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VRライブ配信がEDMに到来。Hardwellとスタートアップ「Littlstar」が実現

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト

すでにNBAやNFL、NASCARやボクシングなど、スポーツの世界で始まったバーチャルリアリティ(VR)を使ったライブストリーミングが、ライブの世界にも広がり始めました。

米国3月15日から20日までフロリダ州マイアミで開催する音楽イベント「Miami Music Week」から、EDMプロデューサーのHardwellはバーチャルリアリティと360度カメラを使ったライブストリーミングで3月16日のパフォーマンスを中継します。

これまでのEDMイベントのライブストリーミングはTwitchやYouTubeで行われてきました。ですが、360度全方向で撮影した映像を、EDMイベントからリアルタイムでストリーミング配信する手法は世界で初めての例で、これまでと全く違う映像体験を生み出すはずです。

HardwellのVRライブストリーミングは、iPhoneやAndroidのスマホ、Apple MusicそれからVR配信でコラボレーションするスタートアップ「Littlstar」のウェブサイトで見ることができます。

このLittlstarのVRスマホアプリが非常に高性能。スマホなのに、高精細でスムーズな映像が見られ、クオリティの高い映像体験になっています。一度試していただくことをお薦めしますよ。

VR動画のYouTubeことLittlstar

Littlstarとは、一体どんな集団なのでしょうか? 2014年に立ち上がったニューヨークのスタートアップLittlstarは、360度VR動画に特化した配信ネットワークを世界で初めて創っています。特定のVRヘッドセットに限定する代わりに、Google CardboardからサムスンGear VRまであらゆるプラットフォームに対応することを目指しながら、360度VR動画視聴スマホアプリやサイト内でVRコンテンツを展開。Oculus Riftや、PlayStation VR、HTC Viveにも今後は対応予定となっています。

VR動画のクリエイターやエンジニアには、APIやSDKやウェブプレーヤー、コンテンツ解析のツール群を提供し、VR制作やVRポストプロダクションを支援しています。またVR動画撮影のJaunt、Google Jump、Nokia OZOなどにも対応、コンテンツ制作面ではUnity、Unreal、Mayaなどに対応します。VRコンテンツの配信を簡単に実現できるプラットフォームとして、配信の上流から下流をまでを包括的に支援する、VR業界で現在アクティブなスタートアップです。

アップルも2015年12月にLittlstarによるApple TV用アプリを発表して、同社のプラットフォームとしては初めて全方向の360度VR動画に参入するとともに、配信コンテンツの幅を広げ始めています。

LittlstarはこれまでにVRコンテンツをディズニーやフェラーリ、Red Bull、ナショナルジオグラフィックといったブランド向けに制作・配信を行っています。面白いことにLittlstarと提携しようというメディア企業、特にテレビ関連会社と積極的にVRコンテンツで協力しています。Fusion、Discoveryチャンネル、Showtime、PBS、Fox、A&E、ESPNなどのメディアがLittlstarのプラットフォームでコンテンツを配信しています。

創業メンバーの3人の経歴も多彩です。共同創業者でCEOを務めるトニー・マガヴェロ(Tony Mugavero)は、ベンチャーキャピタルGalvanize Venturesの元パートナーで、ライブチケット情報アプリGigbeatを立ち上げるなど、起業家としての経験が豊富です。共同創業者でチーフ・コンテンツ・オフィサーのマシュー・コリャード(Matthew Collado)は、VRコンテンツやリッチ動画の制作を専門にするプロダクションHuman Being Mediaを立ち上げた経験から、コンテンツ側の指揮を取ります。エンジニアリング部門を統括する共同創業者のドミニク・ジリオ(Dominic Giglio)は、ニューヨーク市立大学などでソフトウェアエンジニアを務めていました。社長のベン・ヌニェス(Ben Nunez)は、写真共有アプリBirdboxの元CEOでもある起業家です。

変わった人材では、2015年にはSpotifyからJoseph WerleとWells JohnstonをCTOとチーフ・データ・サイエンティストとして引き抜くことに成功しています。

Littlstarの活動で見逃せないのが、ディズニーが始めたスタートアップを支援するアクセラレータープログラム「Disney Accelerator」に選ばれ、12万ドルの投資を受け3ヶ月の期間中に投資家や起業家などメンターから事業計画や製品開発のアドバイスを受けています。

Oculus RiftやGear VR、PlayStation VRからLeap Motionまで、VR元年と言われる2016年。視聴するデバイスは進化しています。コンテンツを見せるプラットフォームはYouTubeやFacebookがVR動画に対応し始めましたが、これから注目していきたいのが、LittlstarのようなVR専門のプラットフォーマーの存在です。

特にVRに特化したコンテンツを扱い、VR動画に携わるコンテンツクリエイターや開発者たちを支援するLittlstarは、今で言えば、FullscreenやMake Studiosなど、YouTuberを支援している動画マーケティング専門の「マルチ・チャンネル・ネットワーク」(MCN)とスタイルは似ています。今後はLittlstarには、VR動画をどう配信し視聴させるか、そしてどのようにして広告収益につなげるかといったマーケティング機能も提供していくことが予想できます。VRはコンテンツを作るだけでは成立しないエコシステムで、配信するためのプラットフォーマーの存在が普及に向けては絶対不可欠となっていきます。特にライブビジネスが成長している現代の音楽シーンでは、VR活用は注目しておくべき分野ではないかと思います。

ソース

Hardwell fans can experience his Miami Music Week set in VR(Mashable)

360-Degree Video Is Coming To The Apple TV(Digital Trends)

This Disney-backed startup wants to be the YouTube, Hulu, and Netflix of virtual reality and so much more(Business Insider)

この記事はデジタル音楽ブログ「All Digital Music」で2016年3月11日に掲載された記事の転載です。

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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