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アイスホッケーシーズンは始まっているのに、毎年必ず試合が行われない日があるのをご存知ですか?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
追悼式に参列したウラジミール・プーチン氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

先月にご覧いただいたアイスホッケー選手は、ただ殴り合っているわけではないの記事でも紹介しましたが、ロシアのチームをはじめ、8か国から29チームが参加するヨーロッパ随一のビッグリーグ・KHL(コンチネンタルホッケーリーグ)が先月22日(現地時間)に開幕。序盤から激しい戦いが続いています。

ところが、レギュラーシーズンが始まったにもかかわらず、今日「9月7日」は、毎年必ずKHLの試合が一つも行われないことを、ご存知でしたか?

ロシアの祝日? 

それとも、アイスホッケーの功労者の誕生日?

いえいえ、そのような理由ではありません。

実は「アイスホッケーファンを悲しませる大惨事が起こった日」だからです。

5年前の今日、KHLに加盟しているロコモーティブ ヤロスラブリチームが搭乗したチャーター機が離陸に失敗。

選手、コーチ、チームスタッフ37名全員(加えて航空機のクルー8名)が、亡くなりました。

その中には、、、

東京で行われたNHLの公式戦や、長野オリンピックのベラルーシ代表として、日本のファンの前でもプレーを披露したラスラン ・サレイ

2006年にスタンレーカップを手にしたヨゼフ ・ワシチェク

NHL通算768ポイントをマークしたパボル ・デミトラ

といった面々が含まれ、KHLに限らず、NHLでも活躍し北米のファンを沸かせたり、祖国の代表として、オリンピックやワールドカップに出場していた名選手たちも、大惨事の犠牲者となってしまいました。

▼深い悲しみに暮れたヤロスラブリの人たち

チームがホームタウンとするヤロスラブリは、モスクワの近郊に位置しますが、決して大都市ではありません。

しかし、その分「おらが街の宝」として、(発足当初のトルペード ヤロスラブリ時代から)市民に愛され続け、旧ソビエト時代に始まったロシアリーグで3度の優勝に輝いたチームは、掛け値なしに「ヤロスラブリの誇り!」

それだけに、ウラジミール ・プーチン首相(当時)も駆けつけ、ホームアリーナで行われた追悼式では、深い悲しみに暮れる人たちの姿が、数多く見られました。

▼世界のアイスホッケー界から哀悼の意

航空機を利用し多くの移動を伴うのは、どのチームも同じとあって、ヤロスラブリと次の試合で対戦する予定だったディナモ ミンスク(ベラルーシ)のホームアリーナなど、ヨーロッパを中心に、世界各地で追悼セレモニーを実施。

このような経緯から、KHLは航空機事故の翌々日の予定だったレギュラーシーズンの開幕を、5日遅らせるとともに、他の23チーム(当時の加盟数)が3人ずつリストアップした選手の中から、ヤロスラブリが希望する40名程度を、無償で派遣する救済措置を提案。

しかしヤロスラブリは、地元市民の感情なども顧みて、この年のKHL参戦を断念。チームを再構築した上で、次のシーズンからの再参戦を目指す方針を、事故から3日後に発表しました。

▼新生・ロコモーティブ ヤロスラブリ誕生

KHLのチームは、次世代の選手が在籍するジュニアチームも運営し、ヤロスラブリのジュニアチームはVHLと呼ばれるリーグに加盟していました(リーグ再編に伴い現在はMHLに加盟)。

ヤロスラブリは、事故のあったシーズンの途中から、ジュニアチームの運営を再開し、翌年には、ジュニアチームで力をつけた若手と、新たに契約した選手を集めて、再びKHLに参戦。

新生・ロコモーティブ ヤロスラブリは、昨季まで4年続けてプレーオフに勝ち進んでいます。

5年前の大惨事による悲劇を忘れてはならないと、KHLは今季も「9月7日」に試合を行いません。

ここまで6試合を戦って黒星は一つだけと、開幕から好スタートを切ったヤロスラブリは、“忘れてはならない日”のあとも、ファンの期待に応える試合を見せ続けてくれるでしょうか。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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