イラク 汚職や失業問題を訴える反政府デモで死者100人超 その背景にあるもの

イラクの反政府抗議行動 外出禁止令解除後に集まった人たち(写真:ロイター/アフロ)

◆イラクで100名の死者を出すデモが発生

イラクがまた荒れに荒れた。

イラクの首都バグダッドなど南部の都市で政権への抗議デモが起き、10月1日から1週間ほどの間に死者100人-150人を出す事態になった。死者は主にイラク政府の機動隊などに攻撃された一般のデモ参加者だった。

デモ隊の主張は、高い失業率や政治家の汚職対策を求めるもの。被害の数は定かではないが多ければ、負傷者は4000-6000人、逮捕者は923人だという。(すでに釈放されたのは少なくとも666人)。実弾、ゴム弾、催涙ガス、また水ではなく熱くなった放水砲などが使われた。政府によりインターネットは遮断され、10月3日から5日まで外出禁止令がバグダッド、ナシリーヤ、アマラ、ヒッラなどでも出されていた。

1.イラク政府の機動隊は何をしたのか

国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルヒューマンライツ・ウォッチの報告によると、機動隊は警告を発することなく人々に発砲、また暴行を加えて拘束することもあった

負傷したデモ参加者が病院に行くのを妨害、病院で人々を拘束するといった事態も確認されている。

またアムネスティに証言をしたジャーナリストや活動家は当局から「沈黙するように」あるいは「名前はすでに報告されている」などの圧力を受けているという。

覆面の武装集団がデモの様子を伝えた政府系でない放送局、アルアラビーヤ、NRT、TRTなどを襲撃もしている。従業員に暴力を加え、金銭や電話を奪い、放送設備を破壊していったというケースも報告されている。NRTの事務所の前にあったイラク警察はその事態に何も行動を起こさなかったという。

2.デモ参加者は何をしたのか ~南部ナシリーヤではシーア派政党が攻撃の対象~

イラク内務省によると抗議行動では51の公共施設と8つの政党本部がデモ隊によって火をつけられたという。

ナシリーヤのあるジーカール県ではヒューマンライツ・ウォッチによるとデモ隊は投石、タイヤに火をつけるなどをしていた。

ナシリーヤの抗議参加者が抗議の対象にした中にはシーア派の政党組織の事務所があった。

イラン政府の影響力が強く独自の民兵を持つバドル旅団の事務所に抗議行動参加者が火をつけようとしたところ、バドル旅団の兵士、機動隊、人民動員軍(PMF、ハッシェド・シャービー)が事務所の上の階から抗議者に向かって発砲したとの証言がある。PMFはイラク軍を構成するシーア派系の元民兵組織で、バドル旅団もその傘下にある。

その他のシーア派政党アサイブ・アル・ハックの事務所に500人が抗議に押し寄せ、投石や建物の前でタイヤに火をつけるということが行われた。証言者によるとこの際も事務所建物から発砲されたが、怪我人はいなかった。

イラク南部はシーア派人口が多数派であり、様々なシーア派政治政党が活発に活動している。イスラム国との戦闘に貢献もしたとされるPMFへの支持も高いと思われるが、しかしながら人々のシーア派政党への反感などがこの抗議行動から読み取れる。

ナシリーヤのバドル旅団の事務所 抗議が行われた事務所かは不明(筆者撮影 2019年4月)
ナシリーヤのバドル旅団の事務所 抗議が行われた事務所かは不明(筆者撮影 2019年4月)

3.首相の対応

イラクのマハディ首相はデモ隊の失業率や汚職問題の改善を求める主張は「正当な要求」ではあるが、「問題はすぐには解決できない」、機動隊の対応は「苦い薬」だとして暴力を容認する発言をした。その後、政府は住宅の建設、貧困家庭への支援、失業者への支援、デモで亡くなった人の家族への補償を約束し、一応のところデモは収まった。しかしながら、バグダッド近郊のサドル・シティーなど抗議行動は続いている。

◆背景には何が?

1. 高い失業率

デモ自体は今年の夏頃から散発的にバグダッドなどで続いていた。特に大学を夏に卒業したにもかかわらず、就職先を見つけられなかった若者たちがデモに参加していたという。

若者の失業率は17%から25%。イラクをはじめ中東諸国では大卒者も多い。将来に対して学び、準備すればするほど、その将来が実現しなかった場合の人々の不満はことさら大きくなる。

努力をしても、将来に夢を託しても報われないという感覚が生まれた。イラクではここ最近、若者の自殺が多いことが明らかになっている。先行きの見えない将来に我慢の限界が訪れたともいえる。

2.汚職とインフラの不足

加えて政治の腐敗もイラクの抱える大きな問題の1つである。イラクは汚職ランキング(CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2018)では世界180カ国中、汚職度の高さは13位である。

また電気や水などの公共サービスのインフラが不安定なことも人々の不満としてある。イラク人はよく「私たちはすべてを持っている。でも何も持っていない」という。石油など豊かな資源があるにもかかわらず、それが実際の自分たちの生活には何も還元されていないという意味だ。

これは何もここ最近に始まったことではなく、2003年のイラク戦争以降の事態である。仕事に就けないことへの苛立ち、汚職やインフラ不足など富が一部の人に独占されているという感覚が人々の間に根強くあり、それが爆発したのだ。

3.イスラム国掃討作戦に貢献した人気の軍人の解任

またイラクの一般人に信頼される軍人の解任も引き金となった。9月下旬、イスラム国の掃討作戦で指揮をとり、イラク中で人気のあった軍人、対テロ特殊部隊(CTS)のアブドゥル・ワハッド・サアディが突然、現場での任務から国防省への配置転換になった。サアディの率いる対テロ特殊部隊(CTS)は「ゴールデン・ディビジョン」とも呼ばれ、アメリカ軍から高度な訓練を受けていたため、イスラム国からの解放作戦の際、戦闘に貢献し一目置かれていた部隊だった。

サアディ自身はシーア派ではあるが、汚職にまみれた政治家と違って、宗派を超えて信頼されていた。イラクでサアディ移動の反対運動がスンニ派の街モスルで行われたことがサアディの人気をよく示している。突然の解任は政権側がサアディの人気が、今後、自分たちの勢力バランスの上で不利に働くのではと警戒した結果だと分析する人もいる。国民的英雄でさえも政権に好きなようにされてしまうという失望が、人々をデモへと駆り立てた。

ちなみにこのサアディの待遇と対照的なのが先ほども触れた軍事部隊、シーア派主体のPMF(人民動員軍)だ。イラン政府やシーア派政治政党との繋がりが強い軍事組織で、8月に首相はPMFの30旅団にニナワ県からの撤退命令を出したが、拒否するなど政権以上の力を示している。

バグダッドの街中 (筆者撮影 2019年4月)
バグダッドの街中 (筆者撮影 2019年4月)

◆人々の声

今回のデモを受けて数人と連絡をとることができた。普段は政治の話題を口にしない人々でさえも、デモ隊に共感を感じているようだった。女性の知人も自分も可能であればデモに行きたい、また子どもさえいなければ参加していたという人もいた。今回のデモは党派や政党グループが背後で手をまわしているわけではない、とすでにさまざまな分析もなされている。#Save_the_Iraqi_peopleというハッシュタグとともに、多くのイラク人が惨状を伝えようとしている。

実際に抗議行動に参加した大学生もいた。自分自身もスナイパーに撃たれかけたという人、死体の映像などを多く記録したという人もいた。詳細は不明だが、デモ隊を攻撃したのはイラク政府の機動隊であるが、イラク軍は止めて市民を守ろうとしていたという証言もあった。

外出禁止令が出ていたこともあり、家の中でじっとしていたという人も多い。途中、警察による家宅捜索が行われた。詳細は不明であるが、ある人の知人は家宅捜索の直後に「警察は何も盗んでいない」という書類にサインをさせられ、気付いた時には現金20万円ほどを盗まており、手遅れという出来事もあったそうだ。

SNS上では外国勢力が便乗していると指摘する声もある。ただし未確認の情報ばかりだ。イランのパスポートが現場から発見されて機動隊にイラン政府が協力していた、また#Save_the_Iraqi_peopleのハッシュタグのついたツイートの多くがサウジアラビアからツイートされていたというものだ。事実はわからないにしても、そのような情報が広まるということ事態、人々が外国からの介入やパワーバランスにうんざりしていることを示しているのかもしれない。

インターネットの制限は解除されたことになっているが、未だ不安定でスピードも遅く、繋がったり繋がらなかったりする。

イスラム国がいなくなり、表面上は治安も回復していたように見えた。バグダッドの住民自身からも状況はよくなっているという声を聞いたことがある。しかし勝利への興奮も2年経ち、随分と冷め、また期待していた将来が現実となっていないことを目の当たりにした。先行きはまだわからない。