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徹底検証してほしい。政権交代という「実験」がなぜ失敗し、変節したのか

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

今回の総選挙、民主党に対して、国民の厳しい審判がおりた。

民意は憎悪に近い思いで民主党にNOをつきつけた。

しかし、民主党側にこれを受け止める謙虚さが欠けているのは深刻である。

野田首相は閣僚や党関係者には惨敗の責任を陳謝したと伝えられているが、2009年に期待して投票した国民に対する真摯な謝罪は全くみられない。まずは心から国民に謝罪して、政権交代でなぜ期待に応えられなかったのか徹底的に検証しなければ、終わりではないか。

選挙でなぜ多くの人が自民党に投票したか、民主党から去ったのか、投票した有権者に聞いたインタビューが新聞各紙に掲載されているが、「民主党に裏切り続けられた」として行先を失ったという人が多い。「裏切られ続けた」というのは、3年余の間、何度も裏切られ、それでも期待をつなぎ、それでも裏切られたということである。実に心が痛んだ。

脱原発を訴える未来の党等に対しても、2009年の民主党と重なって見えて「同じように裏切られるのではないか」と考えて選択されなかったという。

仮にまっとうな公約を掲げても、もはや国民は信用しない可能性が高い。「甘い話には騙されない」と背をむけてしまう。

マニフェストに対する裏切りは、国民から政治に対する期待・希望そのものを奪うという、民主主義にとってあまりにも深刻な打撃を与えたわけである。

ところが、野田首相は、勝手に解散してしまった解散時期のことくらいしか反省していないようだ。

それどころかかえって党が「筋肉質になった」などと述べたと伝えられ、国民の審判を受けた後ですら反省のかけらもない。

http://www.asahi.com/politics/intro/TKY201212170844.html

これほど明確な国民の民意にすら真摯に耳を傾けない、執行部のメンバーの実情にはつける薬も見つからない。

これほど逆風なのに選挙に勝てた、と自分の人気の強さに単純に喜んでいる閣僚経験者もいて、呆れた。

体制を刷新して、徹底してなぜ国民の信を失ったか、総括することが不可欠であろう。

財源の見通しの誤りだけであれば国民もここまでは怒っていない。

問題は、国民の反対を押し切って、消費税、TPP、前発再稼働、辺野古移転、オスプレイ等を強行した責任であり、国民の期待を裏切ったこれらのことについて、徹底して総括する必要がある。

そして、党を離れた人達も含めて、是非総括してほしいことがある。

なぜ民主党が政権交代後に変節してしまったのか、変革を実現できなかったのは、力量が足りなかったのか、変革を実現できないいかなる外的・内的圧力があったのか、誰が抵抗勢力だったのか、である。

私も、政権与党の周辺でロビーや助言をしていたことから、この無残な失敗のプロセスを外側から見てきた。

ある致命的な国民への裏切り行為に携わった省庁の政務三役経験者が、私に「政権交代は革命ではない。それまでの行政を引き継いでいかなきゃならない。新しいことをいくらしようと思っても、無理だ」と語ったことがある。

単に彼らが無能で官僚を使いこなせず、結果的に裏切りに加担してしまったのか、外的な要因としては何があったのか。そして、そうしたことを繰り返さないためにどうすればいいのか。

私たちは普天間について「最低でも県外」と鳩山元首相が掲げ、それが実現できなかったことを見てきた。ここで米国の立場にたって政権の足をひっぱった官僚たち、米国の役割、メディアの役割など、元首相を孤立化された外的勢力について、後世のために明らかにしてほしい。

私たちは、原発事故直後にSpeediのデータが、首相・政権中枢に情報提供される前に官僚の間だけを駆け巡り、米軍に提供され、その間も政権中枢には何も知らされなかったことを知っている。なぜそうしたことが起きたのか。

なぜ、あそこまで財務省の忠犬に成り下がったのか(安倍氏の最近の動きとそれに対する財務省、日銀等の反応から、民主党の無能ぶりが改めて明らかになってしまっている)。

多くの論者が、野田政権を過去に比類なき対米追従内閣と評しているが、なぜそうなったのか。

人権に関する公約は全く果たされなかった。

人権条約の選択議定書の批准、取調べの可視化、国内人権機関の設置は、いずれも公約を実現することなく政権が終わった。なぜ衆参とも多数を握っていた当時に早期に公約実現のために迅速に行動しなかったのか。

死刑廃止論者であった千葉元法相が国民との対話や説明も十分に行わないまま、突然死刑執行をすることになったのはなぜなのか。

官僚の抵抗に果敢に戦って公約を果たすことができなかったのはなぜなのか。

政治主導と言いながら、あまりに素人が閣僚・政務三役に就任するのを見てきた。

ある者は使い物にならずに官僚からサボタージュされ、ある者は官僚の優秀な生徒となり、官僚の振り付けに従い、ほとんど洗脳される様子をみてきた。

きちんとした経験のある政治家、官僚を使いこなしつつ対峙できる政治家、

そして国民の負託に忠実に志を遂げる政治家を育てるにはどうしたらよいのか。

ことは民主党という党に留まらない。

仮に、民主党でなくても、まっとうな公約を掲げた政党がいつか政権交代に挑戦しようとするときに、民主党のような挫折・変節をしないようにするために、この経験をきちんと可視化し、共有し、次に繋げることが必要である。

民間から首相補佐官等の肩書に市民派に属する人たちも政権に参画した。どうか貝のように口を閉ざさずに、回顧本を書いて問題提起をしてほしい。

政権交代可能な二大政党、という「大義」が失われてなお、民意を正しく反映しない小選挙区制を継続すべきなのか。

政権交代可能な二大政党をつくる、というのは巨大マスコミも含めて90年代からつくりあげられてきた一大プロジェクトである。

その過程で55年体制は崩壊し、それまでの抵抗勢力は一網打尽にされた。

そして民主党政権のこの体たらくの後の惨敗により、自民党が圧勝し、国政に対するチェックアンドバランスはいまだかつてなく脆弱な状況にある。リベラルな視点や生活者の視点からの政権与党に対する健全で確固としたオールタナティブは風前の灯になりつつある。

民主主義の危機的状況である。

二大政党による政治改革を仕掛けた政治学者やメディアも含めて、今後の日本における健全なオールタナティブの構築にむけて、真摯な検証と議論を期待したい。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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