東京医科大学入試の性差別問題、弁護団が集団交渉希望の元受験生を募集中(9月15日まで)

公平な入試が行われていたら入学していた女性はどのくらいいたのでしょう(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 東京医科大学が女性受験生や多浪受験生の入学者数を抑えるため、入学試験で得点操作をしていたことが、8月初めに明らかになりました。

 大学は8月7日付で、入学試験における差別を認めた上で「得点調整」により不合格となった可能性がある人に対し、文科省と協議の上、誠意ある対応をしていく、としています。

文部科学省大学支援事業と入学試験における不正問題に関する内部調査報告書の受領と本学の今後の対応について

(東京医科大学ウェブサイト、2018年8月7日)

 その後、元最高裁判事の弁護士、元私立大学学長・理事長の弁護士と同大学教授の女性医師からなる第三者委員会を設置し、事実調査・原因究明・改善提案をすると発表しました。

第三者委員会の設置について

(東京医科大学ウェブサイト、2018年8月28日)

 東京医大が設置した第三者委員会に対して、9月4日に被害者の立場から申し入れをしたのが、「医学部入試における女性差別対策弁護団」です。弁護団で共同代表をつとめる打越さく良(うちこし・さくら)弁護士に話を聞きました。

「医学部入試における女性差別対策弁護団」共同代表の打越さく良弁護士:鈴木智哉氏撮影
「医学部入試における女性差別対策弁護団」共同代表の打越さく良弁護士:鈴木智哉氏撮影

――「医学部入試における女性差別対策弁護団」は、何を目的にしたものですか。

打越弁護士  東京医科大が長年行ってきた入試における得点調整は、女性であることのみを理由にしたもので、重大な差別である、と私たちは考えています。その観点から、被害救済と再発防止に向けた活動をしていきます。

―― 弁護団では、8月に元受験生から相談を受けています。

打越弁護士  8月25日に緊急ホットラインを開設し、電話相談を受けたところ、55件の相談が寄せられました。 同月21日以降、メール相談も随時受け付けています。合計100件以上の相談が寄せられました。

―― 元受験生の方は、どんなことを話していますか。

打越弁護士  「何年も受験して不合格だったので今別の仕事をしている。自分の能力が足りなかったとずっと思っていた。それが、このような得点操作によるものだったと分かり、本当に悔しい」という方もいました。

 自分の入試点数や得点操作しなかった場合の合否判定の開示 、受験料の返還を望む方が多いです。

―― 今後、弁護団としては大学側に何を要求しますか。

打越弁護士  元受験生の方々が望んでいる、得点・合否判定の開示請求と受験料の返還をまず求めていきます。さらに、公平な試験がなされていたら合格していたはずの方には入学資格の付与、損害賠償を考えています。

 さらに、アクセスしやすい相談窓口の開設、今後の入試で差別的な得点操作を実施しないことを求めることも考えています。

―― これは、裁判になるのでしょうか。

打越弁護士  まずは、複数の元受験生の代理人弁護団として集団で大学と「交渉」します。

 9月15日まで、集団での交渉を希望する元受験生の方を、こちらから募集しています。

 その後、集団訴訟になるかどうかは、大学側の対応や被害当事者の方々の意向次第です。当事者の負担ができる限り少なくなるよう、大学側の迅速で誠意ある対応を求めたいです。

―― 仮に裁判になった場合、賠償金額はどのくらいになりますか。過去に類似の事例があれば教えていただけますか。

打越弁護士  類似事例はないと思います。

 ただ「どうせだめだろう」と泣き寝入りしては性差別が放置されてしまう。おかしいことはおかしいと声をあげていきたいと思いますし、アクションを起こしたい方がいるなら、弁護士としてサポートしたい。

―― 最後に、記事を読んでいる一般の人ができることがあれば、教えて下さい。

打越弁護士  このようなあからさまな差別事案でも、「どうしてそれが差別なのか」という声もありました。そういう声を投げつけられると、被害を訴えたい人が臆してしまいかねません。「こんなことはあってはならないと思う」とひと言ツイートしてくれるだけでも、心強いし、世の中のオピニオンの流れも変わっていくのではないかと思います。

 また私たちの会など、当事者をサポートしたいグループでカンパも募っています。既に寄付してくださった方々もいらして、応援のお気持ちが伝わり、嬉しいです。

 医師の労働環境は大変だから、女性にはきつい、といったことも言われますが、きつい環境が、差別の正当化になるのでしょうか。女性にはきつい労働環境を男性なら耐えるべきというのもおかしいですし。

 「それって違う」ということを言う人がいないと医師の環境も変わらないでしょう。医師なら休みなく昼夜も献身的に働くべきというのは良くない、と言った声をあげることも大切でしょうね。

 記事を書くため、あらためて、東京医科大が公表している本件に関する文書や、メディアの報道を見直してみました。

 大学側は「得点調整」、報道も「入試における操作」と呼ぶなど、この問題が「性差別」という認識が浅いと感じました。一方で弁護団の名称は「医学部入試における女性差別対策弁護団」と明確です。

 先日、都内の中学校で男女平等をテーマに講演する機会があったので、この問題に触れると中学生も報道でよく知っている様子でした。

 試みに「もし、女性だけに数学の点数を10点上乗せしたら、どう思いますか?」と前列の男子生徒に尋ねてみると「いやです」という答えが、すぐに返ってきました。

 医大入試における女性差別に異議を唱えるのは、筆者のような女性や子ども達だけではありません。

 シカゴ大学社会学部教授で経済産業研究所(RIETI)客員研究員の山口一男先生は、次のような論考を発表しています。

東京医科大学の入試における女性差別と関連事実 ― 今政府は何をすべきか

(経済産業研究所ウェブサイト、2018年8月8日)

 記事の中で山口先生は、東京医科大の入試における女性差別が憲法第14条1項、教育基本法4条の記載に「明確に違反する」としています。さらに、本件に対する政府の適切な介入により、明らかな女性差別に対する罰則を課すことが法治国家として必要であると主張しています。

 私も山口先生に賛成です。周囲にいる私たちが、おかしいことはおかしい、と言わない限り、不正は放置されてしまいます。

 最後に、企業取材を重ねてきた経験から「女性がライフイベントで辞めるから採用しない」とか「激務だから女性は採用できない」という意見に反論しておきます。

 今から10数年前、グローバル化を模索中の製造業を取材しました。その企業は女性管理職の結婚退職が多いことに悩んでいました。大量退職の理由が長時間労働にあることが判明すると、この企業では、今でいう「働き方改革」に着手します。それまで平均13時間だった管理職の労働時間を8時間まで減らしたのです。

 管理職の仕事を全て書き出して不要なことはやめ、アルバイトや一般社員に権限移譲を行いました。

 その結果、女性管理職は結婚後も勤務を続ける人が増え、離職率は目に見えて下がりました。働き方改革の着手から成果を出すまで、3年程度しかかかっていません。

 なぜ、こういう改革をしたのか。社長の話は今でも心に残っています。

女性は辞めるから採用しない、という考え方も、論理的にはありえました。しかし、それは20年前なら通用したかもしれませんが、グローバル化を考えたら、ありえない

 優良民間企業の経営者が10数年前に認識していたことを、もっと多くの人に知って欲しいと思います。激務やライフイベントを理由にした女性医師差別は、合理的なマネジメントの下では、受け入れられないのが常識です。