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刑法改正に暗雲?法務省検討会で何が起きているのか。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
被害者に寄り添う刑法改正を求めて市民団体が呼びかけたオンライン署名

■ 被害者の声を受けて刑法改正へ

 現在、法務省では、刑法性犯罪規定の改正を審議する有識者会合である

性犯罪に関する刑事法検討会 

 が開催されており、いよいよ取りまとめに向けて佳境に入ろうとしています。

 この動きは、今の刑法の規定の下では多くの被害者の訴えにもかかわらず、加害者の適切な処罰がなされていないという不満の高まりに端を発しました。

 2017年に被害をカミングアウトした伊藤詩織さんの申告した事件が「なぜ不起訴なのか?」という疑問が高まり、さらに2019年3月、4件の性犯罪事件で無罪判決が相次ぎ、全国各地で抗議と被害者への連帯のフラワーデモが起き、現在まで続いています。こうした状況を受け、抜本的な刑法・性犯罪規定の改正を求める声が女性たちを中心に広まり、Change.orgでも10万を超す署名が集まっています。

 こうしたなか、2020年3月、当時の森雅子法務大臣が、刑法改正に向けた検討会の立ち上げを決定、検討委員には、性被害を経験した当事者である山本潤さんや、被害者の臨床治療にあたる医師なども入り、被害者の視点に立った改正への期待が高まりました。

■ ところがいま。

 夏ころまでは、被害の実態を語り、改正に積極的な発言が相次ぎ、刑事法の専門家である委員もそれを真摯に傾聴し、改正に向けてポジティブなムードで進んできたように見えた検討会。

 改正に向けて大きく動き出すのでは、という期待が高まりました。

 ところが、12月に入り、12月8日の検討会を負えて、検討委員の山本潤さんからこのようなツイートが流れてきました。

 山本さんが代表を務める一般社団法人Springも、危機感を感じられているのでしょう。検討会に届け、とTwitterでキャンペーンをされています。

 何が起きているのでしょうか?山本さんのツイッターでは、「11月から議論が絞られ」と書かれていますが、検討会の議事録は(12月14日現在)、11月以降のものがまだ公開されていません。

 これだけ大事な、多くの人が関心を持っている課題ですので、事務方の大変かとは思いますが、スピーディーに議事録を公開して、説明責任をはたしてほしいと思います。

 是非、速やかな議事録開示をお願いしたいです。

■ 結局期待外れの小幅改正に終わるのか?

 議事録が公開されていないなかですが、参加された方々から伺ったことを私なりにまとめると、以下のような感じでしょうか?

検討会に参加・傍聴した方から聞いた感想を簡単にまとめてみました。
検討会に参加・傍聴した方から聞いた感想を簡単にまとめてみました。

 市民団体の特に重要な要求は、1)不同意性交罪の導入、2)性交同意年齢の引き上げ、3)教師やコーチ、上司などからの性被害の深刻さに鑑み、教師やコーチ、上司などの地位関係性を利用した性犯罪規定を新たに設けてほしい、と言う内容でした。

 しかし、まず不同意性交罪については、そのままのかたちで導入することが難しく、不同意と言える場合を条文に列挙していく方向が提案されています。これについては非常に残念ですが、それでも一歩でも前進できるか、希望をつないでいきたいと思います。

 次に、地位関係性を利用した性犯罪規定の新しい創設については、18歳以上の被害者についてそのような規定を導入しようと意見は少数にとどまっているといいます。

 しかし、セクハラ、職場関係や取引先からの性暴力から被害者を保護する規定が実現しない、ということでいいのでしょうか?大学生は保護の対象外、それでいいのでしょうか?諸外国では、被害者が成人の場合も地位関係性利用類型の性犯罪規定を設けています。どうして日本で実現しないのでしょうか?

 さらに18歳未満の被害者について、親だけでなく、教師、コーチ、親戚、離婚して別居している親、施設職員などからの性暴力について監護者性交等罪を拡張できないか、という議論があります。

 しかし、高校生については教師と同意で性交する場合も考えうる、などと言った意見が出されたと聞きます。

 教師によるわいせつ事件は非常に増えており、文科省も対策に乗り出そうとしています。被害当事者である石田郁子さんは、こうした被害者がでないよう、自分のつらい体験を語り、対策を求めています。https://www.fnn.jp/articles/-/89808

 ヒューマンライツ・ナウはこの秋、石田さんの体験を政策担当者や社会一般、そしてとりわけ検討会委員にしっかりと知ってもらいたい、と考え、石田さんをお呼びしたFacebookライブを開催し、教師と生徒の恋愛と思いこまされて性被害にあって傷つくとはいったい問ういうことなのか、語ってもらいました。

 それなのに、結局、被害者が一生懸命アピールしても、検討委員はどこまで真摯に理解してくれるのだろうか、と悲しくなりました。

 その一方、低すぎる13歳という性交同意年齢を引き上げる議論についても、慎重な意見が相次いだといいます。

 以上は参加者、傍聴者から伺っていることでもあり、早く正式な議事録を確認したいところですが、議事録がなかなか公開されないまま、もやもやとしている間に、極めて不十分な改正で終わってしまうのではないか、ということを大いに危惧するものです。

 確かに、新しい刑罰規定を導入するにあたっては、積極面と同時に消極面も含めて検討し、禍根を残さないよう議論を尽くすべきで、検討委員の皆さんは多様な視点から議論を尽くしているのでしょう。消極意見がどれくらいの人数なのか、消極意見が同収斂していくかもわかりません。

 しかし、被害者の声を受けて設置された検討会設置の原点に立ち返り、本来処罰されるべき性暴力が処罰されないまま被害者が放置されることがないよう、託された使命を果たしていただきたいと思います。

 結果的に、暴行、脅迫と並んで、「威迫」などいくつかの要件をプラスして終わりだった、などという失望の結果に終わることがないようにと切に願います。

 このような懸念はなんとしても、杞憂に終わってもらいたいですね。

■ 検討会に求めたいこと

● すでに、署名や、提言書  として、市民団体の要望を伝えてきました。

 世界では不同意性交罪、地位関係性利用罪など、脆弱な立場に置かれた被害者の視点で法改正が進み、問題なく運用されています。

 私たちの提言は諸外国並みの法整備を求めるものにすぎません。日本の性暴力被害者だけが、諸外国よりも低い保護しか受けられない理由はなく、それは理不尽なことです。

 日本の伝統や、法律文化にがんじがらめにならず、諸外国の改正の良いところを勇気をもって取り入れて下さい。

● 議事録をタイムリーに公開してください。そのことによって、みんなが現状を理解し、次のアクションをとることができます。このプロセスは委員のものではなく、改正を願う多くの市民のものです。

● いま、性暴力被害に関する報道番組や新聞記事、ウェブニュースが相次いで公開され、イベントなども行われています。それはみな、いまこそ検討委員に理解してほしい、という思いからなのです。サバイバーの方々は勇気と気力を振り絞り、メディア関係者や支援者も渾身の思いでメッセージを届けようとしています。その声に耳を傾けてください。そして、歴史に残る、素晴らしい改正を実現していただきたいと願います。

これを見てショックを受けた皆さん、ぜひ、様々な形でもっと声を上げていきましょう。

このままでは、救われない人が多すぎます。

#同意なき性行為を犯罪に

#性交同意年齢を16歳に

                                (了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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