Yahoo!ニュース

木村花さんの死が問いかける、ネット上の誹謗中傷の罪とプラットフォームの責任

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
木村さんのツイッターアカウント 心よりご冥福をお祈りします。

■ SNSの言葉の暴力は命を奪う。

 木村花さんが亡くなった。ご冥福を心からお祈りしたい。

 木村さんによれば、誹謗中傷は1日100件ペースで最近まで続いていたという。

 SNS、特にTwitter上の言葉の暴力は凶器のように心に突き刺さる、そのことを改めて社会に問いかける結果となってしまった。

 彼女が「突っ張って見えるけど繊細だ」という報道があった。人は表面的に強く見えても誰しも人間である以上繊細な部分があり、第三者からの度を越した誹謗中傷には耐えられないものだ。

 メンタルが強い、弱いという問題で片付けられないし、20代の女性にSNSの言葉の暴力に耐性を求めるのは酷である。

 そして、著名人だからと言って例外ではない。著名人であればいかなる誹謗中傷にも「有名税」のように耐えるべきだという風潮はもう終わりにしてほしい。そうでなければ、このような不幸な犠牲は繰り返されるだろう。

■ 心のバランスを崩す人たち。

 韓国ではネット上の誹謗中傷に晒された若い芸能人の自殺が相次いでおり、日本も他人ごとではない。

 昨年末には元国会議員の三宅雪子さんが亡くなられた。やはり直前にネット上の誹謗中傷を苦にされていたという。

 また、性暴力被害を告発したジャーナリスト伊藤詩織さんに対するネット上の誹謗中傷やハラスメントは常軌を逸しており、伊藤さんが身の危険を感じて英国に移転を余儀なくされた。このことは、BBCの「日本の秘められた恥」という番組を通じ、国際的にも問題視されている。

 日本でも、ネット上の誹謗中傷によってストレスを抱えたり、心のバランスを崩している人は多い。

 実は、私の周囲にも驚くほどたくさんいる。中には著名な人や社会運動家も少なくない。

 しばしば法律相談を受け、法的手段をとる手助けをしている。

 中でも、被害にあいやすいのが女性である。特に若い女性の場合、突然の誹謗中傷に耐えられず、数年間たっても精神的な問題を抱え、就業にも支障をきたす人がいる。

 ビジネスインサイダーはこう伝えている。

セキュリティソフト「ノートン」で知られるシマンテックが、16歳以上の日本人女性504人を対象にオンラインハラスメントの実態を調査したところ、46%、3人に1人が悪意のあるゴシップ、誹謗中傷、セクハラなどの被害を受けていた(2017年)。うつや不安神経症を発症した人は15%で、そのうち48%が専門家による精神医療を受けており、実生活へも深刻な影響があることが分かっている。

出典:ビジネスインサイダー

 匿名性の故か、インターネット上の悪口や誹謗中傷を軽く考えている人がいると思うが、人を自殺に追いやり、多大なストレスを与え、長期にわたる精神疾患に陥れるなど、その効果は重大だ。

 インターネット上の言葉の暴力が深刻な人権侵害であることをインターネット利用者もプラットフォームも十分に認識してほしい。

■ 被害者は法によって保護されていない。

 それでは、現在のシステムや法制度は、こうした誹謗中傷の被害から個人を守るものになっているか?というとそうではない。

 こうした言動へのツイッター社のアカウント停止等対応ははっきりいって、手緩い。

ツイッターにはルールに違反したツィートを報告のシステムがあるが、それが適用されるのは非常にレアであり、多くの場合以下のような連絡が来て終了する。

 

 ご利用ありがとうございます。

 ご連絡いただいたコンテンツを確認いたしましたが、Twitterルール違反に該当するものを確認できませんでした。

 今回の件につきましてご報告いただき感謝いたしております。今後も違反の可能性にお気付きの場合には、お知らせいただけますよう、 ご協力をお願いいたします。 よろしくお願いいたします。

 

 Twitter社は、多くの誹謗中傷から被害者を守ることができていない。

 Twitterなどのプラットフォーム会社は国際展開しており、欧州等ではもっと厳しい規制に服しているのに、日本ではプラットフォームによって傷つけられる個人を守ることを怠っている。

 いくらひどい書き込みがあるとしても、プラットフォームが適切に削除などの対応をしていれば、木村さんのような被害にあった人がここまで追い詰められずに済むはずだ。

 プラットフォーム運営会社は企業の人権に対する責任を自覚し、安全に表現できる場を作るために施策を強化すべきだ。

 一方、法制度はどうか?私も何度もクライアントへの誹謗中傷関連で警察に行ったことがあるが、警察は、ネット上の殺害予告等限定的なものしか対応しない。そして、対応しても処罰は微罪だ。

 昨年、川崎在住の在日コリアンの女性に対する脅迫で罰金刑が下った。

Twitterの匿名アカウントで在日コリアンの女性に誹謗中傷を繰り返していたとして、川崎簡易裁判所は12月27日、神奈川県藤沢市の男(51)に罰金30万円の略式命令を出した。

出典:BuzzFeed Japan

 これがニュースになっているのは、大変珍しい画期的なニュースだからだ。それでも罰金は30万円だ。

 罪の大きさに相応しい対応を警察に求めたい。

 被害者を特定して、民事の損害賠償請求をするのも一苦労である。

 発信者情報開示手続も複雑で、仮処分や本裁判など、複数の法的手段を提起しないといけないが、それでもアカウントの個人情報を最後まで特定できないケースも少なくない。

 なぜ、こうした誹謗中傷に対して、大金をかけて弁護士を雇って法的手段をとらなければならないのか?法律もシステムも十分とは到底言えない。

 

■ 国際的な取り組み~プラットフォームの重い責任

 

 ドイツやフランスでは近年、ヘイトスピーチに対し厳しい法律が制定された。

 フランスでは、5月14日にインターネット上の有害コンテンツを通報から1~24時間以内に削除するようソーシャルメディア企業などに求める法律を可決した。

 

新たな法律では、テロや児童性的虐待とは無関係だが違法と見なされるコンテンツについても、通報から24時間以内の削除が義務付けられた。これには憎悪や暴力、人種差別、性的嫌がらせといった内容が含まれる。期限内に削除できなかった場合の罰金は最大で125万ユーロ(1億4500万円)に上る。

出典:BBC

という。

 ドイツでもフランスに先立ち、ヘイトスピーチであると判断されるコンテンツを24時間以内に削除することがソーシャルメディア会社に義務付けられ、違反すると500万~5700万ドルの罰金が科されているが、書き込みをした個人の処罰の強化を含む、さらなる規制強化が検討されている。

 また、国連の人権理事会では2018年、国連特別報告者から女性に対するオンライン上の暴力についての初めての調査報告書が提出された。

 これを受けた国連人権理事会では2018年7月、女性に対するオンライン上の暴力を根絶する努力を加速させる決議が全会一致で採択された。

 この決議の後、欧州でも、アジア地域でも対策が進み、女性も含めたオンライン上のハラスメントから被害者を守る法律の制定や対策が進んでいる。

 日本政府はこの決議の提案国であるが、採択後、特に女性に対するオンラインの暴力を根絶する努力を加速させる政策はない。

 報道によれば今年、ようやく総務省でネット上の誹謗中傷への検討が始まった。

インターネット上の書き込みなどでひぼうや中傷を受けた人が、投稿した人物の情報開示を請求できる仕組みについて、総務省は手続きにかかる時間を短縮できるかどうかなど、見直しの検討を始めました。SNSやブログなどインターネット上の書き込みでひぼうや中傷を受けた人は、人権侵害が明らかな場合に、投稿した匿名の人物の情報をインターネット接続やSNSのサービスを提供する企業などに開示するよう求めることができます。

 しかし、手続きに時間がかかることや投稿者が特定できない事例が増えていることなどから、総務省は有識者会議を設けて見直しの検討を始めました。有識者会議では表現の自由やプライバシーの保護と両立させながら、裁判を起こさなくても情報開示を受けられる仕組みや、投稿者を特定するために開示する情報の対象にメールアドレスやIPアドレスだけでなく電話番号を加えることなどを検討することにしています。

出典:NHK

 政府、総務省には、国際的な水準で、プラットフォームの責任を強化する方向での議論を進めるよう期待したい。

■ 芸能人・著名人を守る仕組みを

 メディアに出る芸能人など著名人が批判されるような言動をすることはしばしばある。モラルに反する内容や人権を貶める内容であれば、それは視聴者から批判の対象になるだろう。しかし、まず批判と誹謗中傷は違う。

 また、著名人もキャラクターとして演じている場合が多いのではないか?

 塩村あやか議員はこうつぶやいている。

 

 私見であるが、そもそも当然批判が来るようなモラルに反する言動、いじめやハラスメント、差別を助長するような言動はすべきでないのであり、メディア側がガイドラインを作って、芸能人がそうした言動をメディアを通じて流さないように配慮すべきではないか?

 木村さんのテレビでの言動は、賛否があるとしても、そもそもモラルに反するような言動ではなかった。

 しかし、反発を呼びそうなキャラクターを演じさせる場合はとりわけ、所属事務所が芸能人・著名人を誹謗中傷から守る仕組みを作り、個人を追い詰めないで責任を果たしてほしいと願う。 (了)

 

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

伊藤和子の最近の記事