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残業手当をいっぱい支給された時に読む話

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

安倍政権の“残業代ゼロ法案”の影響か、ネットやメディアで残業というキーワードが飛び交っています。でも、多くの人は残業代という一面しか見ていないようにも見えます。というわけで、今回は残業の持つ副作用についてまとめてみたいと思います。確かにいっぱい残業した翌月にまとまった金額の残業手当が振り込まれているのは気分のよいものですが、キャリアを形成していくうえで、それは危険な罠でもあるのです。

残業が危険な4つの理由

筆者が「残業は危険な罠だ」と考える理由は以下の4つです。

1. 残業は達成感を与えてくれる

「何かをやらないといけないけれども、何を頑張ればよいのかわからない」という人はとても多いと思いますが、残業はとりあえず一定の達成感は無条件で与えてくれます。ぶっちゃけ日中はだらだら仕事してるだけでも、21時過ぎに帰るとなんだか頑張った気になるし、久しぶりに会った同期に「俺さあ、先月も100時間残業しちゃったんだよねえ」と言えばすごいエリートビジネスマンになった気分になれます。

同じような取り扱い注意の危険物に、K間K代先生の一連の著作があげられますね。ああしたビジネス書もやはり「何を頑張ればいいかわからないけれども、とりあえず頑張ったという達成感が欲しい」という層を対象としていて、そういう人が1時間くらいかけて読み終えると、なんとなく自分が成長したような気分になれます(逆に明確な目的意識がある人が読むと強い徒労感に見舞われますが)

2. 残業は免罪符を与えてくれる

同時に、残業は、他のやるべきことをやらずにすむ免罪符にもなります。何万円もかけて買った英会話の教材をほったらかしにしたり、恋人と最近おざなりになっていたり、家族サービスをやらないための理由として、残業はしばしば大活躍してくれます。

「あなた、土曜日にマンションの役員会があるんだけど」

「ごめん、ちょっと仕事溜まっててさ。悪いけど出といてよ」

と言いつつ会社で雑誌読んでる人間を筆者は何人も知っています。

3. 残業は主導権を与えてくれる

これは時と場合によります。もちろん、こっちの都合などお構いなしに降ってくる残業も多いでしょう。でも、こちらの都合で、必要な分だけ行える残業があるのもまた事実です。普段は忙しそうに夜遅くまで席に座っているのに、管理職の不在時や12月24日だけは涼しそうな顔をして定時で帰る人は、イニシアチブをもって残業を活用しているに違いありません。

4.残業は裏切らない

そして、残業の持つもっとも危険な側面は、残業がけして裏切らないということです。クリエイターであれば、何時間机に向かっても成果ゼロなんてことは珍しくもありません。そして、それは本来のホワイトカラーも同様のはず。コールセンターや対面販売業で働く人はともかく、それ以外の事務職は、時間と成果にはなんの関係もない世界で勝負しているはずです。

でも、残業はどんな人に対しても、どんな結果であっても、常に残業代というご褒美を与えてくれます。「自分はこんなに頑張っているのに、上司も同僚も誰も評価してくれない」というめんどくさい人に対しても、残業は優しく微笑んでくれるのです。

似たようなものにウェイトトレーニングがありますね。スポーツだと練習しても上手くなるかどうかはわかりませんが、ウェイトはやればやるだけ成果が出ますから、はまる人はどっぷりはまる中毒性を持っています。最初はスポーツの練習の一環として始めたのに、今では鳥のささみを会社に持参して食べている人を、やっぱり筆者は何人か知っていますね。

まとめると、残業は、それ自体が一定の達成感、充実感を与えてくれ、ある程度イニシアチブをもって活用でき、しかも報酬までセットになってついてくる優れものだということです。

「それはそれでいいじゃないか」と思う人もいるでしょう。でも、長い目で見て、それで本当に自分の望むキャリアを身に着けることが出来るでしょうか。「寝てないからつれーわー」と言い続けて、周囲から尊敬されるビジネスパーソンになれるでしょうか?家庭や恋人をおざなりにして、幸せな人生を送れるのでしょうか?あれだけ勝間さんに貢いだカツマーが全然成功してないように見えるのは気のせいでしょうか?そして、いっぱい支給される残業代の原資は、いったい誰が負担しているのでしょうか?

「今日が人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことが本当にすべきことなのか」(=毎日、人生最後の日の覚悟で最も必要なことをやれ)というのは、ジョブズの有名な言葉です。でも、“残業”の持つ魔の魅力は、この言葉の対極、いわば暗黒面に人々をさらっていってしまうものです。これが、筆者が残業はとても危険な罠だと考える理由ですね。

以降、

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人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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