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イラクで米軍の兵器の影響とみられる子どもの先天性障がいが急増。緊急な国際的対応を求めます。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

イラク戦争から10年が経過するが、イラクでは今も戦争の後遺症で、罪もない新しい命が今も奪われ、苦しんでいる。

イラク戦争以後、特にこの数年間、イラクの医者らは先天的障がいの例の著しい増加を訴え、戦争による環境汚染が地元住民、特に乳児や子どもの健康に非常に大きな悪影響を及ぼしたことが指摘されてきた。

例えば、2004年にアメリカ軍により2回に渡り激しく攻撃されたファルージャでは、ファルージャ中央病院の記録上、2003年以来ファルージャで生まれた15%の乳幼児に先天性障がいがあるという。

そこで、人権団体ヒューマンライツ・ナウは、2013年初頭にイラク・ファルージャにおいて約1カ月間、ファルージャ総合病院の協力を得て先天性障がいに関する事実調査を行い、昨日その報告書を公表した。

タイトルは、"Innocent New Lives are Still Dying and Suffering in Iraq"、本文約50ページである。

報告書本文: http://hrn.or.jp/eng/activity/Iraq%20Report%20April%202013.pdf

既に、TBS等のTVニュースや新聞各紙で取り上げていただいた(ありがとうございます)。

実は、これは、国際人権団体が行った、2003年以降のイラクでの先天的障がいについての初めての調査報告書である。

イラクでの事態は深刻であるにも関わらず、国連も調査をしてきたことがないし、戦争当事国のアメリカやイギリスによる調査も実施されてこなかった。

1ヶ月に及ぶ調査の結果判明したのは、本当に深刻な、先天性障がいの急増であり、その症例も極めて深刻ということであり、人道危機と言うべき事態だ。

新生児は、無脳症、水頭症、顔面断裂、心臓が外に飛び出ている、などあまりにも深刻な状態で誕生し、生まれて間もなく治療の甲斐なく死亡してしまう。

生まれつき手がない、指や足に障がいがある、鎖肛など、重度の口唇口蓋裂などずっと続く障がいも残る。

ファルージャ総合病院では、生まれた子どもたちのうち約15%が先天性障がいを持っている、とするデータを公表しているが、実はこれは、生後すぐに判明する障がいに過ぎない。退院した後で、心臓病が判明する子どもたちも後をたたないという。

人々の証言や病院のデータは、イラク戦争後にこうした健康被害が著しく増加したことを示している。ファルージャでは、健康に関する権利と子どもたちの命は日々犠牲になっていた。イラクでの先天性障がいについて直ちに国際社会の関心が寄せられるべきだ。

私たちは、報告書の本文に、ファルージャ総合病院と父母の了解のもと、最近の先天性障がいの乳児の症例と写真を公開した。このような写真の公開はセンシティブな問題だけれど、家族、特に母親たちはイラクにおける先天性障がいの蔓延を強く訴えたいという意向を示していた。私たちも、何が起きているのか、世界の人々に知ってほしいと思って公開することにした。

是非とも責任を負う国に、自分たちが犯したことはどういうことなのか、きちんと直視し、国際機関にも早急に対応してほしいと思う。

では、なぜこのような先天性障がいが生まれているのか。各種疫学調査が行われ、イラク戦争中および占領下で使われた劣化ウラン兵器や兵器用の重金属が先天的障がいを引き起こした可能性が高い、という科学調査結果がいくつも示されている。なかには、濃縮ウランが使われたことを示す調査結果もある。

しかし、特にアメリカ政府は、どんな毒性兵器をどこでどれくらいの量使用したか、という情報を公開していないため、原因物質は特定されていない。原因物質や因果関係が特定されない以上、効果的な防止策や健康診断、公衆保険政策も実施されることはないから、ファルージャでは誰もが不安を抱え、子どもを産むことに恐怖を感じながら、何の対策もないまま、今日もまた悲劇が生まれているのだ。

イラク戦争は米国でも今では「誤った戦争」と認識されている。しかし、イラクの市民に対しては一言の謝罪も戦後補償もない。

仮に戦争当時に米軍が人々を殺害したことについて、「戦闘員だった」「テロリストだった」という言い訳がありうるとしても、戦争当時生まれてもいなかった罪もない子どもたちが今も犠牲にあい続け、苦しみ続けていることについて、正当化することは到底できないだろう。

ほかの国を侵略して、有毒な兵器で環境を汚染したのであれば、汚染物質について公表する、調査結果を公表する、汚染のクリーンアップを行う、それでも発生する被害について補償する、というのは最低限の義務であろう。これは国際法上の義務であるが、最低限のモラルでもある。それが全くなされていないのだ。侵略された者はやられっぱなし、そんな不正義を放置してはいけないと思う。

残念なことに、この問題について国連も全く調査に乗り出していない。イラクの人たちの人命は、とても軽く扱われ、その犠牲はなかったことにされ、忘れ去られているのだ。

とても容認できない、不当なことである。

WHOはイラク保健省とともに、先天性障がいに関する調査を実施していて、間もなく結果を公表するというが、原因物質についての調査、特に劣化ウランの影響に関する調査は「行わない」という明確な姿勢をとっている。しかし、原因の調査なくしてどうして有効な対策がとれるのだろうか。

無実の子どもたちの犠牲をこれ以上拡大しないため、戦争に関わったアメリカ、イギリス政府、特にアメリカ政府には、使用兵器と投下場所の公表と、責任ある調査を早急に行い、自分たちの戦闘行為に影響する健康被害に対し、賠償を含めたきちんとした対策をすることを求めたい。また、国連人権機関、WHOにも独立した調査を実施してもらいたい。

この問題はイラク戦争10周年を契機に、アメリカABC、イギリスのBBCやIndependent、Guardian など、ドイツのシュピーゲル、アルジャジーラなども一斉に報道、問題の深刻性を訴えている。

元米兵とイラクの市民は、米州人権委員会に対して、健康被害の回復を求める救済申し立てを行っている。

昨日もアメリカでは、ファルージャの戦闘に参加した米兵や、ファルージャ総合病院に調査を実施した報道機関、下院議員等が出演する特集番組が組まれ、ファルージャの2004年11月の作戦では民間人がいることを知りながら、無差別攻撃が行われ、無差別に非人道兵器が使われたことを元米兵が証言、なぜオバマ政権はこの問題に取り組まなのか、議論が交わされていた。

http://live.huffingtonpost.com/r/segment/toxic-fallout-in-fallujah/516ee568fe344406360002ac

私たちはこの報告書を各国政府、国連機関、WHOに送付し、今後働きかけを強化していく。特に鍵を握るのは何と言ってもアメリカである。

様々な批判はあるし、私自身何度となく失望させられているが、それでもオバマ大統領は、前任のブッシュ大統領に比べれば明らかであるが、正当な人権感覚と良心を持つ大統領だという期待は捨てていない。

二期目のオバマ政権には勇気をもってイラク戦争を総括し、最も喫緊の人道危機である子どもたちの先天性障がいの問題について、最低限のモラルを示し、これ以上の犠牲を生まない政策を決定してほしいと強く願う。

(昨日の報告書公表以来、たくさん報道いただき、ありがとうございます。もっともっと話題にしていきたいと思います)

TBS    http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye5310822.html

共同通信  http://news.infoseek.co.jp/article/19kyodo2013041901001032

中日新聞  http://www.chunichi.co.jp/s/article/2013041901001031.html

沖縄タイムス http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-04-19_48226

河北新報  http://www.kahoku.co.jp/news/2013/04/2013041901001031.htm

山陽新聞 http://www.sanyo.oni.co.jp/news_k/news/d/2013041901001031/

大分合同新聞 http://www.oita-press.co.jp/worldInternational/2013/04/2013041901001031.html

山梨日日新聞 http://www.sannichi.co.jp/kyodo/news2.php?genre=World&newsitemid=2013041901001031

北海道新聞  http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/459291.html

茨城新聞 http://ibarakinews.jp/zenkoku/detaile.php?f_page=top&f_file=CO2013041901001031.1.N.20130419T083305.xml

福井新聞  http://www.fukuishimbun.co.jp/nationalnews/CO/world/696690.html

上毛新聞  http://www.jomo-news.co.jp/ns/2013041901001031/news_zenkoku.html

下野新聞  http://www.shimotsuke.co.jp/news/domestic/world/news/20130419/1026019

47 News  http://www.47news.jp/CN/201304/CN2013041901001031.html

@niftynews http://news.nifty.com/cs/world/worldalldetail/kyodo-2013041901001032/1.htm

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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