日本の選挙を映し出す『なぜ君は総理大臣になれないのか』大島新監督インタビュー

『なぜ君は総理大臣になれないのか』大島新(おおしま あらた)監督(構想日本撮影)

6月13日からドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が公開されている。野党議員である小川淳也衆議院議員に密着し、政治家としての苦悩や、家族を巻き込んで行う選挙の裏側を描いている。

公開前には女優の小泉今日子さんが推薦コメントを送ったり、公開から1週間は連日満席になるなど、注目度が高まっている。

私は、縁あって試写会に参加させてもらった。国会議員の秘書をしていた立場として、一般的には騒々しいと思われているであろう選挙活動の地味な部分や、それに携わる関係者の思いを脚色せずに伝えている作品はこれまで見たことがなかった。同時に、長年にわたって小川さんを映し続けた大島新監督に魅力を感じた。

今回、大島新監督にインタビューさせていただき、ドキュメンタリー作品を作ることの理由や、この映画に込めた思いをお聞きした。

「今の時代が求めているニーズを、作品を通して切り取る」

ー 大島さんは、「情熱大陸」や「ザ・ノンフィクション」など、ドキュメンタリー番組の制作を中心にされてきました。長期間の取材が必要になりますが、公開や放送するタイミングはある程度見据えているのでしょうか?

大島監督

「テレビの場合はあらかじめ放送時期が決まっていることがありますが、それ以外はゴールが見えていないことが多いです。映画だと誰かに頼まれているわけではないですし、今回も撮り始めていつ終わらせるかっていうのはまったく考えていませんでした」

ー 私は特に「ザ・ノンフィクション」のファンでほとんど録画していますが、その中でも昨年放映された「レンタルなんもしない人」は一番面白かったです。

大島監督

「あれはうちの会社の若いディレクターが取材しました。あのような方の存在自体が現代的ですよね。その事実を大事にしたかった。要するに、ニーズがあるんですよね。今という時代を、彼を通して少し切り取ることができるのではないかと思いました」

あらゆる分野から距離が置かれる「政治」をあえて題材にした理由

ー 今回の映画は、小川淳也さんという国会議員を取材対象にされています。現職の政治家を題材にした映画は珍しいと思いますが、なぜ作ろうと思ったのですか?

大島監督

「映像作家として政治には興味があったのですが、大手メディアの政治記者以外は関わりにくい面があります。そんな時、2003年に私の妻の同級生である小川さんと出会いました。会ったその日のうちに被写体として面白いと思ったのと、人間としての魅力を感じました。

撮影したものを『ザ・ノンフィクション』に持って行ったのですが、1人だと政治的な思想が出てしまう恐れがあるので他の候補者もセットにしてほしいと。結果3人のオムニバスで放映しました。

その後、2016年に、自民党の「魔の2回生問題」や閣僚の失言などが相次ぎ、政治が混乱しているのに安倍政権は盤石で、野党の存在感が出ない。そのタイミングで小川さんと食事をしていた時に、直感的に絶対映画にしようと思ったんです。当初は『ある野党政治家の挫折』をタイトルにしようと考えたのですが、翌日には『なぜ君は総理大臣になれないのか』でやろうと決めていました。

小川さんはとても優秀な方だと思いますし、政治家としての期待感もありますが、その前に人としてすごくまっとうだという点に魅かれている。普通に政治の世界にいたら、正気でいるのは難しいと思うのです」

大島監督(構想日本スタッフ撮影)
大島監督(構想日本スタッフ撮影)

ー メディアで不偏不党という言葉が出てくるように、政党色が付くことを恐れますよね。本来は政治に関わることと政党色が付くことは違うはずですが、どの分野においても政治に対して距離を置いてしまうケースがあると感じています。この作品を作るプロセスで政治的リスクを感じることはありましたか?

大島監督

「公開にあたって少しだけ感じました。おかげさまで評判になっていることもあり、やりたいという劇場が増えていますが、1人の政治家を取り扱ったこの作品は政治的な色が付くから「プロパガンダのように思われてしまうのが嫌だ」という理由で断られる劇場も、少ないですがありました」

ー 関連して、最近、小泉今日子さんなど著名人がSNSで政治に対する発言をしていることが話題になりました。海外であれば当たり前ですが日本ではとても特殊に映る。このような、海外と日本との違いについてどのように感じていますか?

大島監督

「去年『新聞記者』という映画が、内容に賛否はあったものの日本で話題になりました。日本映画としてあれを作ったこと自体への評価は高かったですが、それでも特定の人物にならないようぼやかしたりとか、出るのをためらった俳優も多かったと聞きます。同じ頃にアメリカでは『バイス』という、チェイニー元副大統領を主人公にした映画が作られていて、元副大統領をかなり虚仮(こけ)にしているんです。当時のブッシュ大統領もチェイニーも、ラムズフェルドもすべて実名で、そっくりさんのような役者が出てきて、エンターテインメントにしている。この違いはとても大きい。日本は世界基準からするとまだまだです」

カメラを通して、名もなき皆さんの苦労と純粋な応援が見えてくる

ー 映画を拝見して意外だったのは、小川さんそのものよりも小川さんの後ろ側にある家族であったりとか、選挙運動をクローズアップされる場面が多かったことだと思うのですが、大島さんの意図があったのでしょうか。

大島監督

「僕自身は小川さん中心で作るつもりでした。ただ、ドキュメンタリーの面白いところでもありますが、選挙のようなものがあると他の方にも当然カメラを向けるし、撮影していく中で新しい面白いことが出てくる。編集の段階で、編集スタッフやプロデューサーなど色々な人の意見が入ってくると、家族の話にすごい魅かれるという話も出てくる。今回は18回編集中に試写をしているのですが、第1稿から始まって、何度も何度も見て、また修正して構成を変えることを繰り返す過程で、せめぎ合いをしながら出来上がりました。

作品を創り上げる過程で、自分の中で大事にしたいテーマ、今回であれば小川淳也さんの活動と小川さんがなぜ総理大臣になれないのかという軸の部分と、映画作品として楽しんでもらえることの両方を考えることがポイントだと思っています。

家族の部分は、見る側にすると、私が思っている以上に魅力的に見えたりとか、わかりやすい。小さかった娘さんたちが大きくなって、選挙の手伝いをするようになる。その変化に共感してくれる人が多いかもしれません」

対談の風景(構想日本スタッフ撮影)
対談の風景(構想日本スタッフ撮影)

ー 私自身、過去に国会議員の秘書として選挙に何度も携わった実感として、選挙活動の現場は世間的にはうるさいと思われているけれど、中で活動している人たちからすると、かなりのハイテンションで極限状態ではないかと思っています。大島さんは小川さんの選挙を2回映してきて、違和感はありませんでしたか。

大島監督

「仰る通りで、応援している皆さんの熱量の高さに驚きました。例えば後援会の女性の皆さんが事務所に集まってビラを折っているシーン。大勢集まってビラを折るなんて選挙以外では想像しにくいですが、選挙では標準的な作業で、でも、とても心に残るんです。名もなき皆さんが、無私、純粋に応援していることがじんじんと伝わってきました。

違和感もありました。一部映画の中にもありますが、「なんでこんなことをせんといかんのやろう」という中学の同級生の声はその通りだと感じますし、小川さんが田んぼの真ん中で「〇〇町の皆さんのために」と演説するんです。東大を出て官僚になったエリートで、理知的な小川淳也が田んぼの真ん中、誰が聞いてるかわからないようなところで演説をしている事実は、頭がくらくらするほどの衝撃でした。でも、今はあれしかやり方がないのですよね。本当に不思議な感じです」

ー 選挙期間中に小川さんが候補者として事務所に帰ってきて、昼ご飯を食べるところもカメラを回したり、選挙カーの中で待機している間もカメラを向けて話をしている。秘書だった立場からすると、候補者を休ませなければいけないとか考えてしまいますが、でも、あのような姿が見えるからこそ、着飾っている候補者ではなくて、1人の人間だというのが見えてくると思いました。大島さんの思いがあったのでしょうか。

大島監督

「小川さんのキャラクターである飾らない人柄が一つと、やはり、僕と彼の信頼関係はあっただろうと思います。他のメディアはNGであったコアな支持者との会議でも、私はカメラを回すことを許されました。小川さんの周りも含めてそのように捉えてくれていたので、控室で一緒に弁当を食べたりもしていました。ですので、今ご意見いただいた点が一番うれしいです。映画シーンにもありますが、選挙カーの中で無所属とどっちが良いか悩んでいる場面などは、僕と彼の長い関係があったから撮れたと思ってます」

ー 今回のように、事実に即した選挙の映画はこれまであまりなかった。選挙の裏側や田んぼの真ん中で演説をしている場面が映し出されることで、違和感を持ったり疑問を持ってくれるだけでも、選挙を身近に感じてくれるのではないかと思います。

大島監督

「そのように見ていただけたらうれしいですね。英語版の制作を始めようとしていまして、どこまでニーズがあるかわからないですが、海外で見てもらうことで、日本の選挙への反応を見たいですね」

ー 今回のように、政治を映像やドキュメンタリーの題材にするのは難しいですか?

大島監督

「映像との親和性を考えると、政治はやっぱり映像にしにくいですね。理屈っぽいので、どうしても言葉の世界になってしまう。映像はカメラが回っていないと何も始まらない部分があります。スポーツ選手や料理人のドキュメンタリー作品が多いのは、映像にしやすいからです。ただ、選挙だけはちょっと例外で、先ほど話のあった異様な選挙の熱みたいなのがあって、それは映像でも伝わります。政治一般は向いていないけど選挙は面白い」

政治家に大切なのは「言葉の力」

ー 政治家には求心力が必要だとよく言われますが、では、求心力を持つために必要な資質は何だと思われますか?

大島監督

「政治家として大切なのは言葉だと思います。借りてきた言葉や読んだものではなくて、自分の心の底からしっかり言葉が発せられているか。そこは人間力も関わってくると思う。新型コロナ(ウィルス)の時の、ドイツのメルケル首相の言葉と安倍さんの言葉は違うと私は思いました。田中角栄さんは批判も多いけど、言葉の力を持っていた政治家だと思います。だから、多くの人の心に残っているし、良くも悪くもですが実行力もあったのだと思います」

ー ドキュメンタリーは、他の映画や番組よりもメッセージ性が強く出るようにも思うのですが、当事者としてはいかが思われますか。

大島監督

「確信犯的に社会的なメッセージを出すとまでは考えていないですが、私自身の思いや価値観は、どのような作品でも入っています。ただ、見た人にそう悟られずに出すよう心掛けていまして、見てくれた人が、自然と見る前に比べて少し考えや景色が変わるようなものが作りたいといつも思っています」

ー 今回の作品を特に見てほしい層はありますか?

大島監督

「ドキュメンタリー映画自体、シニア層が中心なんです。もちろんそのような方にも見ていただきたいですが、できれば20代、30代の有権者に見てほしい。今度、九州での上映に絡めて、九州の大学の先生が、授業の一環でイベントを企画してくれているのがとてもうれしいです。若い人が政治を考えるきっかけだったり、投票するときの基準は何かを考えることにつながるといいなと思っています」

ー 本日は誠にありがとうございました。

大島監督

「こちらこそありがとうございました」

政治に求められる価値観の多様性

【伊藤所感】

この映画の評価対象は、モデルの小川淳也議員のものが多く、その中でも「小川さんの誠実さ」を評している人が多い。自身も小川議員とも親交があり、お付き合いをする中で同様に誠実さを強く感じている。しかし、今回はあえて小川議員ではなく監督の大島さんにスポットをあてた。それは、私自身が大島作品のファン(お会いしてから知ったことだが)であることに加え、大島さんにも小川さん同様の「誠実さ」を感じたからだ。

大島さんは、決して自分を大きく見せることなく謙虚にお話しされていた。海千山千のメディアの世界で活動している人として、意外でもあり、一方でそれが大きな魅力にも映った。

その魅力をさらに紐解いていくと、結果ありきではなく、今起きている事実、しかも表面に留まらず、裏側も見せながら受け手が様々考えることに重きを置いている。それを、一面ではなくて、長期間の取材を通して見せようとしているからではないだろうか。

今は価値観が多様化しているため、何をするにしても「絶対正しい」と言えることは一つもないと思う。だからこそ、なぜその現象が起きているのかを、考えるプロセスが重要だろう。

多くの人に、この作品を見ていただき、選挙や政治、政治家について、多くのことを考えてみてほしい。

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大島 新(おおしま あらた)氏(ドキュメンタリー監督)

1969年神奈川県藤沢市生まれ。

1995年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。MBS「情熱大陸」、NHK「課外授業ようこそ先輩」「わたしが子どもだったころ」などを演出。2007年、ドキュメンタリー映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を監督。同作は第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞した。2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。2016年、映画『園子温という生きもの』を監督。

プロデュース作品に『カレーライスを一から作る』(2016)『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018/文化庁映画賞 文化・記録映画大賞受賞)など。文春オンラインにドキュメンタリー評を定期的に寄稿している。

構想日本スタッフ撮影
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