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日本の「男女格差指数」、121位で過去最低に。ガッカリしている人が、すぐにできること

治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
世界では女性首相が続々誕生している。写真はベルギーのソフィー・ウィルメス首相(写真:REX/アフロ)

 世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」のランキング、最新版が発表されました。調査対象153カ国のうち、日本は121位。前年の110位から、順位を落としています。

 この調査は、各国内の男女格差を、政治・経済・教育・健康の4分野から測ります。日本は妊産婦死亡率が極めて低いため、健康分野は毎年高順位。教育分野は、あまり良くありませんが目立って悪くもありません。先進国最下位という不名誉な順位は、政治と経済分野に女性リーダーが少ないことが大きな要因です。

社会進出めぐる男女格差 日本は過去最低の121位に(NHKニュース)

 つまり、国会議員や大臣、企業の管理職に女性が増えることが「男女格差後進国」から脱するために必要です。

他国の頑張りに負けている

 でも、と思う人もいるでしょう。日本では2015年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が、2018年には「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律案」が成立しており、職場や政治の分野で女性活躍推進に熱心に取り組んでいるようにも見えるからです。

 確かに、一昔前と比べると日本も変化しました。しかしグローバルランキングは他の国との比較で決まります。いくら日本が日本なりに頑張っても、その成果が他の国より見劣りがすれば、残念ですが順位は上がりません。会社に例えれば分かりやすいと思います。たとえば市場環境が厳しい中「昨年と比べて5%増の売り上げ」を達成したとしても、ライバルが「昨年より20%増」だったら、負けです。

 要するに、ジェンダー平等について日本も昔と比べて頑張っていますが、他の国はもっと頑張り、高い成果を上げているため、ランキングが上がらないのです。

APEC加盟国・地域の変化

 ジェンダーに特化したシンクタンク型NPO、Gender Action Platform(GAP)の目黒依子さん(上智大学名誉教授)と大崎麻子さん(関西学院大学客員教授)の調べ(*1)によると、2015~2017年の3年間で、APEC加盟国・地域の55%で女性リーダーが増えています。APEC加盟国・地域全体を見ると管理職女性比率が3割以上の雇用主が全体の4割、2~3割の雇用主が25%となっているのです。

 女性が増えた分野は国によって異なります。カナダは閣僚の女性割合が激増しています。2015年に30%だったものが2017年には50%になりました。インドネシアではCEOの女性割合が2015年の5%から2017年には30%まで増えており、ペルーでは最高裁判事の女性割合が2015年の9%から2017年の27.1%に、ロシアでは上院議員の女性割合が2015年の8.4%から2017年には17.1%に増えました。この調査はAPEC事務局の委託で行われ、2017年9月、ベトナム・フエのAPEC「女性と経済フォーラム」で発表されています。

 

 GAPの調査結果から分かるのは、政府や経済界が女性活躍を最優先課題として本気で取り組むことで、わずか3年間で女性リーダーを増やすことができる、という事実です。言い換えれば、数字に表れる形で女性リーダーが増えない日本は、政府機関にも経営者にも課題への本気度が足りないとも言えます。

政治家と経営者はジェンダーを最優先課題に

 もし、政治家や経営者でこの記事を読んでいる人がいるなら、ジェンダー平等を最優先課題として取り組まない限り、毎年、このような不名誉な結果が出ますよ、とお伝えしたいです。変える権限がある人は、その権限を適切に使って下さい。どうかお願いします。

 次に「自分は政治家でも経営者でもないけれど、ジェンダー格差の問題に関心がある。何とかしたい」という人に伝えたいことを書きます。ここからが本題です。

 日本の一番の課題は、それなりに良い教育を受け良い職に付いている社会をリードする層が、日本の男女格差という大問題を知らないことです。10数年前と比べれば女性活躍や育児支援が広まっていますから「うちの会社は割と進んでいる」と思っている人も少なくありません。同じ業種の欧米企業を見ると、女性役員比率が3割いたりしますが、そのような世界事情は「知る人ぞ知る」なのです。

男性に忖度しないと議論できない

 

 そういう中で、女性活躍支援を「なぜやるのか」、「逆差別ではないのか」という部分の議論に多大な労力を割いています。前述のGAP調査は2018年8月号「ジャーナリズム」(朝日新聞出版社)に詳しい記事を書いています。この号は「男性だって大変だけど、女性の苦労は半端ない! 女性の生きづらさ」という特集タイトルになっています。私は「男性だって大変だけど」とあえて、枕詞をつけなくてはこの課題を語れないところに、メディアをめぐるジェンダーの課題を見た思いがしました。

 このような男性向けの配慮が必要とされるのは、リーダー層の人たちを「褒めて教えてあげなくちゃいけない」状態だからです。ある地方で実際に次のようなことが起きました。経済政策に関する県の会議で委員全員が男性であったので、会議の委員だった地元金融機関のトップに新聞記者がこの点を尋ねたところ「そんな不愉快なことは聞くな」と怒られたそうです。「そうですね。女性がいませんね」と事実を淡々と受け止めるくらいの冷静さが欲しいところです。

 残念ながら、事実を指摘すると改善できる/すべき立場にある人が、子どものように拗ねてしまうことがあります。こういう話をよく耳にするため、私は正直なところ、話が通じない大人より、身近な子ども達と話す方が楽しいと思ってしまうこともあります。

子どもの正義感は貴重

 小学2年生の娘は、日本の大臣が並ぶ写真を見て「何で女の人が全然いないの? こんなのは嫌だ」とストレートに言います。小学5年生の息子は、東京医科大学の入試における性差別の報道を見て「くそだね」と一刀両断していました。子ども達には不当なものをおかしい、と思う正義感があります。

 私と同じように「グローバル・ジェンダーギャップ指数」の報道を見てガッカリした人には、身近なところから変えてほしいです。本当に現状を変えるには「また日本が最下位!」とか「政府は何をやっているんだ!」と言うことに加え、世論や規範に訴える必要があります。

規範と意識を変えるには

 これまで私は行政のジェンダー関連の会議委員を色々と経験して、政策に関する議論に加わってきました。どの会議でも最大の課題は「規範」や「意識」という話になります。しかし政府や行政機関ができるのは、パンフレットや冊子を作って配るところまで。本当に手元に届き、読んで考えているかどうかは、行政にはコントロールできないのです。そして、人の心を変えるのは遠くから送られた印刷物より、信頼できる人との会話です。

 ぜひ、職場や学校や家庭や地域で「ジェンダー?何それ」という人を、例えば2人見つけて、この問題について話してみてほしいです。あなたは、現状の何が問題だと思いますか? それはなぜですか? 自分なりに考えていると、思わぬところで会話が生まれることがあります。

 実は私は、地域や子どもの学校では「●●くんのお母さん、〇〇ちゃんのママ」として、無個性に生きるようにしてきました。40年以上、珍しい名前で仕事をしてきたので、目立つのに少し疲れてしまい、子ども関連の人間関係では少し隠れて生きてみようと思ったためです。

友達、同僚と話をして

 ところがある時、同じ小学校の保護者からLINEで「れんげさん、ジェンダーのことやっているんですよね」とメッセージが来てびっくりしました。うちの子が通う小学校は名簿で男子が前、女子が後ろという、ちょっと遅れた状況です。LINEメッセージをくれた保護者は女の子2人の母ですから、名簿問題が気になっていたそうです。

 

 社会を作っているのは、声高に変革を主張する人ばかりではありません。まじめに働き、育児や家事や介護や地域のことをしている人たちの中に「何かおかしい」と思っている人は少なからずいます。

 読み終えたら、考えてみて下さい。あなたの友人・知人の中に、もしかしたら、話が通じるかもしれない人はいませんか。その人には大切に思っている女の子や女の人がいませんか。

分かってくれる男性もいる

 かつて私が書いた子どもに対する性虐待の記事を読み「女の子の親として、とても人ごとと思えない。僕に何ができますか?」と言ってくれた男性もいます。日本の刑法性犯罪規定が改正された時に記事を書いたら、友人の台湾男性が「これは大変なことだから、日本の友達にも知らせました」と言ってくれました。そういう人をひとりでもふたりでも見つけ出し、話をしてみて下さい。それは政治家にも経営者にもできない、良識ある市民だからこそ、できることです。

  • 1:調査は報告書 "Individual Action Plan for the Enhancement of the Ratio of Women's Representation in Leadership: Midterm Review Study and Public-Private Dialogue" にまとめられている。
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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