#教師のバトンは時給100円で色は黒~応援団の著者が炎上理由と問題点を整理した

#教師のバトンプロジェクトのTwitterアカウントより。応援団の著者が解説

◆誘われて条件付きで応援団となるも…

「#教師のバトン」プロジェクトに誘われたのは、今年3月下旬のことでした。

同プロジェクトに関わる方(Aさんとしておきます)は以前からご縁があります。話を聞くと、同プロジェクトを担当することになった、とのこと。

教師の良さをアピールしよう、というのは、広報活動としては悪くはありません。ただ、話を聞いて、正直しんどい、とも考えたのです。

Aさんにも、この電話でお伝えしましたが、良さがどうこう以前に待遇や教育実習を含む採用手法、入職後のキャリアの不明瞭さなど、変えなければならない点は山のようにあります。そうした改革と合わせて広報戦略を、というならまだしも、広報戦略だけ先行しても失敗するのでは、との懸念を伝えました。

もちろん、文部科学行政の責任者でもないAさんに伝えても「それはわかるけど、まずは広報をしっかり」という話に終始します。まあ、これはAさんのお立場を考えれば無理もありません。

とは言え、私はこうした問題点を整理した記事を準備中でした。その記事を、教育関係者の専門雑誌か、このYahoo!ニュース個人のどちらかで出すことを進めていた最中での応援団就任依頼です。

「これこれ、こういう記事を出す予定ですが、それは応援団としての立場と矛盾はしませんか?」

「大丈夫」とAさんは言います。

大丈夫かなあ、と不安を持ちつつ、応援団就任を承諾しました。

なお、付言しますと、応援団と言っても、別に雇用契約やギャラなどが発生しているわけではありません。

#教師のバトンnoteより抜粋。普段は大学ジャーナリストだが、ここでは教育ジャーナリストという肩書に
#教師のバトンnoteより抜粋。普段は大学ジャーナリストだが、ここでは教育ジャーナリストという肩書に

◆開始以降、炎上し、批判的な投稿が続出

もともと、この「#教師のバトン」プロジェクト、教員が所属学校長などの許可なしに、前向きな投稿を文部科学省としては想定していたのです。

しかし、3月26日に開始以降は、過酷な勤務状況を訴える投稿が大半を占めます。

文部科学省からすれば、これは想定外の反応でした。

3月30日には萩生田光一・文科相が記者会見で同プロジェクトについてコメントしています。

「前向きな意見も、明日にも辞めたいという意見もある。学校の厳しい勤務環境が明らかになった」と発言。「願わくば、先生なのでもう少し品の良い書き方をしてほしい」と付け加えた。

※琉球新報2021年4月9日朝刊「『教師の魅力』で炎上/文科省SNS企画に賛否/『やりがい搾取』過酷さ訴え」

同プロジェクトも、noteで、

投稿を拝見し、教員の皆さんの置かれている厳しい状況を再認識するとともに、改革を加速化させていく必要性を強く実感しています。

※2021年3月29日投稿「ご意見・ご指摘 ありがとうございます」

とコメント。

その後、4月には、メディア向け説明会なども開催しました。

◆民間企業ならブラック企業そのもの

なぜ、「#教師のバトン」は炎上してしまったのでしょうか。

民間企業と比較すれば、その理由は明らかです。

要するに、教員の待遇は現時点ではブラック企業そのものです。

採用手法は民間企業に劣り、その民間企業は優秀な教育系学部の学生を採用するように変化していきました。

それを、教員の良さだけアピールしようとしても、匿名で投稿できる以上、炎上は不可避でした。

ここで、「いや、でも、教員は公務員だから待遇がいいはず」「確か、自治体職員などよりも割り増しがある、と聞いた」など、待遇の悪さに違和感を持たれる方もいるでしょう。

そこで、採用手法・待遇などについて、民間企業と比較していきます。

※なお、民間企業での就職・就業は総合職を基本とします。

◆前準備が大変

教員:教育系学部への進学か、教職課程の履修が必要

民間:特になし

教員を目指す場合、大学進学の時点で、教員免許を取得できる教育系学部、あるいは、教職課程を設置している学部への進学が必要です。

小学校教員だと、教員養成系学部が大半であり、中高教員だと、教職課程出身者も一定数を占めます。

教職課程は、履修するとその学部に関連する科目の教員免許を取得できます。一般的には文系学部だと国語、社会、英語など。理系学部だと、数学、理科などとなります。ただし、全大学全学部に設置しているわけではなく、学部・学科によって取得できる免許は異なります。

教職課程は、各学部の科目を履修したうえで、別に履修することになります。その分だけ、負担は重い、と言えるでしょう。

民間企業の場合、総合職であれば、学部・学科を問わない企業がほとんどです。

事前準備も、学生からすれば教員就職ほど負担感はありません。

◆実習・インターンは負担が違いすぎる

教員:教育実習は2~4週間で高負担

民間:1日が大半で軽負担

教員の場合、大学在学中に教育実習があります。期間は高校2週間、中学校3週間、小学校4週間です。

実習期間中は、この実習に集中することを強く求められます。

実習前も、学生は準備することが多くあります。

一方、民間企業の場合、インターンシップの期間は1日から数日、あるいは1週間以上など、企業によります。

もっとも、期間は短期化の傾向にあります。就職情報会社ディスコの調査(2022年卒・インターンシップに関する調査)によると、半日39.3%、1日25.0%で合計64.3%。2週間以上は2.8%しかありません。

これは、教育実習が就業体験であるのに対して、民間企業のインターンシップは、就業体験のものもあれば、業界研究や会社見学、就活講座などセミナーのものなど、様々な種類があるからです。全体としては、半日~1日のものは就活講座、業界研究など、就業体験ではないタイプのものがほとんどです。

学生からすれば、教育実習は負担が重く、民間企業のインターンシップは負担が軽い、ということになります。

◆専願が前提で併願だと村八分

教員:専願が大前提

民間:併願が大前提

前記の教育実習・インターンシップで大きな違いは負担の重さだけではありません。専願・併願も大きな違いです。

民間企業の場合、インターンシップは採用広報の一環ということもあり、第一志望(専願)かどうかを気にしません。極端な話、選考に参加する気がなくても、インターンシップに来てくれるだけで歓迎、という企業も相当数あります。

一方、教育実習ではそうはいきません。

専願、すなわち、教員志望であり、教育実習に専念できる学生しか受け付けません。

教育実習の受け入れ条件として、専願を掲げる学校・教育委員会も多くあります。

・教員志望であること/教育実習期間は、最優先で実習に臨めること(兵庫県立野田高校)

・東京都公立学校教員採用候補者選考試験を受験予定の者(東京都教育委員会)

・原則本校の卒業生で、将来高等学校の教職に就くことを強く希望していること/その年度の教員採用試験を受験すること(宮崎県立宮崎商業高校)

※各学校・教育委員会サイトより抜粋

はっきりと条件に掲げなくても、教育実習期間中に、教員か民間企業か、悩んでいると、指導教員に話した途端、冷淡な対応になった、との事例もあります。

教育実習では、仮に民間企業と悩んでいる場合でも、実習先の教員には本音を話すな、無用のトラブルになるだけ、と実習前に担当教員からクギを刺されました。「下手すれば実習中に村八分になるよ」とも。(都内私立大学生・教職課程履修)

民間企業は併願でも(あるいは、選考参加の意思がなくても)受け入れるのに対して、学校は専願のみ。この落差から、教育実習後に民間企業に変更する学生もいます。

◆就職しても正規ではない

教員:非正規が20~30%程度で不明瞭

民間:正規雇用が前提

民間企業での就活は正規雇用が基本です。マスコミ、アパレルなど一部の業界では、非正規雇用での採用もあります。が、これは数少ない例外というべきでしょう。

一方、教員採用の場合、非正規雇用での採用が一定数あります。

文部科学省調査によると、2005年には公立小中学校での非正規雇用は12.3%だったものが、2012年には16.1%に上昇しています。

20年現在のデータは公表されていないが、「減っている」という話は現場からは聞こえてこない。

非正規教員が増え続けてきた理由は、正規教員の病休や育休が増えたからではない。もちろん、教員の若返りが進む中で、育休の取得が増えている側面もあるが、自治体によっては政策的に非正規教員を増やしてきた所も多い。関東地方のとある自治体の元採用担当者は、その理由を次のように話す。

「正規教員の採用数は、将来人口などを予測しながら決めるが、人口流動の多い都道府県の場合、低めに見積もらざるを得ない。その結果、多くの自治体が調整の利く非正規教員の割合を増やしている」

※使い捨てられる教師たち 「非正規教員」制度の構造的課題 佐藤明彦(時事通信ドットコム2020年12月10日掲載)より抜粋

文部科学省の別の調査(国立の教員養成大学・学部及び国私立の教職大学院の令和2年3月卒業者及び修了者の就職状況等調査)では、国立大学教員養成系学部44校の就職状況を出しています。この調査によると、2020年卒は卒業者11350人のうち、教員就職者は6533人。うち、非正規雇用(臨時的任用)は26.2%を占めます。

国立大学の教職課程や公立・私立大学を含まないため、この調査が非正規雇用の全体像をとらえているとは言えません。

それでも、20~30%程度は非正規雇用としての採用、と推定することができます。どう少なく見ても、時事通信ドットコム記事にあるように2012年・16.1%から減っている、とは言えないでしょう。

同じ就活でも、民間企業なら正規雇用が大前提、それが教員だと、20~30%は非正規雇用。しかも、非正規雇用からどのタイミングで正規雇用になるのか、これは全くの不明瞭です。

学生からすれば、就活で苦労して、それなりの割合で非正規か、と幻滅してしまいます。

◆土日も勤務して当然

教員:部活指導などでよくある

民間:休むのが基本

日本の民間企業は週休2日制が大原則であり、その多くは土日が休みとなります。業界・職種によっては土日勤務もありますが、その場合は、他の曜日が振替で休日となります。

一方、教員はどうでしょうか。部活指導などで土日が実質的な勤務となるケースが多くあります。

教員勤務実態調査(平成28年度)が2019年に公表されました。同調査によると、教諭の平均的労働時間は小学校11時間15分、中学校11時間32分(平均41.1歳)。

土日の部活指導は中学校で平均2時間9分でした(平日は41分)。

なお、これはあくまでも平均値であり、教員に話を聞くと、実際はもっと長い事例がいくらでも出てきます。

私は以前中体連の大会に参加した際、会場に一二時間いたことがあります。さらにその後学校に戻って、新聞社等メディアへの大会結果報告資料を作成したため、その日は一五時間以上、引率などで働いたことになります。

※『先生も大変なんです』(江澤隆輔、岩波書店、2020年)111~112ページ/著者は福井県公立学校教諭

部活については、様々な議論がありますし、このYahoo!ニュース個人でも、内田良さん、妹尾昌俊さんなどがすでに記事にしています。

2019年の運動部の活動時間数 大幅減に転じる ガイドラインの定着 週3時間減の県も(内田良、2020年1月3日公開)

部活の地域移行は進むのか? 実現するために必要なこと(妹尾昌俊、2020年9月9日公開)

部活の教育的意義や改革などは本稿では省略します。

ただ、学生を含む一般的な感覚からすれば、本来、休日である土日に部活指導とは、その分だけ労働時間が長い、ということになります。

◆残業代は時給100円未満も・民間格差は10倍以上

教員:時給換算で100円~240円

民間:基本給の1.25倍が原則

部活や生活指導など、教員の長時間労働は避けられない、という見方もあります。

では、その長時間労働に対して、十分な手当があるか、と言えば、そうではありません。

まず、民間企業の場合、残業代は基礎時給比の1.25倍であることが労働基準法で定められています。なお、残業時間が60時間を超える場合は1.5倍(中小企業は2023年までは1.25倍)、法定休日労働は1.35倍などとなっています。

基本給30万円の社員が50時間残業した場合はどうでしょうか。

基礎時給を1875円と計算すると(30万円÷160時間/月〈1日8時間・週5日〉)、残業代は1.25倍なので時給1875円×1.25倍×50時間で11万7187円です。

一方、教員は残業代が発生しません。給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)で月額4%にあたる教職調整額を上乗せする、という法律です。

これは1971年制定時に、当時の教員勤務調査で時間外労働が2時間程度だったので、4%ならカバーできる、ということになりました。

この教職調整額が実質的な残業代、とも言えます。ですが、基本給30万円の場合、1万円~1.5万円前後となります。

仮に、前記の民間企業社員と同じく50時間、残業したとしましょう。調整額が1.5万円なら時給換算で300円、1万円なら時給換算はわずか200円です。

もし、残業時間が100時間で調整額が1万円なら時給換算はわずか100円です。

部活指導はどうでしょうか。教員特殊業務手当が部活指導の実質的な手当であり、土日4時間程度で3000円、2018年に3600円となり、2019年からは2~4時間程度で1800円という区分もできました。あるだけまし、とも言えます。が、前記の江澤隆輔氏の「プレスリリース作成も含め15時間」だとどうでしょうか。時間が長い分、余計に手当てが出るものではありません。あくまでも「3600円」が基本。そうなると、時給換算で240円となります。

同じ残業でも、民間企業なら時給換算だと数千円以上となり、教員だと数百円。この落差は教員就職を敬遠するのに十分、と言えるのではないでしょうか。

私が取材した教員の一人は、教師のバトンとこの手当をまとめて、こう話してくれました。

教師のバトンとやらは、色は真っ黒。時給換算だと高くても数百円、安ければ100円を切る。いくら教育の素晴らしさを強調しても、こんなバトン、受け取りたい学生、多いでしょうかね?

◆民間企業側の変化で学生も揺れる

教員採用の変化は、民間企業の採用状況・手法の変化も大きく影響しています。

2000年代以前は教員就職と併願する学生は、民間企業からは敬遠されがちでした。理由は簡単で、内定を出しても、教員と比較して内定辞退をしやすかったからです。

この状況が2010年代になってから変化していきました。

まず、学生有利の売り手市場が2012年ごろからコロナショック以前まで続きます。コロナショック後も企業・業界によっては売り手市場が継続しています。企業からすれば、教員との併願であれば敬遠する、という余裕がなくなっていきました。

さらに、内定者引き留め策が色々と研究されていきました。その結果、「内定出しから内定承諾までの猶予期間は長くする」「迷いそうな学生は選考初期で落とすか、内定辞退を見込んで内定出しを多めにするかどちらか」などが現在では定着しています。

特に猶予期間の長さは、教員と併願する学生にとっては有利に働きます。

加えて、教員志望の学生の優秀さに各企業とも注目するようになりました。

教員志望の学生は、教員試験の対策もしており、勉強熱心です。新聞を読む学生も多く、企業からすれば、教養・知識が備わっている優秀な学生で欲しい人材、となります。

こうした民間企業側の変化もあって、教員養成系学部・教職課程履修者が民間企業に就職する事例が増えていきました。

文部科学省「国立の教員養成大学・学部及び国私立の教職大学院の卒業者及び修了者の就職状況等調査」によると、教員就職率(大学院等進学者・保育士就職は除く)は2012年に70.8%でしたが、2020年には64.4%と、下落傾向にあります。

この下落傾向は取材したところ、調査にはない、公立大学・私立大学の教員養成系学部でも同じ傾向にありました。

◆採用手法の改善も焼け石に水

35人学級、教科担任制の導入、英語必修化や「情報」科目の導入など、教員を増員しなければならない要因は多くあります。

そのため、各自治体では、教員採用を改善するようになりました。

福岡市:実習成績と大学推薦のみで採用/筆記試験・面接なし(2022年度から/近隣15校が対象)

鳥取県:TOEIC730点・実用英検準1級以上なら1・2次試験免除/適性検査・面接のみ

茨城県:受験可能年齢を59歳まで引き上げ/他自治体と併願しやすいよう日程変更

※著者作成

それぞれ、教員志望の学生を増やす手法としては悪くありません。特に、教育実習と採用を結び付けた福岡市の方策は今後、他の自治体にも広がりそうです。

ただ、根本的な要因である労働時間と待遇については、まだまだ不十分、と言わざるを得ません。

同じ残業でも、民間企業と教員の差は時給換算で10倍以上あり、これは教育の素晴らしさを強調しても、全く意味がありません。

◆「#教師のバトン」は待遇引き上げなどと同時並行で

私は長年、教育を取材してきており、教育の素晴らしさは理解しています。それを世に広める、という「#教師のバトン」プロジェクトについても、応援したい、と考えて応援団の一人となっています。

しかし、同プロジェクト担当者にも就任前に伝えたように、意義や素晴らしさだけを強調しても、採用増加にはつながらないでしょう。あまりにも待遇が民間企業に比べて悪すぎるからです。最低賃金を一律1000円にしようか、という議論も出るほどの時代にですよ、残業代に相当する手当が時給換算で数百円、下手すれば100円を割る、という仕事に誰が就職したいでしょうか。

教員を増員する、ということであれば、単に意義・素晴らしさを強調するだけでなく、労働時間や待遇から部活の是非、採用手法の改革、あるいは併願学生の取り込みなども同時並行で進める必要があります。

そこまでやらないと、SNSだけではなく、教師のバトンは途切れてしまうことにもなりかねません。

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。

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