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世界の音楽市場、191億ドルで9.7%成長。音楽ストリーミングが牽引、日本の音楽業界は

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
Ariana Grande(写真:Splash/アフロ)

世界の音楽業界を代表する音楽団体、IFPI(国際レコード連盟)が、毎年恒例となっているグローバル音楽市場の動向をまとめた最新レポート「Global Music Report 2019」を公開した。

音楽業界の実績が見える同レポートによれば、2018年は音楽業界の売上は全世界で前年比9.7%アップを達成。これで4年連続のプラス成長を記録した。グローバル音楽市場の売上規模は191億ドル(約2兆1270億円)だった。

IFPIより
IFPIより

国別の売上規模では1位は米国、2位日本はこれまでと変わらず。

3位の英国、4位のドイツが入れ替わり、5位フランス、6位に韓国が入った。

注目は7位に入った中国だ。2017年は世界市場では10位だったが、わずか1年で3つ順位を上げるほど急成長を遂げた。

8位はオーストラリア、9位はカナダ、10位はブラジルだった。

IFPI
IFPI

IFPIのCEO、フランシス・ムーア(Frances Moore)は2018年を振り返って次のように述べている。

グローバル規模での音楽市場の成長には、地域別の成長が貢献しています。ラテンアメリカはブラジルに牽引されて、地域別では最大の成長を遂げました。アジアもグローバル音楽業界で重要な市場であり、中国と韓国が成長の原動力となっています。中東、北アフリカにも注目が集まっています

出典:IFPI

この発言に見られるように、今回のレポートでは、IFPIやメジャーレコード会社の経営陣たちが、これまで世界的に知名度の低かったローカルなアーティストたちの世界進出や、音楽ストリーミングが普及してこなかった地域の成長を大きく取り上げている。

代表的なところでいえば、BTSやJ Balvinがこの部類に該当する新時代のアーティストたちだ。

早くからSpotifyが定着するなど、音楽業界がサブスクリプションや音楽ストリーミングに移行準備を進めてきた米国やヨーロッパ。メジャーレーベルや音楽業界は、こうした成熟した感のある音楽市場をさらに拡大しつつも、新たなアーティストや地域の発掘を世界規模での成長戦略の軸として捉え始めていることが特徴だ。

音楽ストリーミングが市場の中心に

IFPI
IFPI

音楽市場の成長を牽引したのは、2018年も引き続き音楽ストリーミング。

音楽ストリーミングからの売上高は前年比34%増加し、89億ドル(約9901億円)を達成。

全体の収益の割合を見ると、音楽ストリーミングは46.9%まで拡大している。2019年には50%を超えることが予想される。

サブスクリプション型音楽ストリーミングの売上は32.9%増加。

YouTubeなどの広告収入モデルの音楽ストリーミングではなく、完全にサブスクリプションが音楽業界の主流になっていることが分かる。

フィジカル、ダウンロード低迷は世界のトレンド

低迷が続くのは、フィジカル音楽とダウンロードの売上だった。

フィジカル音楽の売上は10.1%減少。ダウンロード売上は21.2%減少と、二桁の減少を記録した。

フィジカル音楽は売上全体でシェアが24.7%まで低下している。それ以上に深刻に落ち込んでいる音楽ダウンロードは、7.7%までシェアが減少してしまった。これは多くの市場でも起きている流れで、グローバルな音楽消費トレンドの一つと言える。

IFPIはフィジカルが今も売上に貢献している音楽市場として日本、ポーランド、ドイツの3カ国をあげている。日本の音楽市場でフィジカルが占める割合は71%。ポーランドは47%、ドイツは35%だった。

フィジカルと音楽ダウンロードは低迷したが、音楽ストリーミングに移行するための投資を維持し続けてきたことが全体の収益拡大につながり、ひいては他国の減少額も上回れたことが大きい。

音楽ストリーミングに対しての投資と戦略が増えていけば、さらなる成長が見込めるはずだということが世界の音楽業界は理解し始めている。

こうした状況を日本の音楽業界はどのように対応していくべきだろうか。

例えば、世界の音楽大国で唯一フィジカルが収益源の日本がもし、一気に低迷し始めたと考えたら、世界の音楽市場へのインパクトは無視できない規模になるはずだ。

世界の中で、日本は音楽ストリーミングにおいては後進国だ。今後、日本の音楽業界が本気で推進していくのであれば、音楽ストリーミングでのマネタイズ戦略をより真剣に考えないと、世界2位の音楽市場はなかなか支え続けられないだろう。

音楽ストリーミングが世界に拡大

IFPIが示した成長要因の一つは、ストリーミング新興市場だ。市場別では、ヨーロッパ市場の成長は0.1%と微増。北米は14.%だった。その一方でアジア/オセアニアは11.7%、ラテンアメリカは16.8%と大きな成長を達成している。

アジアやオーストラリアはこれまでフィジカルが強い音楽市場だったが、サブスクリプション型音楽ストリーミングが29.5%と大きく伸びたことで、アジア地域全体に勢いが出ている。売上の成長率で見ると日本は3.4%、韓国は17.9%、オーストラリアは11%だった。

ラテンアメリカも音楽ストリーミングから大きな影響を受けた市場だ。特にフィジカル(-37.8%)、ダウンロード(-45%)が大きく低下した中、音楽ストリーミングの売上は39.3%成長させることに成功している。

IFPIのレポートでは、2018年の成功例としてJ Balvin(コロンビア)、Aya Nakamura(フランス)、George Ezra(英国)をピックアップしている。

また、今後さらなる成長が期待される音楽市場としてラテンアメリカ、ブラジル、アジア・オセアニア、韓国、中国、中東、アフリカをあげている。

IFPI Global Music Report 2019 (IFPI)

(この記事は、音楽ビジネスメディア「All Digital Music」に掲載された記事に加筆しています)

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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