アベノミクス開始から半年、その成果は?

金利引き下げ相次ぎ、通貨安競争が過激に!

このところ、欧州中央銀行(ECB)、オーストラリア準備銀行(RBA)、韓国中央銀行などが相次いで金利の引き下げを発表した。各国の金利引き下げは、景気の悪化もしくは景気回復の遅れが原因になっているわけだが、その副作用として通貨下落を招いている。日本円だけが一方的に下落することを防ぐ意味もあると見られ、日本の異次元の金融政策=アベノミクスが背景にあることは間違いないだろう。

そのアベノミクスは、2012年11月14日に野田前首相が安倍自民党総裁(当時)との党首討論の場で宣言した「突然解散」を起点とすると、まもなく半年を迎えることになる。この半年間、アベノミクスは株式市場では8664円(同日終値)だった日経平均株価を1万4607円54銭(5月10日終値)にまで引き上げ、1ドル=80円24銭(2012年12月14日終値)だった為替も101円台(5月10日現在)にまで円安を実現させた。

世界中から注目されたことで日本への関心を取り戻したこと、異次元の金融緩和を推進して円安を誘導し、株式市場を大きく押し上げたこと--短期的に見れば、まさにパーフェクトに近い状態で推移しているといって良いだろう。3本の矢といわれる「金融政策」「財政政策」「成長戦略」のうちの金融政策だけでここまで成果を上げたことは素晴らしいのひとことだ。もっとも、ここまでマーケットの期待値を膨らませてしまった副作用は大きく、仮に成長戦略で中途半端な規制緩和や成長スキームしか発表できない場合、日本に対する失望売りをある程度覚悟しなければならないかもしれない。株安、円高トレンドが復活してしまう可能性があると言うことだ。

ただ、すでに報道されているように、アベノミクスの影響は様々なところで現れている。冒頭で紹介した各国の利下げもそのひとつだ。ギリシャの国債も年10%の大台を割り込んで9%台にまで戻った。日本の機関投資家などが積極的に海外の債券を購入していると指摘されているが、日本銀行の異次元の金融緩和、すなわちアベノミクスが世界的な金利低下を招き、世界中で金融緩和が進展する原動力になっている可能性が高い。実際に、米国の自動車業界は日本は意図的に通貨安政策を実施しており、TPPにも参加させるべきではない、というレポートを出している。

「シャドーバンキング」の拡大を懸念したバーナンキFRB議長

アベノミクスが、世界中の金融緩和を促進し、通貨安競争を演出しているのではないか。そんな考え方が徐々にではあるが、世界でも定着しつつある。問題はその副作用だが、世界経済はリーマンショックで大きく落ち込んでいた株式市場を中心に、景気を上向きに方向転換しつつある。米国では、ニューヨーク・ダウ工業株30種が過去史上最高値を更新し、日本の株式市場も1万5000円台直前にまで迫っている。ドイツの株式市場もDAX指数がやはり過去史上最高値の水準に到達しており、株式市場に資金が流入していることが分かる。

バーナンキ米FRB議長も、5月10日に行われた記者会計で現在の金融市場について「株高」の状況に言及している。「シャドーバンキング」と呼ばれる金融機関のリスクについて警告している。シャドーバンキングというのは、ヘッジファンドやETFの運用会社、ノンバンクなどを総称する言葉だが、近年その総資産は60兆ドル(約6000兆円)にも達していると言われる。リーマン・ショック以前よりも規模的には縮小しているものの、そのシステムには脆弱さが残ると指摘。過度なリスクテイクは銀行システムなどに悪影響をもたらす、としてその脆弱さを指摘している。

FRB議長が警告するシャドーバンキングの危機というのは、いわゆるリスクマネーと呼ばれるヘッジファンドや投資銀行などの自己勘定部門が、これまでにも何度も金融危機を演出してきたからだ。1987年のブラック・マンデー、1998年にはコンピュータ運用のさきがけとなったヘッジファンド「LTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)」がロシア危機の影響を受けて破綻した。2007年の米国不動産市場のバブル崩壊も、ベアスターンズの子会社であったヘッジファンドの経営破たんから始まった。リーマン・ブラザーズの経営破綻も、投資銀行の過度なリスクテイクがもともとの原因だ。

これらの金融危機には、必ず原因があった。たとえば、ブラック・マンデーは1985年のプラザ合意以後、急速に進んだドル安の影響で、米国金利が引き下げられるのではないかと予想したコンピュータが、些細なシグナルに過剰反応したのではないかといわれている。LTCMの経営危機は、ロシア危機によって損失を出したため、その損失を取り戻そうとして再び莫大な損失を出したためだ。ロシア危機の原因となったのは米国のドル高政策が原因だった。

ベアスターンズ系ヘッジファンドの経営破たんやリーマン・ショックは、言うまでもなく米国不動産市場のバブル崩壊が原因だが、その背景には日本銀行が続けていた量的緩和によって大量に流出したマネーが、米国などの不動産市場に流れ込んだことも原因のひとつと言われる。ちなみに、日本のバブル崩壊はプラザ合意で1ドル=240円が短期間で120円にまで円高が進んでしまったことから、円高不況を心配した日本銀行が大幅な金融緩和を実施。そのまま低金利政策を続けたために、株式市場や不動産市場などに資金が大量に流入してバブルを形成した。

アベノミクスが生み出すバブルで世界はどうなる?

さて、ここで注目したいのは、半年を経過して短期的には大きな成果を挙げているアベノミクスの行く末だ。現在の状況をすでにバブルと見ている専門家もいれば、まだバブルには至っていないというエコノミストも少なくない。どこからがバブルで、どこからがバブルではないのか。その判断は難しいが、バーナンキFRB議長が指摘するように、リスクマネーなどを扱うシャドーバンキングの存在に細心の注意をするべきだろう。

シャドーバンキングは、先物市場やオプションといったデリバティブ市場を中心に活動する機関投資家だが、その特徴はレバレッジを生かして莫大な資金を動かすことだ。ヘッジファンドなど、積極的にリスクをとって運用する金融会社が、投資に失敗して巨額の損失を出せば、金融システムそのものにまで影響を及ぼす可能性がある。日本の金融マーケットの動向だけなら、アベノミクスの成功も容易いのだがそう簡単にはいかない。

特に心配なのは、節目であった1ドル=100円を突破したことで、今後の為替市場は「天井知らず」になったことだ。むろんテクニカル的には、様々な節目はあるのかもしれないが、投資家心理としては100円の節目を超えた意味は大きい。為替市場の想定を超える動きは、国債の長期金利を押し上げたり、フラッシュ・クラッシュと呼ばれる瞬間的な相場変動を引き起こす可能性がある。現在の金融市場はコンピュータによるアルゴリズム取引がメインだから、瞬間的な動きを一斉にコンピュータが察知して、想定をはるかに超える値動きをしてしまう。現代版ブラック・マンデーのような事態が起きやすくなっているということだ。