた時こそ、政権にとって本当の意味での逆風となるはずです。