Yahoo!ニュース

もしも女子大生が都知事選に立候補できたら

治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

都民のみなさま、こんばんは。都知事選挙の投票には行かれましたか。私は2歳児の手を引き、途中から抱っこして行ってきました。そしていつも通り、死に票をひとつ投じてきました。

投票権を持ってから20年近く。一度も「棄権」をしたことはなく、自分の投票が無駄になると分かり切っていることが多い選挙でも必ず誰かに一票を入れてきました。夜8時半頃、買い物に出かけると「ワーッ」という歓声が聞こえてきました。ご近所のどこかにあるらしい舛添氏の応援団が集まって、当選確実を喜んでいることが、すぐに分かりました。それにしても、今回の選挙はつまらなかったなあ。自分がいいと思う人が当選しないことには慣れているんだけど、何だろう、このつまらなさ。

たぶん、家入さんが善戦していたらもう少し「面白い」と思ったはず。私自身は最近、自分の子ども達の代理として投票している感覚が強いため、候補者の所属政党や政治的選好より何より、子ども関連の政策で選びます。正直なところ、家入さんの子ども政策は特にピンとくるものがなかったのですが、それでも、こういう人が善戦したり、本当に当選した時初めて、20代とか30代は「選挙、面白い」とか「次も行かなきゃ」と思うんじゃないかなあ。

候補者が高齢者ばかりで、自分と同年代やそれより若い人がほとんどいないと、選挙は「人ごと」になります。もういいかげん、大学生でも立候補できるようにしてほしい。彼・彼女らには国民年金の保険料を納付する義務はすでにある(技術的には学生は猶予されますが、義務があることに変わりありません)。それなのに、将来の社会について決めることができないのは、不公平と言わざるをえません。

知事選挙に立候補できるのは30歳からですが、20歳の人から見た30歳は遠くのおじちゃんかおばちゃん。自分たちの代表を選んでいる感覚が持てなくても仕方ないと思います。…といった話は「被選挙権の年齢引き下げ」というテーマですでに議論になっています。特に最近よく話題になる少子化対策などは、政策の当事者になる大学生が「決める側」として立候補したら、相当に新しい政策が出てくるでしょう。

私が期待する候補者層は、例えばこんな人達です。

ついこの間、こういう女子大生に会いました。マンマ:Manmaというサイトを運営している彼女達は「いまの女子大生が5年後、安心して母になれる社会をつくる」ことを目標に活動しているそうです。

「5年後」と聞いて少し驚き「25歳で出産したい、ということですか?」と尋ねてしまったのですが、よく考えてみれば生物的にはそのくらいの年齢が出産には適しているのです。問題は大学を出た後で真面目にキャリアを形成…と考えていると、妊娠出産に向いた時期はすぐに過ぎてしまうこと。彼女達の希望をかなえるには、新入社員かそれに近い社歴の女性からの妊娠報告を先輩や上司が「よかったね!」と歓迎する雰囲気や、妻と一緒に育児を分担する夫の存在や、当たり前のように入れる保育園や、いったんキャリアを中断した母親を受け入れる中途労働市場など、今はないものをたくさん、作っていかなければなりません。

…例えばこういうことを、自分ごととして捉えている女子大生が都知事選挙に立候補していたら。そして「自分自身が5年後、安心して母になれるような子育て支援策を作ります」と話していたら。さらに言えば、彼女達の将来のパートナーになるような男子学生が「20代目線の子育て支援」を語ったり、すでに働いている20歳が「ブラック企業対策」を論じていたら。若い有権者にとって、選挙はもっと自分ごとになったのではないでしょうか。

それに何より私自身も、自分の倍くらいの年の人だけから投票する人を選ぶより、自分の半分くらいの年の人からも選べる方が、ずっとワクワクしていただろうに、と思いました。

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

治部れんげの最近の記事