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ボールに魔法をかける平野美宇 0.02秒のタイミング精度で振り抜くバックハンドで今夜決勝の舞台へ

伊藤条太卓球コラムニスト
平野美宇(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪2020卓球女子団体準決勝、日本vs香港。平野美宇はダブルスとシングルスに出場し、いずれもストレートで勝利し、日本の決勝進出を決めた。

平野の試合で目を引いたのが、サービスを出す前に静止したとき、何かを語るように口が動いていたことだ。おそらく、注意点や気の持ち方を自分に言い聞かせていたのだろうが、その姿はあたかも、小さなボールを意のままに操る魔法の呪文を唱えているようだった。

その厳かな儀式が終わると一転、全身を使ってボールに回転をかけて送り出し、返ってきたボールの上がりっぱなを思いっきりバックハンドで振り抜く。2017年アジア選手権で中国選手3人をごぼう抜きで優勝して世界を驚愕させたバックハンドだ。

卓球台の近くで相手の攻撃ボールをその軌道を約45度で横切るように打つこの打法は、最大の回転がかかる反面、空振りのリスクが非常に大きい。スイングのタイミングは約0.02秒の誤差しか許されない(筆者の概算による)。

そうした人間能力の際でなされるプレーは、常人からはまさに魔法にしか見えない。しかしそれは魔法でも何でもない。リオ五輪でライバルの伊藤美誠がスポットライトを浴びて大活躍するのを暗い観客席から見つめた屈辱による努力の賜物なのだ。

そして平野は今夜、石川佳純も伊藤もリオで経験できなかった夢の決勝の舞台に彼女らと共に立つ。相手は陳夢、孫穎莎、王曼昱という〝全員レジェンド“のチームだ。

その大舞台で平野は、どんな魔法を見せてくれるのだろうか。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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