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新型コロナによる外出自粛で家がまるで監獄。DV・虐待・家庭内暴力から逃げるには?

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 外出自粛で家は監獄のよう

 コロナウイルス感染拡大防止のために、東京都では今週末外出自粛となり、多くの職場でテレワークが始まっています。

 仕事がキャンセルとなったり、学校も閉鎖で、平日も休日も、一家が顔を突き合わせて過ごす状況が続いていることと思います。

 この状況はしばらく続くことでしょう。

 こういう時期は、家族が密閉空間にいるため、DV被害や家庭内暴力の深刻化が懸念されます。

 もともと、家族が行動を共にすることが多い年末年始や連休などはDVの訴えが多くなる時期なのですが、外出という選択肢が奪われると、家は監獄のようになり、さらに家庭で弱い立場に置かれる人たちの身が危険にさらされます。

 加害者が仕事上のストレスを家庭に持ち込んだり、経済的不安が増すためことから、トリガーがあればすぐに深刻な事態に発展しかねません。 

 コロナ危機以降、世界ではDV増加に関連するニュースが増えており、米国からはこのようなニュースが届いています。

「外出禁止措置でDV相談倍増 米で被害者支援団体訴え」

 被害女性らにシェルターを提供するYWCAは25日、全米49カ所の支部でDVなどの訴えが増加していると明らかにした。東部ニュージャージー州の地元紙も、州内の都市で警察への相談が倍増したと伝えた。

 過去のハリケーンや地震の後も、DVが5割前後増加する例があった。

 外出禁止で加害者のストレス増加と同時に、被害者の監視が常に可能となるため、精神的、肉体的に暴力を振るいやすい状況が生まれるという。

出典:sankeibiz

 逆にこうした相談増に関するニュースが日本でないということは、被害が潜在化して、相談機関に被害者がつながっていないことを示す、より危険な状況なのではないでしょうか?

 DVと児童虐待が同時進行で発生し、子どもが犠牲となる事件が続いています。今こそ家庭内の小さな声に耳を傾けるべき時です。

■ そもそも日本では、どこに行ってどんなサービスが受けられるのか?

 日本ではDV防止法に基づき、行政がDV被害者の相談に乗り、逃げ場を提供したり、生活の支援をしなければならないとされています。

 そうした相談を担う機関は「配偶者暴力相談支援センター」と呼ばれ、全国各地にあります。

 内閣府作成:配偶者暴力相談支援センターの機能を果たす施設一覧

 夜間休日対応していないところもありますが、例えば東京では以下のとおり夜間休日も電話相談できる機関が明記されています。

 東京都配偶者暴力相談支援センター

 

 どこなのか?調べている時間もない方は、全国共通番号 0570-0-55210 に相談してみてください。

 現に暴力がある場合は110番です。

加害者を刺激しないようにいくら気をつけても限界、という場合、まずは電話してみるところから、支援=外界につながることができます。

 家で電話していると加害者に聞かれてしまう可能性があれば、少し外に出て、電話をかけるほうが安全でしょう。

 DVから避難すること、避難のための相談に行くことは、不要不急の外出ではなく、差し迫った必要ある外出です。

 ウイルスに殺されなくても家族に殺されるかもしれないのですから。

 では、すぐに逃げたい、でも生活が不安という場合、どうすればいいのでしょうか?

 東京の「配偶者暴力相談支援センター」のひとつである東京ウィメンズプラザは、以下のページをまとめています。

 どんな支援がありますか?(一時保護、安全な生活、生活の再建など)

加害者から逃げたい

加害者からの暴力から一時的に避難する手段として、一時保護があります。

一時保護とは何ですか?

暴力を避けるために家を出たいと思っていても、加害者に知られずに身を寄せる場所が無い場合に、被害者が一時的に避難する手段です。

一時保護の間に、あなたがこれからどうしたいのか、お話を聞きながら保護の後の生活に関する支援の相談もすることができます。

誰が保護してもらえるのですか?

配偶者暴力(交際相手暴力)等から避難する女性及び同伴する子供です。

どうしたら一時保護してもらえますか?

まずは、配偶者暴力相談支援センターや警察などの相談機関に連絡してください。相談を受けた後、関係機関と連携し一時保護等の対応をいたします。

また、その他の公的機関の利用や、区市町村において緊急保護を実施している場合もあります。

 このほか、精神科医に相談できる、経済支援をしてもらえる、住まいの確保のために、都営住宅入居にあたっての優遇制度や各種福祉施設等への支援が受けられる、就労支援も受けられる、子どもの学校も住民票を移さずに転校できる、などといった行政のサポートが紹介されています。

 さらに保護命令を申し立てて、加害者から追われないようにしたり、離婚の手続をする方向でのサポートもしてもらえることになっています。

 DVと児童虐待が同時に進行しているケースは非常に深刻であり、内閣府も専用ページを作っています。

 児童相談所の全国共通ダイヤルは189

そして全国の児童相談所の連絡先はこちら です。

 こうした情報が、一人でも多くの方に届くことを願います。警察も行政も(対応者の安全も確保しつつ)、SOSが来たらしっかり介入してほしいです。

■ 日本でもDV・家庭内暴力への被害対応施策の拡充を緊急に

 世界では、DV防止対策は外出禁止などの措置と並行して重視されていますが、日本では政治のリーダーの声としてほとんど聞かれません。残念なことです。

 例えばオーストリアでは、対策とともに強いメッセージが発信されています。

 

オーストリアの法務相と女性担当相は19日、記者会見を開き、多くの人々が自宅で長時間過ごすことを強いられ、ストレスなどから、夫婦間の暴力などDV=ドメスティック・バイオレンスが増えるおそれがあると指摘しました。

 そのうえで「新型コロナウイルスの危機がDVにつながるようなことになってはいけない。女性や子どもなどへの暴力に、断固たる対応をとる」と述べて、今後、DVの相談窓口を増やすなど、対策を強化することを明らかにしました。

出典:NHK

Alternaは、欧州の対策をさらに詳細に伝えています。

2004年にDV対策を法制化し、成果を上げているスペインでは、新型コロナウィルスの蔓延に伴い、政府が緊急対策を立てた。24時間対応など既存の措置を強化し、家から出られない被害者が心理療法家とチャットできる、国レベルの女性への暴力防止キャンペーンを張るというような特別策を加えた。

フランスは10日早く外出禁止を実施したイタリアから経験を学ぶため、シアパ男女平等・差別対策副大臣が、イタリアのボネティ機会平等・家族大臣と3月19日に電話会議を行った。両国とも、被害者が安全を確保し、加害者を訴えられるよう、電話相談、避難所への誘導を維持し、外出禁止中でも刑事訴訟できることを確認した。

フランス政府のDV専用電話3919は、外出禁止中は日曜以外9時から19時まで受け付けており、無料で匿名で相談できる。緊急事態の時は17に電話すれば直接警察につながる。電話できない人は、「フランス犠牲者」連盟に加入している130団体か、公的機関「女性・家族の権利情報センター」にメールすることができる。

DVと闘う団体「私たちすべて」は、今のフランスの対策は不十分として、スペインのような緊急対策を要求する署名運動を始め、3月25日現在、7600筆に達した。

出典:Alterna

 日本でもまず、DVや虐待、家庭内暴力に対して「絶対に許されない」とのメッセージを明らかにすること、もっと身近に相談できる、チャットのような相談しやすいスキームを導入を検討すべきではないでしょうか?

 また、高齢者に対する暴力、暴言に対する悩み相談も寄せらえており、大変深刻です。

 高齢者の方は特に感染リスクが高く容易に逃げられないことから、施策の拡充が必要だと痛感します。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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