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日本とイタリア、どちらが正しいのか?

岩崎博充経済ジャーナリスト

ヘッジファンドが動いた?

イタリア総選挙の結果が、当初予想した結果とかけ離れていたと言うだけで、金融マーケットは一気に「リスクオフ」に動いたが、この動きはおそらくヘッジファンドなどのリスクマネーによるものだろう。ヘッジファンドが動く理由は、その投資ストラテジー(戦略)によっても異なるが、最もオーソドックスなのは金融マーケットの異常な値動きを捕らえて利益を出す方法だ。

英国ポンド危機では、ポンドが外貨に対して高い水準のまま推移していた市場の歪みに注目して、ジョージ・ソロスがクォンタム・ファンドを使ってポンドの空売りを仕掛けた。アジア危機では、やはりドルペック制をとっていたアジア通貨が、米国のドル高政策の影響で高止まりしていたところをヘッジファンドなどに狙われて売り浴びせられた。

今回のイタリア総選挙の結果は市場に大きな影響を与えたが、これはきっかけに過ぎない。すでに以前から予想されていたことだし、イタリア総選挙の結果が、これまでまとめてきた欧州債務危機の救済スキームに逆行するものだからと言って、すでに欧州債務危機の結論は出ているのではないか。ヘッジファンドなどのリスクマネーは、結果的にユーロを売り崩すことはできなかったわけで、いまやマーケットでも「ユーロは売り崩すには大きすぎる」といったことがコンセンサスになりつつある。

日本とイタリアが直面する問題

ところで、今回のイタリア総選挙の映像を見ていて思い出した本がある。「なぜ国家は破綻するのか?(ビル・エモット著、PHP研究所刊)」だ。主としてイタリアの財政危機をテーマに書かれた本だが、そのプロローグのなかで「驚くほど重なる日本とイタリア」と指摘している。共に1990年代前半に重大な経済危機を迎え、いまもなお回復できていない。政治家が世襲になっていて政治が長期的に混迷している。組織暴力団が全国レベルで政治と癒着している。

1950年代から70年代の30年間で最も成長した国は、第一位が日本、第二位は韓国、そして第三位がイタリア。50年代以降、共に高度な経済成長を遂げたグループに入っている。大企業よりも中小企業が圧倒的に多い経済構造であり、共に高齢化が急速に進んでいる。メディアが大きな権力を持ち政治に深く関与している。そして、日本、イタリア共に公的債務に圧迫された経済が続いている。

そんなイタリアと日本には、違いも数多くある。イタリアは移民を積極的に受け入れる政策をとっており、さらに欧州共同体(EU)の一員として通貨を共同通貨のユーロに切り替えている。そして、EUの一員として財政再建に取り組み、厳しい緊縮財政を実行している。国民には当然不満が出て、総選挙では緊縮財政を推進してきたモンティ政権が上院選挙では否定された形だ。EUの中央銀行に当たるECB(欧州中央銀行)が無制限の金融緩和を実施している一方で、各国が財政再建のために緊縮財政に取り組んでいるためだ。

一方の日本は、安倍政権が日本銀行に圧力をかけて「異次元の無制限な金融緩和」を実施させようとしている。さらに、財政面でも公共事業を増やすなどの拡大路線をとっている。インフレを誘導することで相対的に財政赤字の規模を縮小しようとしているとしか思えない経済政策だ。

ユーロは売り崩せないが・・・

イタリアと日本は確かに似ているが、もうひとつ決定的な違いがある。イタリアはユーロ圏の一員であり、以前ならとっくに売り浴びせられているはずの通貨は安定している。ユーロは大きすぎて売り浴びせられないから、財政再建にさえきちんと取り組めば、イタリア経済の再生は見えてくるはずだ。

一方の日本は、円という単独の通貨である。英国ポンドがリスクマネーに売り浴びせられたように、日本の円がいつ標的になってもおかしくない。アベノミクスが破綻したとき、円は以前のように円高一直線だけではないのかもしれない。リーマンショック直後の日本は、貿易収支も、経常収支も共に黒字だったが、東日本大震災以後、日本は慢性的な貿易黒字に陥るようになっている。

民主党政権も、自民党政権も、財政再建に本気で取り組む姿勢は見せていない。日本がイタリアのような財政再建に本気で取り組む日は果たして本当にやってくるのか。それとも、国家破綻という形でチャラになってしまうのか。いずれにしても、その結論が出るのはそう遠い未来ではないかもしれない。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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