18歳成人年齢引下げ~高校3年生は「大人」と「子ども」が混在することになります~

(写真:アフロ)

 2022年4月1日より改正民法が施行され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。

 現在の全日制高校2年生、3年生のほとんどは2022年4月1日に一斉に成年になります(高校2年生は卒業したらすぐ成年です)。成年者になると自分で様々な契約を自由に締結することができ、進路決定なども自分の意思でできるようになります。その一方で、親権者(法定代理人)の同意を得ずにした契約であっても未成年者であることを理由に取り消すことができなくなるため、トラブルに巻き込まれるおそれが懸念されています。成年者といっても18歳・19歳はまだ社会人ではなく大学や高校に在籍している人も多いため、心配している人も多いと思います。

 もっとも、これまでも成年者の大学生はたくさんいますし、高校生でも定時制や通信制では成年者の生徒も少なくないため、こうした懸念は特に新しいものではありません。しかし、全日制の高校生は異なります。18歳の誕生日を迎えた高校3年生は成年者となり、高校3年生の学年やクラスには成年者と未成年者が混在することになるため、全日制高校ではこれまでにほとんど見られなかった、同じクラスに「大人」と「子ども」が混在する光景が普通になるのです。

「大人」と「子ども」が混在するクラスでは何が起きる?

 例えば、自分で自由に契約できない未成年者の生徒が、既に誕生日を迎えて成年者になっている同じクラスの生徒に頼んでクレジットカード契約やローン契約などの親に言えば反対されるような契約をしてもらい、自分が利益を得るケースがあり得ます(いわゆる「名義借り」「名義貸し」)。

 また、成年者になった高校生同士は、親の同意を得ずに結婚することもできます。親が結婚をやめさせるように学校に頼んでも学校はやめさせることはできません。

 学校との関係も変わります。成年者になった高校生は自由に自分の進路を決定できるし、学校を退学することもできます。見方を変えれば、学校から退学するように勧告された場合でも、親の同意を得ずに退学を決めてしまったら取り消せなくなる可能性があるのです。学校にとっても高校生の成年者には学校教育法上の「保護者」は存在しなくなります(学校教育法では「親権者」を保護者としています)。

 このため、文部科学省では「成年年齢に達した生徒に係る在学中の手続等に関する留意事項について」という事務連絡やQ&Aを学校設置者に向けて発しています。そこでは、学校教育法の保護者の親権に服さなくなる高校生の成年者に関して、指導要録や授業料などの費用に関する手続書類上で「保護者」と記載されている場合は「保護者等」「父母等」などの記載に改めるなどの対応が考えられること、成年者の生徒の退学手続では父母等が連署した書類は不要だが、事前に学校・生徒・父母等との間で話し合いの場を設けるなど、父母等の理解を得ることが重要であること、生徒指導や進路指導は成年者か否かにかかわらず、日頃から父母等の理解を得ることが重要であること、成年者の父母等はいじめ防止対策推進法の「保護者」には該当しないが、引き続き保護者に準じて取り扱うべきこと、などを示しています。

 しかし、実際の教育現場で事務連絡の指針がどの程度拘束力を持つかはあいまいです。「保護者等」「父母等」という概念を持ち出すことは、どこまでの人間を含めるかという解釈の問題も生じます(生徒によっては親権者以外の人間と生活していることも珍しくありません)。学校設置者や学校単位で規則や学則などを変更して「保護者に準じる者」の定義を明確にしておくなど、成年者の生徒の取り扱いについてルールを変更するなどの対応をする必要があるでしょう。

「成年高校生」をどう理解すればいい?

 一方で、せっかく成年者になったにもかかわらず、高校生であるという理由で成年者になった生徒をこれまでと同様に取り扱うことは、民法を改正して18歳に成年年齢を引き下げた趣旨に反することにもなりかねません。成年者となった高校生が自分の意思で主体的に判断して様々な取引に関わり、経済活動を担う一員になることは、経済の活性化や、新しい経済感覚や価値観がもたらされるメリットもあります。

 筆者は弁護士や研究者の活動だけでなく、高校教員としても高校生の公民の授業を担当していますが、現在の消費者教育ではどちらかと言えば成年年齢の引下げは否定的に捉えられ、「契約するのは危ない」「取り消しできない」といったネガティブな部分のみが強調されているようにも感じます。その結果、成年者になってもかえって主体的に経済活動に参加することに委縮してしまう生徒が増えてしまうのではないかとも懸念しています。実際の法律では、契約は原則として取り消せないが、消費者契約法をはじめとして取り消せる例外規定や救済方法もたくさんあります。そのため、成年年齢の引下げを主体的な消費者を育成するチャンスと考えて消費者教育に取り組んでいくことが大切ではないかと考えています。

新しい環境に適応していく教育現場の営みを尊重する

 18歳に選挙権が引き下げられた時も、同じクラスで有権者になった生徒とそうでない生徒が混在する環境が生じ、選挙運動の可否の観点などから議論になりましたが、その際も日常生活を共にする集団の中に有権者とそうでない者が「混在する」ことが教育現場以外で意識されるようになったのは随分遅れていました。今回の18歳の成年年齢の引下げも、高校の同じクラスで成年者である「大人」と未成年者である「子ども」が混在するという、これまでにない環境が生じることになりますが、教育現場以外ではほとんど意識されていないと思います。

 しかし、大切なことは、こうした新しい環境において新しい問題が生じた際に、生徒に対して責任を負うのはあくまでも現場にいる教員であって、弁護士ではないということです。弁護士が責任を負わない立場から必要以上にあれこれと意見を主張したり、現場に要求することは好ましくないと思います。教員と成年の仲間入りをする生徒、そして親権者でなくなる父母等が協力して、新しい環境で子どもの利益をどのように実現していくかを模索していくことが望ましいでしょう。