Yahoo!ニュース

参議院選挙「1票=500円」を肝に銘じる。

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与
1票にかかるコストが500円以上の計算になる

参議院選挙は21日が投票日。

先週末はメディア各社が世論調査を行い、15日(月)には一斉に結果を報道している。

「与党 改選過半数の勢い」(読売新聞)、「改憲勢力3分の2迫る」(日経新聞)など、大手紙の一面には既に大勢が決まったような文言が並ぶ。今回に限らないが、投票日までに各種世論調査で既に大勢が決まっているような報道が出ると「もう決まってるじゃん」としらけムードが出る印象がある。7月5日~14日までの10日間の期日前投票者数は630万9589人(総務省発表)で、3年前の参院選に比べて増加しているが、それでも全有権者の5.92%に過ぎない。選挙をするのはメディアではなく、私たちであることをまず考えておきたい。

有権者1票のコストは「536円」

「選挙には多額の税金がかかる」と良く聞くが、具体的にいくらかかっていて、何に使われているのか。政府が作成・公表している「行政事業レビューシート」を見ると、それが見えてくる。

平成31年度行政事業レビューシート(政府資料)
平成31年度行政事業レビューシート(政府資料)

上記は、今回の参院選の事業費が書かれているレビューシート。予算は約571億円。参院選公示前日の7月3日の有権者総数が1億658万7857人なので、有権者1人あたり、つまり1票にかかるコストは536円ということになる。

この投票引換券が500円以上かかるとも言える(写真は3年前の参院選時の筆者のもの)
この投票引換券が500円以上かかるとも言える(写真は3年前の参院選時の筆者のもの)

3年前の参議院選挙の時は528億円の事業費で有権者数が1億660万人なので496円、6年前の参院選が同じく490億円で1億415万人なので1票あたり471円。概ね500円前後で推移していることになる。

3年前の参院選(選挙区)の投票率は54.70%、棄権者数は4811万人。単純化して言えば、241億円(500円×4811万人)分の投票券が放棄されたことになるのだ。

571億円の使いみち

先述の行政事業レビューシートを見ると、具体的な使いみちも見えてくる。前回(平成28年)の参院選の実績で見てみよう。

平成29年度行政事業レビューシート「資金の流れ」(政府資料)
平成29年度行政事業レビューシート「資金の流れ」(政府資料)

上記のお金の流れを見てみると、事業費528億円の9割以上にあたる約487億円が都道府県への委託費用になっており、さらにその88%(約428億円)が都道府県から市町村へ委託されている。これは、地方財政法と公職選挙法により、国政選挙に必要な経費はすべて国が全額負担することになっているためだ。

では、地方では具体的にどのようなことに使っているのか? それは下図を見るとわかる。都道府県の中で最も多くの国費が投入された東京都では、市区町村への交付額が41億円、候補者の政見放送やポスターの作成、新聞広告にかかる費用が3.2億円(公選法によりこれらの経費は公費負担することになっている)、選挙事務全般の事務費が2.3億円、選挙啓発費が2200万円などと記載されている。

次に市区町村。一番国費が投入されている横浜市は、投開票所に係る人件費が計4.3億円、選挙事務全般の事務費が3.2億円、ポスター掲示場の設置と撤去費で6500万円、期日前投票所に係る人件費などで6100万円、選挙公報の配布費などで3800万円などとなっている。大まかに整理すると、都道府県は選挙に必要な機材の作成を行い、市区町村は人件費が中心であると言える。

平成29年度行政事業レビューシート「費目・使途」(政府資料)
平成29年度行政事業レビューシート「費目・使途」(政府資料)

テレビと新聞に最低でも20億円以上の国費

選挙期間中にNHKで流れる候補者や政党の政見放送、新聞各紙の広告欄に登場する候補者や政党の広告は、候補者などが負担するわけではない。当然ながら各社のサービスでもなく、法律によってその経費は国が負担することが決められている。

上記2つのレビューシートの抜粋を見ると、政見・経歴放送にかかる経費として3000万円(うち2800万円がNHK)、新聞広告費として新聞社8社に14億円流れていることがわかる。ただし選挙においてのメディアへの支出額はこれだけではなく、候補者個人の新聞広告や政見放送にかかる経費は先述の地方への委託費の中に含まれるため、さらに多くの国費がメディアにいっていることになる。

なお、このほか、選挙運動用のハガキ(支持者が当該候補者を応援していることを自らの知人に表明することを目的としたハガキ)を選挙運動で利用することが認められているが、このハガキの作成費や郵送費は候補者側ではなく国費で負担することが決められている。その合計15億円は、日本郵便株式会社に支出していること、また、選挙期間中の候補者の公共交通による移動も国費で負担することとなっていて、その金額が1.6億円だということも、行政事業レビューシートからわかる。

選挙費用528億円(今回は予算ベースで571億円)が高いかどうかは、個々人の考え方次第だと思うが、金額だけで判断するのではなく、その中身をしっかりチェックする必要はある。例えば新聞広告を公費負担にするのは止め、掲載の有無も含めて候補者や政党の自己判断にしても良いのではないか、インターネットによる選挙運動が解禁されている中で15億円もの税金をかけてハガキを配ることが適切なのか、など議論の余地は多分にあろう。

571億円を使うことの成果指標は投票率の向上ではないのか?

少なくとも今回の選挙は、この仕組みの中で行われているからこそ、政治もメディアも国民も一緒になって、571億円を活きたお金になるような選挙にする努力が必要だと考える。そのための重要な成果指標は「投票率」だ。総務省のレビューシートの成果指標は下図の通り、

「本事業は、参議院議員の任期満了に伴い実施される参議院議員通常選挙の管理執行を行うものであるが、経費等も含め法律に基づいて執行されるものであり、定量的な成果を示して行政事業の評価を行う性質のものではない」とし、目標は「公正な国政選挙の確実な実施」、実績は「参議院通常選挙の公正な実施を確保した」

と記載されている。公正な選挙を行うことは当然として、何のために候補者の宣伝経費や選挙啓発活動を国費で行っているのかを考えると、有権者に選挙への関心を持ってもらい投票に行ってもらうことが理由であるはずだ。

平成29年度行政事業レビューシート「成果目標」(政府資料)
平成29年度行政事業レビューシート「成果目標」(政府資料)

6年前の参院選はの投票率は52.61%、3年前の参院選は54.70%。

総務省は「投票率の向上は有権者次第」と他人事になるのではなく、多くの国費を投入している成果であることを自分事として捉えてほしい。

それは私たち国民自身も同様だ。

「誰に投票しても何も変わらない」「自分たちには関係のないこと」などと切り捨てるのではなく、投票によって国や政治への意思表示をしていきたい。手元にまだ投票引換券がある人には、その紙は500円以上かかっていることを考えてみてほしい。「そもそも選挙に税金がかかり過ぎだ」と感じる人は、投票をしたうえで是非ともその指摘をしてほしい。少なくとも今回の選挙に500億円以上の国費がかかることは間違いないのだから、「投票引換券=500円の税金」をドブに捨てることなく投票所に足を運んで欲しい。

※構想日本では、今回示した「行政事業レビューシート」の情報を見やすくした検索サイト「JUDGIT」(https://judgit.netlify.com/)を公開した。このサイトを見れば、どのような事業にお金がかかっているのか、どのような企業が国の事業を受注しているのかなどがすぐにわかる。是非とも使ってみてほしい。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

伊藤伸の最近の記事