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共通テスト・「鼻出しマスク」がもとで失格に~マスク着用がつらい受験生の対応は(追記あり)

石渡嶺司大学ジャーナリスト
マスク着用の受験生(写真はイメージ)。今年は試験会場内でも必須に(写真:UTS/イメージマート)

◆「鼻出しマスク」「不正行為」がトレンドワード入り

16・17日に共通テストが実施されました。

悪天候などが懸念されましたが、北海道・稚内市が1日目に中止(再試験)となったほかは、大きなトラブルもなく、終了しました。

そんな中、16日に、鼻出しマスクが元で失格となった受験生について、17日夜~18日朝に各メディアが報じました。

これを受けて、18日朝から、「鼻出しマスク」「不正行為」「失格」「鼻マスク受験」などがトレンドワード入りしています。

◆「鼻出しマスク」で即アウトではなく、その後の指示無視が問題

「鼻出しマスクで失格」という文章だけだと、「鼻出しマスクですぐ不正行為が認定され失格となった」と、誤解する人も多いようです。

実際に、Twitterでは、フェイスシールドや鼻出しマスクの政治家の画像を張り付けて、「これは許されるのに受験生がダメなのはおかしい」と主張する人もいました。

正確には、鼻出しマスクで即不正行為と認定されたわけではありません。

記事と大学入試センターが事前に公表している「受験上の注意」を参照していきましょう。

センターによると、16日に東京都内で、鼻を出したままマスクを着け続けた受験生1人が、監督者の注意に従わなかったため不正行為と認定され、成績が無効となった。地理歴史・公民、国語、外国語を受験し、それぞれの監督者から鼻を覆うよう計6回注意され、成績が無効になるとも伝えられていた。受験生は理由を説明しなかったという。

※朝日新聞2021年1月18日朝刊「共通テスト、『脱暗記』『問題ページ増』鮮明 第1日程終了」より引用

記事によると、合計6回、鼻を覆うよう注意された、とあります。

つまり、鼻出しマスクだから即アウト、だったわけではありません。

大学入試センターの「受験上の注意」には、マスクについて、こう定めています。

マスク着用

ア マスク(予備のマスクを含む。)を持参し、試験場内では常にマスクを正しく着用してください。

 フェイスシールド又はマウスシールドの着用のみでは、受験することはできません。

※大学入試センター「令和3年度 受験上の注意」5ページより

このように、マスクの常時着用を義務付けています。

では、着用していなかった、あるいは、鼻出しマスクのどこが不正行為になったか、と言えば、「受験上の注意」では、不正行為とは断じていません。

なお、不正行為は、カンニングなどが該当します。

不正行為ではないものの、「次のことをすると不正行為となることがあります」と、カンニングほどでないにしても、不正行為に準じる行為として8点、定めています。

カ 試験場において他の受験者の迷惑となる行為をすること。

キ 試験場において監督者等の指示に従わないこと。

ク その他、試験の公平性を損なうおそれのある行為をすること。

※大学入試センター「令和3年度 受験上の注意」12ページより

ここで朝日記事に戻ります。記事には、「6回注意され」とあり、それを無視した、ということは「不正行為となることがあります」の「キ 監督者等の指示に従わないこと」に該当します。

しかも、NHKWEBによると、

6回目には「次に注意された段階で無効になる」と告げたものの、その後も応じず、「試験場で監督者などの指示に従わない」という要件に当てはまるとして、7回目に不正行為と認定すると伝えられ、すべての成績が無効になったということです。

※NHKWEB2021年1月17日22時57分公開「共通テスト マスクから鼻出し受験 注意従わず不正認定」より

とあります。

6回も注意され、しかも6回目には「無効になる」と警告されています。

これを無視した以上、失格となるのも無理はありません。

◆共通テストで失格だと、今後の受験はどうなる?

大学入試センターは「受験上の注意」で、不正行為について、次のように定めています。

不正行為を行った場合は、その場で受験の中止と退室を指示され、それ以後の受験はできなくなります。

また、受験した大学入学共通テストの全ての教科・科目の成績を無効とします。

※大学入試センター「令和3年度 受験上の注意」11ページより

今回の鼻出しマスクとその指示無視も、「受験上の注意」では「指示等に従わず、不正行為と認定された場合の取扱いは、1と同様です」とあります。

全教科・科目の成績が無効、ということは、まず共通テストのスコアが必要となる国公立大学は出願できません。

それから、私立大でも、共通テストのスコアによって判定するタイプの試験については、対象外となります。

私立大学の個別試験を課す入試は出願できますが、選択肢は大きく狭められた、と言っていいでしょう。

◆マスク着用が苦しかった場合の救済策は?

この失格を巡り、脳科学者の茂木健一郎さんは「杓子定規のロボット試験監督による人権侵害」とツイート。

ほかにも、「聞いただけでは『え?なんで?ちょっとひどくない?』と思う」(前川喜平氏)、「受験生の人生をかけた入試の場で、運営者側のマスク強要による不合理な事態が発生したことは極めて遺憾」(マスパセ/ピーチ航空でマスク着用を巡りトラブルになった乗客)など、受験生側に同情的な意見が出ています。

では、マスク着用が苦しい受験生に対しての救済策がなかったのでしょうか。そんなことはありません。

大学入試センターの「受験上の注意」には、こうあります。

感覚過敏等によりマスクの着用が困難な場合は、「医師の診断書」を提出して受験上の配慮申請を行い、別室での受験を申請する必要があります。申請方法及び受付期間等については、受験案内の40ページを参照してください。

なお、受験上の配慮申請を行わずに試験当日に申し出た場合は、マスクを着用せずに受験することはできないため、追試験の受験を申請してもらうことになります。

※大学入試センター「令和3年度 受験上の注意」6ページより

事前申請をしていれば、別室受験が認められていました。

それから、当日に、息苦しさを感じるのであれば、追試験の申請をすれば良かったのです。

大学入試センターの「受験上の注意」は、事前に公表され、受験生も読むことが求められています。

マスク着用についても該当項目がありますし、高校などでも説明があったはず。

私は監督者からの指示が6回もあって、それを無視した以上、受験生側に同情することはできません。

◆自分に合うマスクを用意すれば済んだ

眼鏡をかけていて(この受験生が眼鏡だったかどうかは不明)、曇りやすかった、ということも考えられます。

私は普段、眼鏡をかけており、それでマスクをすると、どうしてもレンズが曇りやすくなります。地味ながらストレスとなり、この受験生もそうだったかもしれません。

しかし、もしそうだったとしてもどうでしょうか。ちょっと大きめのドラッグストアやホームセンターなどに行けば、様々な種類のマスクが販売されています。

眼鏡が曇りにくいマスクも出ていますし、何種類か、買って、事前に試してみる、という手はなかったでしょうか。

マスクの入手困難だった昨年春ごろならまだしも、きちんと流通している現在では、用意できない、というのは理解できません。

それから、どうしても入手できなかった、でも、眼鏡が曇る、ということであれば、試験監督に相談してみればまた違ったはずです。

決められたルールの中で、自分に合うコンディションを自分で模索する、それが今年の受験では求められています。

◆自分で情報を取る、コンディションを整える

試験会場内でのマスク着用は、どの大学でも同様です。

たとえば、明治大学は入試要項に、

試験当日は症状の有無にかかわらず,各自必ずマスク(文字や地図等のプリントがないもの)を着用のうえ来場し,試験場では写真照合(本人確認)などの試験場スタッフから指示があった場合や昼食時以外は常に着用してください。

*慢性的な疾患等によりマスクの着用が出来ない場合は,必ず事前に配慮申請手続きが必要です。

と、定めています。

これは他大学も同様です。

もし、感覚過敏等の疾患があるのであれば、志望校の入試課などに事前連絡し、相談した方がいいでしょう。

単に、眼鏡が曇る、という程度なら、自分に合うマスクを探してください。

余談ですが、昨春のコロナ禍で、大卒就活では一気にオンライン選考が広まりました。

今までは、面接の場は、採用する企業側が整えるものであり、学生側はリクルートスーツを含む身だしなみ以外は気を遣う必要がありませんでした。

しかし、オンライン選考では、スマホかノートパソコン・タブレットか、回線速度の速さ、あるいは部屋の明るさの調整など、すべて学生側が自ら設定することが必要となりました。

結果論ではありますが、より良いオンライン選考のための環境を作っていった学生は就活が順調に進みました。その反面、部屋の電気が暗く、画面でも暗くなってしまう就活生は、その分だけ不利となってしまったのです。

この点だけをもって、「選考は不公平」とする意見もあるでしょう。

私はそうは考えません。

事前に、どのような条件か、公表されており、その条件のもとで、より良い環境、より良いコンディションをどう整えるかは、個人の判断によるものです。

同じことが今年の大学受験におけるマスク着用にも言えます。

受験生は面倒であっても、どんなマスクが試験会場でより良いのか、いろいろと模索してください。

追記(2021年1月18日19時50分)

毎日新聞サイト(2021年1月18日18時32分掲載)「鼻出しマスクで失格の受験生、トイレに立てこもり警察が出動 注意されせき込む仕草も」に新たな情報が出ていました。

16、17日に実施された大学入学共通テストで、鼻をマスクで覆うように試験監督者から何度も注意を受けながら指示に従わず失格となった受験生が、失格を告げられた後、会場内のトイレに立てこもり警察に退去させられていたことが文部科学省関係者への取材で判明した。

関係者らによると、この受験生は40代で~

40代…。あ、ちなみに、この石渡も40代です(45歳)。

40代で大学受験をするのはいいでしょう。そういうキャリアチェンジもあるわけですし。

しかし、40代なら一般的な常識があって当然の年齢です。

6度にわたって注意を受け、それを無視する、というのは尋常ではありません。

失格通告後に、トイレに立てこもり、警察沙汰になる、というあたり、確信犯としか思えません。

「コロナは風邪」とか「マスクは無駄」という主張を持つにしても(そういう主張だからこその行為としか思えませんが)、他の受験生に迷惑のかからないところでやれ、と声を大にして言いたいです。

という、追記でした。

追記(2021年1月19日14時20分)

19日午前に、この受験生が逮捕されていたことを各メディアが報じました。

【独自】鼻出しマスクで大学入学共通テスト失格の男(49) トイレに立てこもり現行犯逮捕(FNNプライムオンライン 2021年1月19日11時公開)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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