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やっと決まったのに自己申告制?世帯単位?期限付き?10万円現金給付方法の重大問題。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ やっと決まった現金給付決定

 国民から悲鳴と非難を散々受けて、政府はようやく現金給付10万円を決定しました。

 安倍首相は決定の遅さを謝罪していましたが、諸外国に比べて支援が遅れていることは一目瞭然としています。

 明日のお金もなくて働きに出ないといけない人、家を追われる人、借金や運転資金に困り果てている人がたくさんいます。

 とにかく一日も早く現金が配布されることが期待されます。

■ 何と自己申告制

 ところが、全員一律に支給されるのかと思いきや、17日、麻生財務大臣は、この給付が自己申告制だと表明しました。

 政府が所得制限を設けず全国民に一律10万円を給付するとしたことについて、麻生太郎財務相は17日に「一方的に支給するのではなく、要望される方、手を挙げる方に配ることになる」と、給付が自己申告制になるとの見方を示した。それに対し、SNSでは反発する投稿が相次ぎ、ツイッターで「給付と麻生氏」がトレンドになった。

出典:Yahoo/デイリースポーツ

 こうした反発にもかかわらず、政府は自己申告制で進めようとしています。

首相は現金給付について、市町村の窓口に申請者が集まって感染の危険性が高まるのを避けるため、郵送やオンラインによる手続きを実施すると説明した。

出典:読売新聞

■いつになったらもらえるのか?

 まず、この方法で懸念されるのは、スピードです。

 郵送やオンラインで申請という方法では、郵送して返送して、それをチェックして、というプロセスがあるでしょう。

 オンラインと郵送、中には二重に申請する人も出てくるかもしれないので、二重チェックなども必要でしょう。途方もない膨大な事務負担で行政がパンクし、支給が遅延することが心配です。

 政府がしきりと宣伝している雇用調整助成金ですが、

 まだ2件しか支給決定されていないと報道されています(その後、20日時点では3件という報道もありました)。

厚生労働省によりますと、休業させた従業員に給与の6割以上の手当を支払った事業者に支給される「雇用調整助成金」は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた場合に助成率が最大9割に引き上げられました。しかし、3日時点で申請は214件、支給決定はわずか2件にとどまっています。この助成金に関する相談は全国の労働局に8万件以上寄せられていて、厚労省では支給までの手続きが迅速に進むよう、労働局の態勢を強化して対応にあたる方針です。

出典:テレビ朝日

今回、同様のことが起きない保証はあるのか、国は責任を持った対応をすべきです。支援の遅れは今や生き死にに関わります。

 もちろん、雇用調整助成金も早急に対応を変えてください。皆さん本当に困っています。

■ なぜ世帯主に振り込まれるのか?

 さらに驚いたのは給付方法です。

政府は20日、新型コロナウイルスの緊急経済対策として実施する全国民向けの一律10万円給付の概要を決めた。外国人を含め、27日時点で住民基本台帳に記載されている全ての人が給付対象。世帯主が郵送もしくはオンラインで家族分を含めた金額を申請し、市区町村が世帯主名義の銀行口座に家族分をまとめて振り込む。高市早苗総務相は記者会見で、人口規模の小さい市町村では5月から給付を開始できるとの見通しを示した。

出典:共同通信

 ショックだったので繰り返しますが、

 世帯主が郵送もしくはオンラインで家族分を含めた金額を申請し、市区町村が世帯主名義の銀行口座に家族分をまとめて振り込む。

 だそうです。

 確かに子どもや赤ちやんのいる世帯では、家族まとめて申請する方が便利という考えなのかもしれません。

 しかし、夫婦共稼ぎの家では通常、財布は別々、会計は独立です。成人した子どもだってそうでしょう。

 夫婦、そして家族を構成する人はみな、対等な個人であり、それぞれ経済的打撃を受けているだろうに、なぜ、世帯主の口座に振り込むのでしょう。

 世帯単位は家族がみんな仲良しで世帯主はみんなのためにお金を使うというモデルを前提にした配布方法でしょうが、そうしたモデル通りの家庭ばかりではありません。

 家庭内別居、モラハラ、DVなどを抱えた家庭は多く、それに加えて経済的DV、つまり家に生活費を入れずに家族を経済的に困窮させるというDVはとても多いのです。つまり、世帯主が浪費してしまい、家族には支援が届かない家庭も出てくるでしょう。

 今や、在宅ワークが続くなか、家族のきずなが深まった家庭もあるのでしょうが、一方で密室でDVや虐待が増え、相談も増えています。

 内閣府は4月20日から、24時間相談・DV相談+をスタートしてくれました。

 相談の結果、「来週にでもシェルターに逃げ出そうか?」と準備する人もいることでしょうし、国もそうした女性への支援を後押ししているはずです。

 避難するという時、個人単位で現金支給があれば、それからの生活費に役立ちますが、世帯主に支払われれば、コロナの影響で苦しむ女性や子どもたちには支給されないことになります。

 苦しむ人には、高齢者虐待を受けている人、性虐待を含む、虐待を受けている子どもたちもいます。

 さらに、DV被害では、現に別居、避難しているけれど、夫が襲撃してくることが怖くて住民票を移転できないという人も多くいます。

 世帯単位の申請・給付しか認めないのは、そうした人たちのことを考慮しない、杜撰な制度設計ではないでしょうか?

 撤回し、個人単位を基本とし、未成年のみ親権者が代理することを認めるなど、給付方法を変更をすべきです。

 なお、現に避難している人について、報道では、「ドメスティックバイオレンス(DV)被害などで住民票の所在地と別の場所で暮らす人にも支給する方法を検討する。 」とあり、どう具体化するかは不明ですが、しっかりしたフォローアップ体制が求められます。

■ 3か月という期間制限

 さらに、申請期限を設けるという提案にも驚きました。

申請の受け付けを開始する日は各市区町村が決めることになっていて、申請期限は、受け付け開始から3か月以内とするということです。

出典:NHK

 まず、自己申請では取り残されそうな人たちがたくさんいます。

 家を失った人たち、外国人の方々について、政府は支給対象としました。それは当然のことですが、良い政策です。

 しかし、家を失って住民票が昔の住所のままになっている人たちのところには申請用紙は届かないでしょう。

 外国人の方の中には制度がよく理解できない人もうまく記入できない人もいるでしょう。

 そもそも、生活が苦しかったり、死にたいと思い詰めている人ほど、公的な情報に接する余裕もなく、教えてくれるサポート体制やネットワークもなく、情報に接することが難しい場合があります。コロナによるソーシャルディスタンスがさらに状況を悪化させています。

 弁護士に相談に来る方の中でも、家賃や借金の督促におびえ、郵便物を開くのをやめてしまう人は少なくありません。

 健康や精神状態が悪化している人も郵便物を開封しなくなります。そうした人が取り残されるのは本末転倒です。

 また、独居や施設入所の高齢者で申請が困難な人にはどういうサポートがあるのでしょうか?

 現在、感染を恐れて高齢の親に会いに行くことを控える現役世代が多い状況にありますし、施設では面会を認めない施設も増えています。そうすると、こうした高齢者の方は置き去りにされる可能性が高いといえます。

 こうした人たちに対して、期限だけ決めて、申請がなければ切り捨てるという施策はどういうことでしょうか?まさに弱者切り捨てではないでしょうか?

 取り残される人が出ないよう、本来であれば申請を待たず一律給付にすべきだと思います。

 仮に技術的な理由で申請が必要だとしても、最も困った人が切り捨てられずに給付金がもらえるよう、期限を切らないこと、行政がフォローアップして申請を助けることが必要でしょう。

■ 補償は一回限りでなく、事態収束まで継続すべき

 ところで、この10万円は一回こっきりであるべきでなく、事態収束まで継続すべきです。

 特に、個人事業主は固定経費の支払いに苦しんで夜も眠れないという人が多いです。

 イギリスでは

新型ウイルスの流行により収入を失った個人事業主を対象に、所得の8割に当たる額を1カ月につき最大2500ポンド(約32万円)まで、課税対象の給付金として支給する。給付は6月から始まり、3か月分が一括で支払われる。

出典:BBC

 ドイツでは、

従業員5人以下(フルタイム相当)の事業者に対しては3カ月分の緊急支援として、最大9,000ユーロが、従業員10人以下(フルタイム相当)の事業者には同じく最大1万5,000ユーロが、一括で支払われる。もし、家主が家賃を20%以上減額し、かつ給付限度額を超えない場合は、さらに2カ月間の必要資金を申請額に計上できる。

出典:Jetro

カナダでは、

カナダ緊急対応給付金(CERB)が、Covid-19のために収入を失った人々に月々2,000カナダカナダドル(最大4ヶ月間)を支払う。

出典:OECD

といいます。

 日本以外の国に生まれていれば、こんなに苦しまないでよかったのに、と思ってしまいますね。

 これらの国の財政規模と日本の財政規模はそんなに違うでしょうか?

 日本はGDP世界3位ではなかったですか?なぜこんなにこれまで日本経済を黙々と支え、納税してきた人たちへの仕打ちが冷たいのでしょうか?

 10万円給付の後にも抜本的な支援の拡充を求めたいと思います。 (了)

 参照 ヒューマンライツ・ナウの声明 

※声明の後に、各国の給付などの施策の一覧表をつけています。

     

追記 報道では、「ドメスティックバイオレンス(DV)被害などで住民票の所在地と別の場所で暮らす人にも支給する方法を検討する。 」ということですので、具体案は不明ですが、追記しました。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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