「GoToキャンパス」とうとう実現せず~再開かオンラインかで揺れ動いた一年

オンラインで授業をする木暮健太郎・杏林大学教授(左上) (写真・木暮教授提供)

◆2度目の緊急事態宣言下の大学

「もう、慣れましたけど、図書館を使えないのが不便です」

2度目の緊急事態宣言が出た後、都内の私立大2年生に大学生活について話を聞いたときのことです。オンライン授業には慣れた、と話しつつ、図書館の利用制限について話してくれました。

「図書館は僕にとって、気軽に利用できる施設でした。それが、緊急事態宣言が出た後は、事前予約制。最大で3時間しか使えません」

1月に、2度目の緊急事態宣言が出たことにより、首都圏の大学は再度、入構制限をかけるようになりました。

その後、入試が実施されることもあり、2月は学生がほぼ入構できなくなっています。本来であれば、後期授業・試験が終了しても、図書館利用や課外活動、あるいは就活生などでキャンパスから学生が絶えることはありません。

それがコロナ禍の現在では、再度、入構禁止となっています。学外関係者である私も同様です。そこで、いくつかの大学を外から観察しましたが、校門の外ですら、静かなものでした。

◆大学封鎖で「入学したのに大学には一度も行っていない」

コロナ禍にあって、政府は経済政策を実施しました。その代表的なものがGoToトラベルや、GoToイートです。GoToトラベルは第三次補正予算案(1月27日に衆議院通過)では約1兆円の予算が追加されました。

しかし、同じ「GoTo」でもとうとう実現しなかったのが「GoToキャンパス」、すなわち、対面授業の再開です。

学生の来ない教室(イメージ写真/石渡撮影)
学生の来ない教室(イメージ写真/石渡撮影)

コロナ感染の第一波だった2020年3月から5月にかけて、大学は卒業式・入学式を中止。大学そのものを封鎖して、授業実施は5月以降とするか、オンライン授業とする大学が相次ぎました。

2020年度に入学した大学1年生に話を聞くと、キャンパスにはほとんど行けていません。

「学生証を取りに行っただけで、その後は一切大学に行っていない」(首都圏・国立大)

「入学式が中止、授業もオンライン。アパートを契約したものの、結局は実家でオンライン授業を受けることに。アパートは住んでもいないのに親が払い続けて申し訳ない」(九州・私立大)

◆対面授業再開の世論強まる

第一波が収まった2020年5月下旬以降は小中高がそれぞれ再開。企業もテレワークからオフィス出社に戻していきます。

政府は景気浮揚策として、GoToトラベル、GoToイートなどを展開。

それぞれ人の動きが戻っていきました。

ところが、大学だけはそうとはいかず、前期授業はオンライン授業の継続とする大学が多数を占めたのです。

文部科学省調査では「7月1日現在、国公私立大などの2割超が遠隔授業のみ行い、6割が遠隔と対面の授業を併用していた。全面的に学内施設の利用を認めているのは15%にとどまった」(読売新聞2020年7月22日朝刊)ということでしたが、「オンライン(遠隔)と対面の併用と言っても、対面授業の再開はごく一部。実態は大半がオンライン」(首都圏・私立大理事)との声も耳にしました。

7月には、ある美術系大学1年生の「#大学生の日常も大事だ」とする投稿が大きな話題を呼びました。

「小中高も会社も始まってるのにどうして大学は始まらないの?」「大学生は、いつまで我慢すればいいのでしょうか」

こう呼びかけるイラストと投稿は同じ大学生、そして社会からの共感を集め、約40万件の「いいね!」が付きました。

この世論に文部科学省も7月から大学に対面授業再開を促します。

10月16日には、対面授業が半数未満の大学について校名を11月上旬に公表する、と文部科学省が発表します。

萩生田光一文科相は同日の閣議後記者会見で「遠隔と対面のハイブリッドの授業をやってもらいたいとお願いしてきたが、対面が再開できていないとの声がある」と述べ、対面授業の実施を促しました(共同通信2020年10月16日配信)。

調査結果の公表は当初の11月上旬予定から12月23日に後ろ倒しとなりました。結果はというと、後期授業が半数未満だった大学は首都圏を中心に187校とかなりの数に上ったのです。

◆大学は怖くて再開できず

なぜ、対面授業を再開できなかったのか、大学経営幹部や教職員を取材したところ、その理由はほぼ3点に集約できます。すなわち、「移動範囲の広さ」「集団への帰属意識」「大人数・対面が基本」の3点です。

1点目の移動範囲の広さは、通学距離の長さや居酒屋等への出入りです。

小中高生の大半はその地域からの通学に限定されますが、大学生は遠距離の通学者が一定数います。さらに成人している学生が半数いるので、居酒屋等への出入りも可能です。

2点目の集団への帰属意識は、この居酒屋等への出入りにもつながります。

「小中高なら学校の校則があり、児童・生徒はそれに従う。社会人は校則がなくても『終業時間外で居酒屋等での飲食は禁止』と企業から通達があれば、それに従う社員がほとんど。所属する企業・集団への帰属意識が強いからだ。一方、大学生は社会人ほど、帰属意識が強くない。それでいて、大学が『居酒屋等への出入りは禁止』と通達しても無視する学生の方が多いだろう」(中部・私立大教員)

3点目ですが、大学の授業は対面式、かつ、ゼミなど一部を除けば大人数授業が基本です。この基本をほとんどの大学は疑わず、オンライン化という代替案を想定していませんでした。

「小中高なら大学ほど児童・生徒が多くない。1クラス数十人であれば授業も複数の教員が担当、ということもできるだろう。しかし、大学だと、大人数授業は数百人が受講するので、少人数に分割、と言っても無理がある」(首都圏・私立大教員)

この3点以外に指摘が多かったのがクラスター化した場合のリスクです。

2020年3月には京都産業大学と県立広島大学でクラスターが発生。その後、8月には天理大学ラグビー部の寮でクラスターが発生します。

「京都産業大学は『コロナ産業大学』と言われるなどコロナ差別が起きた。天理大学でも、ラグビー部とは無関係の学生が教育実習先から来ないでほしい、と言われるなど、やはり、コロナ差別が起きている。こうしたリスクを考えれば、対面授業をそう簡単に再開できるわけがない」(関西・私立大職員)

◆オンラインは悪評だけでなく高評価も

それから、大学が対面授業再開を躊躇した思わぬ一番の要因は学生からの評価でした。

実験・実習を前提とする理工系学部や美術系学部などではオンラインへの反発の方が強くありました。しかし、全体としては、オンライン授業の良さを認める意見が学生・教員、双方にあったのです。

茨城大学は6月に調査。その結果、第1クオーター(四半期)の授業に関し、すべてオンラインだった今年度は「とてもよく理解できた」「おおむね理解できた」は計79.5%で、対面のみだった前年度を5.9ポイント、上回りました。

東洋大学現代社会総合研究所 ICT教育研究プロジェクト(松原聡教授が代表)は、全国15大学の学生を対象に「コロナ禍対応のオンライン講義に関する学生意識調査」の結果を2020年10月に公表。

前期の講義をもう一度受ける場合、オンラインと対面のどちらを望むか、との設問では、オンラインを望む学生が40%に対して、対面の希望者33%を上回ったのです。

私も学生に聞いたところ、2年生以上では悪評だけではありませんでした。

「オンラインの方が質問しやすい」(北海道・私立大2年生)

「少人数に分かれる機能で、色々話すことができた。オンライン授業によって、対面だった前年より課題が増えたのは大変だったが、オンラインはオンラインの良さがあるような気がする」(九州・国立大3年生)

木暮健太郎・杏林大学教授は、対面授業での私語への注意が激減した、と苦笑しつつ、オンライン授業の良さについて、こう指摘します。

オンラインでゼミを展開する木暮健太郎・杏林大学教授(左上)。「ゲストスピーカーは呼びやすくなりました」(木暮教授)  (写真・木暮教授提供)
オンラインでゼミを展開する木暮健太郎・杏林大学教授(左上)。「ゲストスピーカーは呼びやすくなりました」(木暮教授)  (写真・木暮教授提供)

「最初は学生のビデオ・オフで真っ暗な画面に向かって話すことに戸惑っていましたが、慣れてくると、対面授業よりも『話す』ことに集中できました。一方的な授業にならないよう、ZOOMの投票機能を活用したが、学生からは『授業に参加している意識が生まれたり、他者の反応が見られたりしたので良かった』との意見がありました。それから、ZOOM授業を録画しておいたため、学生からは復習に役立ったという感想もあり、これまでの対面授業ではできなかったことだと感じています」

◆「1年生は対面で」

一方、1年生に対しては、もっと早く対面授業を再開すべきだった、との意見もありました。

「ゼミなど、オンラインで話せる機会があっても、直接会ったわけではない。だから、オンライン授業でも打ち解けるまでに相当、時間がかかった。2年生の先輩に聞くと、反応が違うので、実際に会ったうえでのオンライン授業かどうか、という差はあるような気がする」(関西・国立大1年生)

大学で非常勤講師も務める宇野健司・大和総研副部長も、この1年生と2年生以上の意識の差を指摘します。

「オンライン授業は大学2~4年生だと満足度は悪くない、との結果が各大学の調査で出ています。しかし、1年生については満足度が低かった。これは、人間関係ができていないところにオンラインで、というのはやはり無理があった、ということでしょう」

宇野副部長は、4月以降について、オンライン授業を継続するにしても、1年生については対面授業の必要性を感じています。

「もし1年生の満足度が低く、2〜4年生はあまり変わらないのだとすると、その差は『友だち作りの場』『大学生になった実感』が奪われてしまったかどうか。既に友だちを作って、キャンパスライフを味わう機会を持てた2〜4年生と、それができないままでいる1年生の違いでしょう。いったん友だち関係を作っていれば、コロナの影響を最小限にとどめられたのかもしれません。今後はオンライン授業を継続するとしても、1年生だけはどうにか対面授業を進めるべきです」

◆まとめ ~学びと生活をどのように構築するか

コロナ禍は、大学生の学習や生活を大きく変えることとなりました。オンライン授業を評価する意見もある反面、コロナによって学生生活が制限されたことにより苦しむ学生が多いことも事実です。

今春、各大学は新入生を迎えます。その学びと生活をコロナ禍においてどのように構築していくか、各大学の苦悩が続きます。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です。】

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。

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