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【卓球】男子団体銅メダルを掴み取った 水谷隼、丹羽孝希、張本智和の「本物のチームワーク」

伊藤条太卓球コラムニスト
銅メダルに輝いた日本男子チーム(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

東京五輪2020卓球男子団体で、日本は2大会連続のメダルを獲得した。その勝利を呼び込んだのは、完璧なチームワークだった。卓球の団体戦におけるチームワークは特殊なものだ。通常「チームワーク」からイメージされるような、仲が良いとか尊敬し合っているとかの人間関係は、良いに越したことはないが基本的には関係がない。卓球は個人競技なのでそれぞれが勝つことだけが求められる。人間関係が大切な要素に見えるのは、そうあって欲しいという見る側の願望に過ぎない。

卓球に必要なチームワークとは「コイツなら勝ってくれるはずだ」という強さに対する信頼と、素晴らしいプレーをすることによってお互いを奮い立たせることだ。それらがリラックスと勇気を生み、各選手の良いプレーにつながる。それこそが卓球のチームワークだ。

このような観点で今回の日本男子を見ると、完璧なチームワークを備えていた。日本卓球史上疑いのない最高の選手である水谷隼への信頼は言うまでもない。その水谷は全日本選手権で13年連続で決勝に進出し10回優勝している。水谷が敗れたのは3度しかないが、そのうちの2人が今回のチームメイトである丹羽孝希と張本智和だった(もう一人はリオ五輪男子団体銀メダリストの吉村真晴)。それぞれが水谷を破ったとき、丹羽は高校3年生、張本は中学2年生だった。ともに早熟の天才選手としての登場だった。

今回の五輪では、その選び抜かれた天才たちがお互いを信頼し合って力を発揮し、ときには互いの不調を補完し合いながら苦しい戦いをものにした。

準々決勝のスウェーデン戦では、水谷が敗れた絶好調のマティアス・ファルクに対して、4番で丹羽が眉も動かさないクールなプレーを連発して粉砕し、準決勝進出を決めた。

ドイツとの準決勝では、張本が2番でシングルス銅メダリストのエース、ドミトリー・オフチャロフを魂を揺さぶるような試合で破った。日本男子最高の試合だった。さらに4番で格下のパトリック・フランチスカに苦しんだが、最後には劇的勝利をもぎ取った。ラストの丹羽はオフチャロフに敗れたが、素晴らしい試合だった。

そして迎えた銅メダル決定戦の韓国戦。ドイツ戦で覚醒した張本がエースの張禹珍を沈めたが、最後を決めたのはやはりこの男、水谷隼だった。水谷は4番で対戦成績で分が良いとは言えない張禹珍と対戦。苦戦が予想されたが、なんとストレートで撃破し、日本の銅メダルを決めた。真っ先にフェンスを乗り越えて水谷にしがみついたのは、苦しみながらも団体戦を無敗で通した張本だった。

水谷が勝利を決めた瞬間、抱き着く張本
水谷が勝利を決めた瞬間、抱き着く張本写真:森田直樹/アフロスポーツ

試合後に水谷は引退を発表。打倒中国の夢を後輩に託した。託されたのは水谷にしがみついた張本だけとは限らない。無数にいる張本のライバルたちもだ。切磋琢磨によってそれらの中の一握りの選手だけが水谷の夢を叶える資格を得る。そう、本物のチームワークによって。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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