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タイムマネジメントをやめ、ダラダラした方が創造的になる!:『できる人はダラダラ上手』とは?

治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

暑いですね。梅雨をすっ飛ばして真夏になってしまったようです。あまりに暑いので、昨日は出がけにマンションの地下ゴミ捨て場に寄って、ゴミを捨ててから1Fに戻るつもりが、ぼんやりして居住階を押して家の前まで戻ってきてしまいました。

こんな風に頭の働かない自分に嫌気がさしたり、ああ、まただらだら過ごしてしまった…と罪悪感を覚えたら。「いいじゃん、それでも」どころか「その方がいい!」と思わせてくれるのが、この本です。その名もアンドリュー・スマート著『できる人はダラダラ上手』(草思社)。

単なる“リラックスのすすめ”ではありません。何もしないで脳を安静にしておく時間があるほど、発明や発見につながる「ひらめき」の瞬間も多くなる、ということを、脳神経科学や心理学、哲学から明らかにしたものです。著者はスウェーデン出身の神経科学研究者。

ニュートンもデカルトも、ダラダラしていた?

本書の主張はシンプルです。仕事などをせず、頭をからっぽにしていると、脳の「デフォルトモードネットワーク」が働くということ。この機能が働いている時に、ニュートンは万有引力の法則を発見し、デカルトはXY座標の概念を思いついた、というのです。デフォルトモードネットワークは、仕事を効率的にこなそうと頭を使っていたり、知的作業をしている間は活動が低下することが、研究によって分かった、ということです。

「ああ、分かる、分かる」と思うビジネスパーソンも多いでしょう。ニュートンやデカルトほどでなくでも、アイデアやひらめきは、オフィスでPCに向かっている時より、のんびり散歩をしている時の方が生まれやすいと、経験的に知っている人も少なくないはずです。

そんなわけで本書は「時間管理をやめよう」とビジネスパーソンに呼びかけます。第6章「タイムマネジメント教が現代人を滅ぼす」は、効率化に追いまくられている人にとって、溜飲が下がるものでしょう。

子守り代わりに習い事を詰め込むのは危険かも

私がいちばん、心に残ったのは第4章「忙しすぎる子ほど、創造性に欠ける」。そこには、仕事で忙しい親のもと、習い事漬けになっている子ども達の様子が描かれています。それによるマイナスの効果も研究を引用しながら、紹介されています。

「子どもたちが何をやっているかは教師やコーチから報告されるので、実際に見る必要はありません。結局、わたしたちにはもっと大切なこと、つまり仕事があるのです」(114ページ)という記述には、ドキッとさせられます。

私の息子は現在6歳ですが、何も習い事をしていません。友達がやっていることを、いろいろ勧めてみるのですが「いやだ」「命令されたくない」「休みの日くらいのんびりしたい」という返事。本書を読んで、このまましばらく好きなように、のんびり過ごしたらいい、とあらためて思いました。

他にも興味深い研究データに基づき、大人も子どもも、もっとダラダラすることの効用が解かれています。面白いですよ。

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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