投票率低下の原因は「仕組み」にあり~統一地方選を機に公選法の抜本的な見直しを~

現在、10道県の知事選と5政令市長選挙が行われている(知らない人も多いのでは)。このほか、明日告示の都道府県議会と政令市議会選挙の投票日が12日、市区町村長及び市区町村議会選挙の投票日が26日にある(これらを総称して「統一地方選挙」と呼んでいる)。

投票率と「統一率」の相関関係

統一地方選挙は「選挙の円滑な管理執行と選挙経費の節約を期するとともに、国民の地方選挙の関心を高める」(総務省「地方選挙結果調」)ことを目的として多くの選挙を統一して実施することとしているが、市町村合併や首長の任期途中の辞任などにより、今回の選挙における「統一率」(分母は全国の各種地方選挙総数、分子は統一地方選挙数)は27.4%、12年前(36.3%)から約10%も減少しており、趣旨と実態がかけ離れている状態といえる。

また、下表を見るとわかるように、統一率と投票率の低下は比例しており関係が深い。最大90%だった投票率は毎回下がり続け、4年前の都道府県議、市町村議員選挙は初めて50%を割っている。

「明るい選挙推進協会」資料より筆者作成
「明るい選挙推進協会」資料より筆者作成

投票率の低下に関する議論は選挙のたびに取り上げられ、打開策として期日前投票所を大学の中に設けたり、選挙を盛り上げるイベントを若い世代が開催したりなど、様々な取組みが行われている。にもかかわらず投票率が上がらない主な要因は、選挙制度にあると考える。

選挙に関するルールは「公職選挙法」に規定されている。この公職選挙法は、選挙に関わる様々な活動を規制しており、抜本的な法改正が必要だとずいぶん前から言われているが、実際にゼロベースでやろうとするとなかなか手強い。公職選挙法そのものがどういう法律であるかについては意外と知られていない。

公選法は1950年に制定された法律で、もともとは「衆議院議員選挙法」、「参議院議員選挙法」、「地方公共団体の長および議員の選挙に関する法律」と選挙のレベルに応じて法律が存在していたものを一つにまとめた経緯がある。小選挙区制の衆院選や首長選と、大選挙区制の参院選や地方議員選挙など、制度の異なる選挙を束ねたこともあり、この法律は全部で275条と、日本の法律では非常に多い部類になる。

この法律の特徴は、「べからず法」と揶揄されるほど禁止事項が非常に多いことや、白黒がはっきりせず「グレーゾーン」の範囲が広く、解釈に任されている部分が多いことだ。

有権者にはわからない「選挙運動」と「政治活動」の違い

その中で最も大きい課題の一つとして「選挙運動」と「政治活動」が区分されていることが挙げられる。

公選法129条は、「選挙期間中(告示・公示日~投票日前日)以外に選挙運動をしてはいけない」としている。明日告示の県議選に立候補予定の人であっても、現時点において選挙運動をしてはいけない。この規定の趣旨は、「各候補者の選挙運動開始時期を合わせることで無用の競争を避けるため」 と言われている(「地方選挙の手引」選挙制度研究会)。

では「選挙運動」の定義とは何か?

これは、法文には出てこない。同じく「地方選挙の手引」では、

選挙運動とは、

1.特定の選挙において

2.特定の候補者の当選を得または得しめるために

3.直接また間接的に当選を働きかける行為(投票依頼の意味)

と解されている(この本は判例などをもとに法の運用指針を策定しており選挙実務者の大部分は持っている)。

私が国会議員の秘書をしていた時代には、この「3要素」のうち、すべて揃うと完全にアウト、2つだとグレー、1つだとまあ大丈夫だろう、などという解釈が一般的だった。

つまり、仮に私が4月19日告示の杉並区議選に出ようとしている場合、「19日から始まる杉並区議選に向けて活動をしている伊藤伸です。是非とも皆さんのお力で当選させてください」と今日書いたりしゃべったりすると、「選挙違反」となる(選挙期間以外に選挙運動をすることを「事前運動」と呼ぶ)。ちなみに、この規制は候補者だけではなく国民全員に適用されている。フェイスブックで「次の○○市長選挙には私の元同僚の○○君が出馬します。彼は必ず○○市を変えていきますのでご支援をよろしくお願いします」と書くことは基本禁止であるため注意が必要。

「最近駅でチラシを配ったり演説したりしている人が多いけれどそれは違反なのか」という疑問を持つかもしれない。公選法は、「選挙運動」は禁止しているが「政治活動」は禁止していない。だから、いま多くの予定候補者が行っている活動はすべて「政治活動」という位置付けになっている。

特に都心部では選挙に出る人のポスターを見掛けるだろう。いま貼られているポスターはどれも2人や3人で写っている(二連、三連ポスターと呼ばれる)。これも「政治活動」の一つと解釈されており、個人の宣伝ではなく、政党や政治団体の政治活動のためのポスターと「建前上」されている。政治活動だということを明示的にするため、ポスターに小さく「●月●日政党演説会」などの告知が入っていて、顔写真のところには「弁士」と書いている。政党(政治団体)の演説会告知のためのポスターとするためだ。

昔、私が選挙のボランティアをしていた時には、予定候補者の顔写真の面積が大きい(二連ポスターであれば、予定候補者、もう一人の弁士、演説会告知などそれ以外の面積が1/3ずつという規定がある)と選挙管理委員会から指摘され、1000枚近いポスターにシールを張って面積を合わせるなどの非生産的な作業もした。

1週間で70人の候補者を知ることができるか?

市区議会議員選挙であれば、選挙期間は7日間しかない。4年前の杉並区議選に立候補した人は72名(定数48)。1週間で72名の活動を知ることは絶対不可能だ。一方で、新聞や政党の機関紙、ホームページなどでは「予定候補者」として誰が立候補するか記載している(報道評論の自由)。告示日までは選挙運動してはいけないことを理解している有権者は、はたしてどれだけいるだろうか。

告示日前から誰が立候補するのかを知ろうとしてその情報が得られている人からすれば、この規制は形骸化しているし、選挙が始まってから知る人にとっては情報を得るための時間があまりにも短く、結果として「誰に入れて良いかわからない ⇒ 誰に入れても一緒 ⇒ 選挙に行かない」となっているのではないか。

このように選挙期間を定めて、その間しか選挙運動をしてはいけないという国は、日本のほかにフランスくらい。アメリカ、イギリス、ドイツなどは選挙期間という概念がなく、投票日だけが設定されるため、いつから選挙運動を始めても良い。

投票に行かないことを嘆くだけではなく、仕組みの改革も含めた本気の議論をそろそろ始めなければならない。