政府の事業チェック ~消費税増税に伴う「買いたたき」調査(公正取引委員会)~

現在、政府の各府省で、個々の行政事業を外部の視点でチェックする「行政事業レビュー(公開プロセス)」が行われている。この仕組みは、民主党政権時代に始まり、政権交代後も継続して実施されている(現政権になってから毎年度行政事業レビューを実施することが閣議決定されている)。

私は「外部有識者」という立場で、いくつかの省庁(今年度は文科省、復興庁、公正取引委員会)の公開プロセスに参加している。私たちの税金で国がどのような事業を行っているのか、また、今ではほとんど知られなくなった「行政事業レビュー(公開プロセス)」でどのような議論が行われているのかを国民に知ってもらうことを目的として、いくつかの事業を振り返ってみたい。

今回は、公正取引委員会(以下、公取)で行っている事業。

「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保に係る大規模書面調査」

行政事業レビューシート
行政事業レビューシート

まず、事業名が長い。そして、この事業名で何をしているかをイメージできる人はほとんどいないのではないだろうか。

事業の目的は、

「消費税の転嫁拒否等の行為について、立場の弱い事業者が消費税の転嫁を拒否されることなどによって被害を受けたとしても、自らその被害を申し出ることが期待できない。また、消費税を円滑かつ適正に転嫁する措置を講ずるためには、隅々まで監視する必要があるため、違反被疑情報を申告する機会がある事業者と、その機会がない事業者とが存在することは適切でない。そのため、中小企業庁と合同で悉皆的に書面調査を実施することによって、商品や役務(サービス)を供給している事業者が,取引先事業者(買手事業者)から消費税の転嫁拒否等の法律上問題となる行為を受けていないかの情報を積極的に収集し、問題となる行為の是正につなげることを目的としている」

出典:行政事業レビューシート

つまり、消費税が5%から8%に上がった際に、買い手の事業者(親事業者)が売り手の事業者(下請事業者)に対して「買いたたき」(親事業者が増税された3%分を上げずに請求するよう下請事業者に要求することなど)などが起きていないかを調査し、そのような事案があった場合には是正措置を取ることで下請事業者に不利益が生じないことを目的としている。

アンケート調査の送付に3億円

具体的に何をしているかというと、

 ●全事業所(約620万者)に毎年度、書面によるアンケートを送付し違反事案がないかどうかを調査する。

 ●返送されたものを入力した上で調査着手案件を精査する。

 ●下請事業者へのヒアリングなどを行い、必要に応じて親事業者に立入検査して指導や勧告を行う。

というもの。

事業費は平成30年度予算で4億7500万円(29年度決算で3億8500万円)。このうちの大部分が書面調査票の印刷・発送業務にかかっている(29年度で3.1億円)。

この事業の中心的な論点は、毎年度、書面による全数調査の必要性だった。

毎年度、全620万者に送付しているので事業開始の平成26年度からの4年間で延べ約2500万者に送付し、回答率が毎年度約1割(のべ約250万者)。そのうち調査に着手したのが4年間で約1万件。返信があった件数の0.4%、送付総数からすると0.04%となる。もちろん着手した比率が上がれば良いわけではないが、それでも少ないのではないかと個人的には感じた。

全事業所に毎年度送られているアンケート調査票の一部
全事業所に毎年度送られているアンケート調査票の一部

回答率が1割になっている要因として、実際にアンケートを送付されていた私の知り合い(個人事業主)が、「アンケート項目の中に『問題のあった取引先法人事業者』を書かせる欄がある。いきなりそこまで書くことができず、そのまま提出することもやめた」と言っていた。これは知人の特殊な考えとは思えない。私が回答する立場であったとしても、毎年度恒例で送られてくるアンケートに、実際に取引をしている事業者の名前を書くことは相当に高いハードルを感じると思う。そこまで込み入った内容は個別ヒアリングなどで聞くべきではないか(この意見については担当者もある程度同調してくれていた)。

担当者は、常に全数送付をすることによって、親事業者に対して立場の弱い下請事業者が、誰でも意見を伝えられる環境ができたという意味で回答しやすくなる。またこのアンケートはセンシティブな情報を扱うため、インターネットのセキュリティレベルを高くしなければならず、結果的にコストが高くなってしまう、という2点をもって、毎年度の書面による全数調査が必要と説明していた。

さらに、この調査によって取り戻すことができた額(本来下請事業者がもらうべきなのにもらえていなかった差額)が29年度で約8.1億円に上っているため、書面調査に要しているコストを上回っているので問題はないのでは、との説明もあった。

しかし、8億円もの金額が取り戻せた一番大きな要因は書面調査ではなく、公取の職員が調査・検査をしたことである。公取の体制がさらに充実すれば、もっと取り戻せる額が増える、つまり不当な扱いを受けている下請事業者がなくなるかもしれない。だからこそ、事務的な経費で効率化できるところはすべきと私は考えた。

議論の風景(左から3人目が筆者、インターネット中継の画像を構想日本スタッフが撮影)
議論の風景(左から3人目が筆者、インターネット中継の画像を構想日本スタッフが撮影)

事務的経費を効率化し、人への投資を

経費を抑制する手段として、(1)書面調査をインターネットに変更できないか、(2)全数ではなく毎年度重点業種を定めるなどできないか、という2点を提案した。

(1)については、先述した取引先事業者の名前を書くことをやめればセンシティブな情報は少なくなりセキュリティレベルも従前検討していたものよりも引き下げられるのではないか。

(2)については、過去4年間で指導勧告に至る業種として、製造業や不動産業が多いという調査結果も出ているため、例えば今年度は○○業種の親事業者と取引している下請事業者に限定し、回答率を上げるための工夫をするなどが考えられる。そもそもこの書面調査を経なければ公取に通報できない訳ではなく、直接連絡する選択肢もあるので、「送付の限定化=違反事案を伝えられない事業者が出る」にはならない。

以上の議論を踏まえて評価結果は、「一部改善」が4名、「現行通り」が2名(その他の選択肢である「廃止」と「抜本的改善」は0名)。グループとしての結論は「一部改善」となった。

実は、公正取引委員会が公開プロセスを実施するのは、9年目を迎える行政事業レビューの中で初めて(実施している事業は7事業のみ)。外部評価を受けるようなことも他の府省に比べたら圧倒的に少ないので慣れない面も多かったと思うが、担当者はすべての質問に対し真摯にお答えくださり、また「その場だけを乗り切る」ことを考えていたのではなく改善できることはないかを考えられていたと感じた。

予定通りならば来年10月に消費税が10%に上がる。この時に不当な買いたたきなどが生じないための準備期間としても、この後の見直しに期待したい。