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就活サイトで二度手間フィルターが定着~先輩就活生が後輩に教えたい「就活のワナ」

石渡嶺司大学ジャーナリスト
就活で二度手間フィルターが定着。その詳細と背景について専門家が解説(提供:イメージマート)

◆先輩就活生に聞いた就活のワナ

現在の大学3年生(24卒)はインターンシップへの参加を検討している段階です。

就活へのモチベーションが高い学生はすでにインターンシップ合同説明会などに参加していることでしょう。

一方、大学4年生(23卒)は6月に選考解禁を迎え、終盤戦となりました。すでに内定承諾書を提出し就活を終了する学生が続出。一方、序盤でつまづいたことから、まだ就活を継続する学生も一定数います。

今回は、大学4年生に序盤ないし終盤で引っ掛かった「就活のワナ」について取材。

複数出た中で、今回はもっとも多かった「就活サイトで二度手間フィルターが登場」について、解説していきます。

◆就活サイトで二度手間フィルターが登場

就活序盤

「就活サイトに登録、ブックマークすれば選考情報などが見られる」

その後

「志望度が中くらいならLINEや企業マイページの登録をしないと選考情報が見られない」

関連データ

・採用担当者に、採用活動において学生とのコミュニケーションでよく利用するツールで「LINE」は3位・19.7%/2018年からは約4倍増

※就職活動時のコミュニケーションツールに関する調査2022・ネオキャリア

・23卒の面接開始時期は広報解禁前の2月が累計58.6%、前年比23.9%増加

※リクルート就職みらい研究所「就職白書2022」

就活サイトと言えば、学生の基本情報を登録。そのうえで、気になる企業を検索し、志望度がそこそこであればブックマーク(エントリー)すれば、その企業の説明会日程をはじめとする選考情報が入手できました。

過去形で書いたのは、22卒あたりから、ブックマーク(エントリー)だけでは選考情報が十分に見られているとは言えなくなってきているからです。

ブックマーク(エントリー)をした就活生に対して、その企業はメールや電話等で、次のような登録を促します。

「今後、さらに選考情報を詳しくお知らせしたく、LINEの登録をお願いできないでしょうか?」

企業によっては、LINEではなく、企業マイページだったり、逆求人型サイトだったりします。

就職情報サイトに登録しているにもかかわらず、わざわざ、LINEやら企業マイページやらを改めて登録するのは就活生からすれば、面倒なこと、このうえありません。

しかも、こうした二度手間となる登録、以前からある話です。登録しなくても、先輩学生は特に何もありませんでした。だったら、わざわざ登録しなくても。

多くの就活生はそう考えます。

これが二度手間フィルターとなり、知らないところで多くの就活生が出遅れる元となってしまいました。

◆同時期にブックマークしたのに天地の差

とある企業・X社に、ほぼ同時期に就活生がブックマーク(エントリー)をしました。

AさんとB君は同じ大学で同じゼミです。小売メーカーで中堅規模のX社は学生からも人気です。Aさん、B君はともにこのX社に2021年12月ごろにブックマーク(エントリー)しました。

時期だけでなく、学生個人のスペックはほぼ同じ。ところが、その後、AさんとB君は運命が大きく分かれてしまいました。

Aさんは、セミナー情報などを入手して参加、選考にも参加していき、X社の内定を得ます。付言すると、X社以外にも複数企業から内定を得ることができました。

一方のB君は、セミナー情報などが入ってきません。結果、X社の選考情報には気づかず、参加することができませんでした。これは他社も同様であり、就活で苦戦してしまいます。

AさんとB君の運命を分けたもの、それが、二度手間をかけたかどうかです。

X社をブックマーク(エントリー)してから数日後、Aさん・B君のメールにX社からの連絡がありました。

「このたびは弊社をブックマークしていただきありがとうございました。さらに詳しい選考情報をお伝えしたく、弊社ではLINEを開設しています。つきましては、こちらの登録もお願いします」

メールには大筋で上記のような内容が書かれていました。

よくあるメールと考えて、B君はスルーしてしまいます。

一方、Aさんは、わざわざメールを送ってくるのであれば、と考えて、LINEに登録。このX社のブックマーク(エントリー)から就活を始めたAさんは、改めて企業からのメールを見ていくと、このX社のような、二度手間を促す内容が多いことに気付きます。

企業によってはLINEではなく、その就活サイト内にある企業マイページへの登録を促しています。企業によっては、他社の逆求人型サイトへの登録を促す内容もありました。

これはおかしい、と考えたAさんは、その後、X社だけでなく、志望度が中程度以上の企業であれば、就活サイトのブックマーク(エントリー)だけでなく、LINEや企業マイページの登録もしていきます。

当初は、登録する気のなかった逆求人型サイトも、offerboxを登録。これは先輩学生から勧められたことも影響しています。

その結果、Aさんは企業のセミナー開催情報などが入るようになり、就活を有利に進めることができました。

実はB君も、先輩学生から逆求人型サイトを勧められてました。

ところが、自己PRを長文(1000字)書かなければならず、ここでまず、やる気をなくします。

そこにX社や他社からLINEや企業マイページ、逆求人型サイトへの登録を促すメールが殺到します。Aさんと違い、B君は「こんな二度手間、面倒。登録なんてしなくてもいいでしょ」と考えてしまいます。

結果、企業の選考情報がほぼ入らなくなってしまいました。セミナーや1日インターンシップの情報も入らず、B君は就活に大きく出遅れてしまいます。

では、X社はなぜAさんに選考情報を送り、B君には送らなかったのでしょうか。

答えは簡単です。Aさんは二度手間をかけてLINEの登録をした、B君は二度手間をかけずLINEを登録しなかった。その違いだけです。

たかだかLINEの登録1つで?そう、このLINE登録など二度手間をかけたかどうかが就活生の運命を大きく変えてしまいました。

◆二度手間フィルターが広がった理由

就職情報サイトで気になる企業のブックマーク(エントリー)をしただけでは選考情報が見られない。

それでは、この二度手間フィルターがなぜ発生したのか、ここで登場するのが経団連や大学団体などで構成される産学協議会(採用と大学教育の未来に関する産学協議会)です。

2020年以降、インターンシップの定義を厳格化、さらに就職情報サイトへの掲載も厳しくします。

「2023卒向けサイトから、あれやるな、これやるな、この誓約書を出せ、とやたらとうるさくなった」

採用担当者に取材すると、ほぼ全員、こうこぼします。

しかも、就職情報サイトの掲載条件が厳しくなったからと言って、企業は1日インターンシップや早期のセミナー・説明会をやめる気など、毛頭ありません。

産学協議会からすれば、「就職情報サイトの掲載条件を厳しくすれば、各企業ともインターンシップは就業体験型のものだけとなり、就活も早期化が収まるだろう」、そんな思惑があったようです。

ところが、産学協議会の思惑など、各社の採用担当者からすれば「知ったことか」。

そこで抜け道として登場したのが、企業マイページやLINE、逆求人型サイトの登録なのです。

就職情報サイトでは、自主規制がきつすぎて、1日インターンシップや早期のセミナー・説明会の情報が掲載できません。

かと言って、マイナビやリクナビなどの就職情報サイトは軽視できません。

そこでブックマーク(エントリー)した就活生に対して、企業マイページやLINE、逆求人型サイトへの登録を促すのです。

企業マイページやLINEなどでどのような情報を流すかは企業側の勝手であり、就職情報会社もいちいち検閲できるものではありません。

昨年2021年に、「インターンシップ氷河期になる意外~選考落ち続出のカラクリと対策は」(2021年7月21日公開)で、リクルート(リクナビを運営)とマイナビ(マイナビを運営)に取材しています。両社の企業マイページについてのコメントを再掲します。

企業マイページはリクナビ2023とは別に存在している「企業様のページ」になりますので、リンクを張るかどうかは、企業様にてご判断いただく内容となります。(リクルート広報)

追加機能をご利用いただければ可能です。

ただ基本的に、広報活動解禁前の採用情報へのリンクはお控えいただくようご案内しております。(マイナビ広報)

それから、逆求人型サイトも最大手のofferboxなどは産学協議会に付き合わなければならない、全国求人情報協会に非加盟です(あさがくナビ、jobrassなど加盟企業もあり)。

非加盟であれば、産学協議会の縛りに付き合う必要がありません。そもそも、逆求人型サイトとは、学生の自己PRなどを読んで気になった学生に企業がオファーを出すものです。従来型の就職情報サイトとは流れが逆だから逆求人型サイトと呼ばれています。企業からすれば、どのタイミングで選考情報やセミナー開催情報などを出すかどうかは一任されており、時期の縛りなどはありません。

これが、二度手間フィルターが広がった理由です。

◆二度手間フィルターが広がっている根拠~選考の前倒しが加速

それでは、この二度手間フィルターがどの程度、広がっているのでしょうか。

どれくらいの企業が二度手間フィルターをやっているかどうかを示すデータは今のところ、存在しません。

就職情報会社も、ある意味では、反則ないし反則スレスレの技なわけで、調査の取りようがありません。

ただし、2つのデータから考えると、二度手間フィルターは相当数の企業で広がっている、と推察することができます。

1点目は、リクルート就職みらい研究所が公表した「就職白書2022」です。

この調査では2023年卒の採用プロセス開始時期について、企業側に調査しています。

面接開始時期は2023年卒だと3年生2月以前に開始する企業が対面式で25.0%、WEBで33.6%。両方を合わせると58.6%となり、これは2022年卒に比べて23.9ポイントと大幅に増加しています。

3年生2月以前と言えば、就活ルールであれば広報解禁が3年生3月ですから、選考どころか、説明会の開催時期ではないはず。

それが実際には58.6%もの企業が面接を開始しています。となると、それより前に会社説明会・セミナーなどを開催していることになります。

産学協議会がインターンシップの定義を厳格化、就職情報サイトの掲載についても厳しくしたのは、早期化の是正が狙いの一つでした。

しかし、「就職白書2022」のデータを見る限り、全く歯止めになっていません。それどころか、早期化がさらに進んでいます。

二度手間フィルターが広がった根拠となるデータとしては、もう1点、ネオキャリアの「就職活動時のコミュニケーションツールに関する調査2022」があります。

同調査によると、採用担当者が「採用活動において学生とのコミュニケーションでよく利用するツール」でLINEは3位・19.7%(1位はメール・42.9%)。

ただし、2018年と比較すると、5.0%から19.7%と約4倍に増加しています。これは企業側が二度手間フィルターでLINEを使っている、と見ていいでしょう。

◆企業側「母集団が減ってもいいので二度手間フィルター」

この二度手間フィルターの話を、大学キャリア関係者にすると、あ然とされます。さらに「母集団形成という点では損するのではないか」と疑問をぶつける方も複数いました。

母集団とは、要するに登録学生を増やして、その中から企業が欲しい人材を選んでいく、というものです。

就職情報サイトが登場した1990年代後半から2010年代にかけて、この母集団をいかに増やしていくかが採用戦略で重要、との見方が主流だったのです。

その点、二度手間フィルターだと、就職情報サイトだけでなく、LINEなどを登録しなければなりません。その分、面倒と考える学生が敬遠してしまい、母集団形成という点ではマイナスとなるはずです。

実際に、企業を取材すると、

「LINE登録を呼びかけるメールを送っても、登録する学生は2割いるかどうか」(小売)

「弊社では、メールの他に電話でも登録を促すようにしています。ただ、そこまでやっても3割程度ですね」(IT)

などの反応。

ただ、「登録学生が減っても、それでも構わない」と話す企業が大半でした。

私が「二度手間フィルター」と名付けたのも、この企業側の強気の対応によるものです。

企業からすれば、就職情報サイトの登録者からLINEなどの登録者は数が減ってしまいます。

しかし、LINEなどをわざわざ登録する学生は、それだけその企業への志望度が高い、とも言えます。仮に志望度が高くなくても、就活へのモチベーションは高く、企業にとっては欲しい人材である可能性が高い、とも言えます。

大学名だけで学生の選考参加を決めることを学歴フィルターと言って、よくネット上では話題となります。

しかし、LINEなどの登録は、企業からすれば、学生を自然とフィルタリングすることができてしまいます。

「それに、結果論ではありますが、LINEなどをきちんと登録する学生は、やはり難関大に多い。企業からすれば、『隠れ学歴フィルター』とも言えます。それで、地方大や中堅以下の私大生が紛れていたら?いや、うちはそれでも全然問題ないです。大学名に関係なく、いい人材であれば採用したいですし。そういった意味でも、このLINEの二重登録は、うちにとってとても便利です」(IT)

機械メーカーの採用担当者は二度手間フィルターについて、食品メーカーやエンタメ系企業の面倒過ぎるエントリーシートと本質は同じ、と話します。

「食品メーカーやエンタメ系企業は学生から人気。そこで、選考段階で志望度の高さを見るために、あえて複雑なエントリーシートを導入しています。あれでやる気のない学生は選考参加を断念し、企業側は志望度の高い学生だけを選考すればよいわけです。この手法、2000年代からすでに導入されている話ですが、LINEなどの二重登録も、本質は同じですね」

◆産学協議会が厳しくなっても「2周遅れに何ができる」

産学協議会とインターンシップと言えば、2022年4月に2021年度の報告書を発表。この中で、採用活動前のインターンシップで企業が得た学生の評価などの情報を、採用活動に活用できるようにすることが提言されています。この提言を受けて政府も方針を変更すると、日本経済新聞などで大きく報じられました。

この動きを企業に取材したところ、皆さん、微妙な表情を見せます。

中でも「そんなの二周遅れもいいところ」と説明してくれたのは、食品メーカーの採用担当者。

「インターンの情報を採用活動に使う?えーとですね、そんなの、どの社でもやっているに決まっていますよ。それが産学協議会の言うインターンなのか、説明会・セミナーなのか、という違いがあるだけで。率直に言って、産学協議会の話は二周遅れもいいところ。何を今さら、という思いしかありません」

同氏に、二度手間フィルターが明らかになって、産学協議会が規制を強めたらどうするか、聞いてみました。

「大手就職情報サイトの企業マイページについて規制を強めてもうちは構いません。LINE登録などは規制できないでしょう。その内容まで検閲できるものでもありませんし。せいぜい、お願いベースで『LINE登録なども促さないでください』程度じゃないですか。もちろん、法的規制がない以上、うちは無視します。従来型のサイトでの制限がきつければ、キミスカやワンキャリアなど産学協議会の影響を受けない新興の就職サイトか、逆求人型サイトを使えば済む話です。そこも制限をかけるなら、もう自社サイトでの案内だけでも構いません。産学協議会の方がどういう思いかは分かりませんが、あの『仕事やっている感』からくる規制強化でバカを見るのは学生ということにいい加減、気づかないのでしょうかね?」

◆24卒就活生の対策は二度手間を惜しまない

それでは、現在、大学3年生の24卒就活生はどうすればいいでしょうか。

対策としては簡単で、面倒であっても、LINEや企業マイページ、逆求人型サイト(特に最大手のofferbox)の登録はきちんとすることです。

それも、志望度が極端に低ければ話は別ですが、中程度であれば、二度手間を惜しまない方がいいでしょう。

それにしても、知らないと損をする情報戦となっているのが現代の就活です。知らない学生がどんどん取り残されてしまう、この現状はどうにかならないものでしょうか。いや、どうにもならないので、だからこそ、学生の自衛が必要なのかもしれません。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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