Yahoo!ニュース

警戒すべきは「インフレ」で財政赤字をチャラにしようとする政権?

岩崎博充経済ジャーナリスト

1000兆円超の財政赤字をどうするのか?

衆議院が正式に解散したことで、次の金融マーケットの関心は次期政権でどんな政策がとられるかだ。大手メディアの予想では揃って、自民党の勝利による安倍政権の誕生を予想しており、マーケットも株高、円安で、次期政権の経済政策を織り込もうとしている。

自民党政権が誕生するかどうかはともかく、いま我々国民が最も警戒しなければいけないのは、現在の1003兆円とも言われる財政赤字を、どう解決していくのか。その「青写真」をきちんと見極めることだろう。むろん、これだけの莫大な赤字を「こうすれば解決できる」という具合に、真正面から提案してくる政党はまずいない。前回、民主党がそれをやろうとして見事に玉砕したことは、日本国民なら誰もが知っている。

莫大な財政赤字の解決策をどうするのか--国民が最も知りたい疑問に答えてくれそうな政党は、そう簡単には見つけられそうもない。そもそも莫大な財政赤字の解決方法というか、最終的に行き着く先と言うのは、次の4つしかない。

1.財政再建を断行し債務を減少させる。

2.デフォルト(債務不履行)に陥る。

3.激しいインフレによって債務をチャラにする。

4.戦争によって債務をチャラにする。

このなかで、欧州がいま取り組んでいるのが、<1>の財政再建に取り組む方法で、最も王道とも言える方法だ。借金してしまったものは、支出を減らしつつ、一生懸命働いて返済するしかない。だが、過去を振り返ってみると、莫大な財政赤字を抱えた国家は、結局のところ<2>のデフォルトに陥るか、もしくは<3>の激しいインフレによって莫大な財政赤字を解消させてしまうパターンがほとんどだ。

莫大な財政赤字の解決方法は「財政再建」「デフォルト」「インフレ」?

現在の日本の財政赤字は、少なくとも対GDP(国民総生産)比では、歴史的に見てもどの国も経験したことのない莫大な財政赤字を抱えている。いまや日本政府の総債務残高は、対GDP比で245.0%(2013年予想、IMF)にも達しており、待ったなしの状態だ。民主党にせよ、自民党にせよ、あるいは第3極にせよ、いずれは「財政再建」か「デフォルト」、「インフレ」そして「戦争」によって、現在の莫大な財政赤字を処理しなければならない。

大手メディアによると、日本全体は保守化の流れが進んでいるそうだが、「戦争」による財政赤字解消はほぼ100%不可能に近い。「国家債務危機(ジャック・アタリ著)」や「国家は破綻する(カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ著)」によれば、第2次世界大戦時に英国が、現在の日本と同程度の財政赤字を抱えていたにもかかわらず、戦勝国になったことで財政赤字を解決できたと指摘している。当時と現在とでは時代背景があまりに違いすぎることは言うまでもないだろう。

民主党政権がやろうとした「構造改革などによる財政改革」は、官僚やメディアの妨害によって頓挫してしまったが、問題は今後の日本を担う政権は、戦争を除く「財政再建」か「デフォルト」もしくしは「インフレ」のどれかを、好むと好まざるとに関わらず選択しなければならないことだ。

その姿勢をいまのところ鮮明にしているのが自民党だろう。日銀法を改正してでも、より積極的な金融政策を日本銀行に迫り、無制限の金融緩和を実施することでインフレを達成しようとしている。自民党が発表したマニュフェストのたたき台ともいえる「中間とりまとめ(骨子案)」によれば--

●2%の物価目標を設定

●日銀法改正を含めて政府・日銀の連携強化の仕組みを作る

●政府・日銀と民間出資による「官民協調外債ファンド」の創設 

となっている。外債購入も視野に入れた「無制限の金融緩和」がその中心的なものになっているわけだ。インフレターゲット政策、無制限の金融緩和、外国債券購入による円安誘導などを複合的に行えば、一定の成果を出すことが出来ると自民党政権は考えているようだが、欧州や米国の「無制限の金融緩和」をみても分かるように、金融緩和政策だけでは景気回復はできない、と考えるべきだ。20年間やってきたことが、今度は成功するとは思えない。日本が世界中にマネーをばら撒くことで、世界全体の過剰流動性に拍車がかかり、アジアや南米といった新興国の株価や物価は上昇するかもしれない。あるいはリスクマネーの資金源が潤沢になる。しかし、それが日本国内の景気回復につながらない可能性が高いのだ。

すでに金融マーケットは、安倍政権の誕生を読んで、円安、株高、債券安を読んで動き始めている。先にあげた財政赤字の解決法だが、国民にとって最悪の政策と言うのはいったい何か。現在のギリシャがあえいでいるような財政再建なのか。それとも、自国通貨の国債がデフォルトを起こして、ハイパーインフレを引き起こしたロシアのようなスタイルなのか。

インフレによる財政赤字解消は国民生活を破綻させる?

インフレによる財政赤字の軽減は、上手くいけばベストの方法なのだが、それにはいくつか条件がある。まず景気回復が伴わなければならないこと。株高や円安によって日本を代表する国際優良企業が業績を回復してくれば、個人消費が上向く。日本経済低迷の元凶である「需要不足」を解消できるかもしれない。

しかし、仮に中国との関係悪化が今後も続き、原発問題などで貿易赤字が続くようなことになり、景気回復が実現できなくなったときには、円安、インフレ、債券安(金利高)だけが残ることになる。安倍政権が誕生してインフレを目指すのであれば、すくなくとも一刻も早く中国と対話して、現在の関係を改善する必要がある。その覚悟が自民党にあるのか。それが、今回の総選挙の争点と言っていいだろう。

いずれにしても、莫大な財政赤字の解決方法としての「インフレ」は、年金受給者などの生活を破綻しかねない。どんな時代でも、超インフレによる財政赤字の解消法は、国民生活を破綻させる最悪の選択肢の一つだ。各政党が、財政赤字をどう解決させるのか。その方法を聞いてみたい。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

岩崎博充の最近の記事