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【NHL】得点王に6度も輝いているスーパースター・オベチキン(とヘッドコーチ)の、ちょっとイイ話

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
アレックス・オベチキン(右・Courtesy:@hometownhockey_)

 サンクスギビングデー(アメリカの感謝祭の祝日・現地時間23日)を過ぎ、北米ではクリスマスへ向けて街が華やぐ季節を迎えました。

 この時期は財布の紐も緩みがち(?)とあって、サンクスギビングデーが明けた一昨日と昨日の週末に合わせ、NHLは人気チーム同士の対戦を多く組みました。

▼トロントvsワシントン

 その一つが、エアカナダセンター(カナダ・トロント)で行われた、昨夜の「トロントメイプルリーフスvsワシントンキャピタルズ」戦。

 ホームチームのトロントには、デビュー戦で史上初めてとなる4得点を記録する大暴れをして、昨季のカルダートロフィー(最優秀新人賞)を手にしたオーストン・マトュース(FW・20歳)ら若手のポイントゲッターがズラリ。

 それに対してワシントンには、モーリスリシャード(最多得点賞)に6回も輝いているアレックス・オベチキン(FW・32歳)をはじめ、実績のある主力FWが顔を連ねているとあって、大いに注目されましたが、、、

 オベチキンが今季3度目となるハットトリックを達成し、4-2のスコアでワシントンが勝利しました。

 

▼ロシア人最多記録に並ぶ

 オベチキンのハットトリックは、この日でNHL通算「20回目」

 通算20回のハットトリックは、群を抜くスピードを武器に得点を量産し、”ロシアンロケット”の異名をとったパベル・ブレ(元ニューヨークレンジャーズFW)とともに、ロシア(旧ソビエト)出身のNHL選手のハットトリック最多タイ記録。

 バンクーバーカナックス在籍時に、東京で行われた公式戦に出場。

 また長野オリンピックの代表としても来日して、銀メダルを手にするなど、日本のファンにもなじみの深い14歳年上のブレと、オベチキンは肩を並べました。

▼オベチキンからのメッセージ

 ところで、この試合に臨むにあたって、オベチキンのモチベーションを高めた少年の存在がありました。

 ナイアガラに住むアレックス・ルーイくんです。

 がんと闘い続けるルーイくんは13歳。

 アイスホッケーが大好きで、小さい頃からスティックを手に氷上でプレーしていましたが、病によって義足をつけた生活を余儀なくされてしまいました・・・。

(オベチキンの赤いジャージを着たルーイくん Courtesy:@hometownhockey_)
(オベチキンの赤いジャージを着たルーイくん Courtesy:@hometownhockey_)

 

 この話を耳にしたカナダのテレビ局が、今季の開幕直後にルーイくんを紹介

 放送に先駆けて、テレビ局から「大ファン!」だというルーイくんへのコメントを依頼されたオベチキンが、ビデオメッセージを送ったのです。

▼チームからのプレゼント

 涙を流すほど大喜びしたルーイくんを、ワシントンはナイアガラの自宅に近いトロントでのビジターゲームへ招待。

 オベチキンと同じ背番号「8」のジャージに名前を記して、プレゼントしただけでなく、試合前のドレッシングルームに招き入れ、本来はバリー・トロツヘッドコーチ(HC)が伝えるスターターの発表を、ルーイくんに託したのです。

 さらに、ウォームアップへ向かう全選手をルーイくんがグータッチで送り出し、試合を迎えました。

▼ヘッドコーチからのプレゼント!?

 そして試合の仕上げは、前述したとおりオベチキンのハットトリック!

 これにはルーイくんも大喜びだったそうですが、実はハットトリックに至ったのは、いつもと違うトロツHCの采配があったのです。

 

 NHLに限らず、アイスホッケーの試合を観戦された方は、ご覧になったことがあるかもしれませんが、試合終了が近づき1、2点差程度のリードを許しているチームは、GKをベンチへ戻して(=エンプティネット)、代わりに攻撃力のある選手を出場させ、得点を狙う全員攻撃を仕掛けるのがスタンダードな戦略です。

 この日の試合で、トロントは試合終了2分6秒前にGKをベンチへ戻し、全員攻撃を仕掛けました。

 逆にリードしているワシントンは、普段はディフェンス力の高い選手を揃えて逃げ切りを図るのですが、トロツHCは同様の状況では決して使うことのない(=得点力の高さと対照的に、守りが良いとは言えない)オベチキンを起用。

 その結果、、、

 無人のゴールにシュートを決めて、ハットトリックを達成!

 パパと抱き合って喜んでいたルーイくんの姿を見ると、ひょっとしたら、普段と違う采配も、トロツHCからのプレゼントだったのかもしれません。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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