「無作為抽出」の手法が若者と女性の力を引き出す

構想日本が行う住民協議会はみんなが自由な雰囲気で話し合う(構想日本スタッフ撮影)

住民協議会の支柱「無作為抽出」

構想日本が進めている「住民協議会」。無作為に選ばれた住民が、まちの課題について議論する場を設け、課題の解決を目指しつつ参加住民の政治・行政への「自分ごと化」を促進するための取組みだ。これまで、11自治体で16回実施している(2018年8月1日現在)。住民協議会の最大の特徴である無作為抽出。この無作為抽出を考える上で、「若者」と「女性」が大きなキーワードとなる。

無作為抽出年齢の下限を15歳に!

無作為の抽出方法(抽出人数、年齢配分など)は実施する自治体によって異なるが、最近は、できる限り若い世代に多く参加してもらうための工夫をする自治体が多い。

千葉県富津市(人口約45000人)は、2015年、地方創生の一環として「総合戦略」(5年間の重点計画)を策定するにあたって、構想日本の協力のもと「住民協議会」の手法を活用した。他の自治体では18歳以上の市民を無作為抽出することが多いが、富津市はより若い世代にも参加してもらおうと、年齢の下限を15歳以上として2000名を無作為に抽出し、委員就任の依頼を送付した(年齢の上限はなし)。そのうち、81名が応募(応募率4.1%)。10代からも3名が応募した。最年少は15歳の男子中学生(3年生)だった。

この中学3年生の発言の中で、強く印象に残っているものがある。協議会の冒頭で、富津市の将来の人口推計や対策について、市の担当者から以下の説明がされたときのことだ。

「現在45000人程度いる人口が、このままだと2040年には3万人近くまで減少すると推測される。今後色々な対策を行うことで、何とか35000人に食い止めたい」

意見を求められた彼は、「なんでそんなに人口を増やすことにこだわるのですか? 人口が減ったとしても魅力のある田舎なら自分も住みたいと思える。(推計で出ている3万人を35000人に)5000人増やすために税金を使うことにどれだけの意味があるのかがよくわからない」と発言。

市の担当者は一瞬言葉が出ず、その後色々なことを話したが、明確な回答にはなっていなかった。少なくとも彼の発言によって会議室の雰囲気は変わった。参加していた市民の中に何となく漂っていた「人口を増やさなければいけない」という呪縛から解放されたのだと私は感じた。

なぜ「若者の参加」が会議の質を上げるのか?

若い世代の行政参加に関しては、「若けりゃ良いというものではない」「中学生は行政の話についていけないだろう」という疑念が出てくるかもしれない(実際に指摘されたこともある)。しかし、若い世代の行政の会議などへの参加は、質の向上という点において必須だと私は思う。

その理由をいくつか挙げてみる。

1.若者の発言はシンプル

若い世代は、上の世代に比べて、当然ながら知識も経験も少ない。しかし、少ないからこそ物事をシンプルかつ純粋に捉えられる。そのため、短い言葉で自分の考えを率直に伝えることができる。比べて、私も含めたいわゆる「おとな世代」は、知識も経験も若い世代より多くある一方で、自分の知っている知識を全部伝えようとしたり、色々なことに配慮しながら発言したりする結果、話が回りくどくなり何を伝えたいのかわからない状況になることも多い。

2.周りの発言に影響を与える

住民協議会は多様な世代が一緒に議論する。個人差はあるが、総じて世代が上がるほど話が長い。1.で若い世代の発言は簡潔だと述べたが、驚いたのは、議論が進んでいくうちに高齢世代の発言も短くなっていくのだ。70代の協議会委員の方が終了後の雑談で、「若い人たちの話はわかりやすいよね。彼らの話を聞いているうちに、実は自分の話が長いんじゃないかって思って反省したよ」とおっしゃっていた。若い世代の話が周囲に影響力を持つ可能性があることは、私にとっても大きな発見だった。

3.「その場にいる」ことが大事

参加している若い世代が誰でも饒舌に話せるわけではない。時には発言を求められても言葉があまり出せない人もいる。それでも参加することに大きな意味がある。それを感じるのは、参加者の発言の中に「今日いる若い人たちは違うかもしれませんが」とか、「今日出席しているような若い世代が楽しいと思える場所に…」など、その場にいる若い世代を意識した発言が随所に出てくるときだ。若い世代の存在にリアリティが生まれているのだと思う。

さらに、若者が参加すると場が和む。傍聴者のアンケートで最も多くある意見の一つが、「若い人たちが多く参加しているのを見てワクワクしてきた」(住民)、「若い人が真剣に自分の住むまちのことを考えているこの場の雰囲気がうらやましい」(他自治体の職員)など。若者がその場にいること自体が、まちが良くなる可能性を感じさせているのだと思う。

以上、若い世代が行政の会議に参加する意義を書いたが、もちろん、いきなり会議に来てもらって、行政の資料を理解しながら議論に参加することは不可能だ。必ず事前に住民協議会の趣旨や市の概要などの「勉強」をし、そのうえで協議会の議論に参加してもらっている(これは参加者全員同じ)。

気をつけなければならないのは、「若い人の声も聴いている」というアリバイ作りになってはならないということだ。どれだけ実質的参加にできるか。さらに言えば、「若くても」ではなく「若いからこそ」議論に参加してもらうという意識を、「おとな」がいかに持つことができるかがより重要だ。

福岡県大刀洗町で行った住民協議会。「防災」をテーマに若い人も女性も多数参加。元防災担当大臣の河野太郎さん(現外務大臣)も「ナビゲーター」として参加。(構想日本スタッフ撮影)
福岡県大刀洗町で行った住民協議会。「防災」をテーマに若い人も女性も多数参加。元防災担当大臣の河野太郎さん(現外務大臣)も「ナビゲーター」として参加。(構想日本スタッフ撮影)

「無作為抽出」への応募は女性比率が高い

住民協議会に参加する住民の特徴として、女性の参加比率が高くなる傾向にある。

2017年度は群馬県太田市、北海道恵庭市、福岡県大刀洗町の3自治体で住民協議会を実施したが、3自治体合計で93人の委員(住民)が応募、そのうち48%が女性だった。太田市は委員の過半数が女性だった。行政の会議でこれだけの女性が参加することはとても珍しい。単に女性が多ければ良いというものではないが、女性の参加比率と議論の質や住民協議会全体の満足度が、実際にどのように関わっているのかについて考えてみる。

女性のコミュニケーション力

一般的に、男性より女性のほうが、コミュニケーションが上手という話を耳にするが、住民協議会で多くの人たちと議論してきた実感として、間違っていないと感じている(決して参加男性がコミュニケーションを取るのが苦手ということではなく、女性がより長けているという意味で)。

住民協議会は、議論のゴールがあらかじめ決まっているわけではない。住民の日常の生活実感の中から自由に発言してもらい、そこから論点を絞り込んでいく作業である。あくまでも私の感覚に過ぎないが、男性は話の結論がある程度見通せていないと何となく気持ち悪いと感じる人が多い一方、女性は話のゴールよりも話をするプロセス自体が重要と感じる人が多いのではないだろうか。

住民協議会の議論においても、例えばコーディネーターである私からの問いに対して、「ちょっと今はまだ考えがまとまらないので意見が出せない」と答える人は男性に多く、女性はたいてい何かしらの発言をする。あらかじめ自分で考えて用意してきた回答よりも、普段感じていることのほうが本質的であることが多いと私は感じている。つまり、その「何かしらの発言」が、行政の課題を解決するためのきっかけになることが多いのだ。

「好奇心で参加」から「地域の課題の自分ごと化」へ

先述の群馬県太田市。2017年に行った住民協議会のテーマは「健康づくり」だった。その場に30代の女性Kさんが参加していた。Kさんはこれまで市の取組みにはまったく関わったことがなかった。市役所から「無作為に1500人を抽出した中にあなたが選ばれた。是非住民協議会に参加してほしい」という趣旨の封書が届き、「当選した」ようなお得感と好奇心で応募したという。

初めのうちは、市役所に市民が意見を言うだけの場をイメージし、自分は行政のことをほとんど知らないから聞いているだけだと思っていたようだが、実際に協議会の中でコーディネーターだった私がKさんに話を振ると、どんどんと実体験が語られてきた。

「出産後に『産後うつ』の症状になった。『母親はこうしなければならない』というプレッシャーを感じてしまった」「心配をかけたくなくて夫や母親に相談できず、そのうち孤独を感じた」

すると、自分の体験を一般化した発言も出てくる。

「身体を動かす健康のことに目が行きがちですが、心も健康でなければどれだけ体の健康づくりの対策をしても効果がないと感じています」

さらに、自分が辛さを解消できた経験と、それをどう生かすかという建設的な話も飛び出す。

「私は自分が苦しい時にある保健師に会って悩みを共有してもらい、一言『頑張ってるね』と言ってもらえたことが大きかった。再び子どもと向き合えるようになった」「辛いと思った時の相談相手を考えたときに、家族のような身近な存在よりも近すぎない関係のほうが逆に良いときもあるかもしれない。でも、行政に相談するには敷居が高い」

Kさんは、以上のことをあらかじめ用意して協議会に臨んだわけではない。初めは一言も発言ができないとすら考えていた。まさに「生活実感」から湧き出た発言ではないだろうか。

このような協議会での話し合いを経験してKさんは、自分の体験をシェアすることによって解決に向かうこともあるのではないかと感じるようになり、「働くママの心を守る」を旗印とした育児支援のサークルを立ち上げるまでに至った。

住民協議会最終回(第4回)の、Kさんの一言が今でも印象に残っている。

「これまで地域のことに興味がなく、自分のこととして考えていなかった。短い期間だったが自分のこととして考えることができたことは貴重な経験だった」

「場」をつくる重要性

自身の経験がまちの課題の顕在化につながり、さらに行政だけではない解決の方策が導き出されることは、決してKさんの特殊事例ではなく、そのような「場」があれば多く出てくるだろうし、それは男性であっても女性であっても同じだと思う。

では、そのような「場」が、本当に女性に用意されているのだろうか。行政の会議では圧倒的に男性が多い。意思決定をするポジションも男性ばかり。衆議院議員の女性比率も世界193か国中157番目の10.1%。女性の比率を上げるために「そのような女性を育成しなければならない」という声もよく聞く。それも必要かもしれないが、少なくとも無作為抽出の手法を使うと半数程度の女性が手を挙げるという成果を見れば、この手法を使わない手はないように思う。

「若者」と「女性」。行政や政治の世界からは少し離れたところにいる人が多いと思われているが、この人たちの参加しやすさと無作為抽出は、間違いなく親和性が高い。だからこそ、今後さらに広げなければならないと強く思う。

そして、この手法で引き出される彼らの力を、ぜひ目の当たりにしてほしい。これは「無作為抽出」の醍醐味とも言える。

「時の法令」平成30年9月15日号(第2057号)より転載