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成人式があってもすぐ家に帰ろう~京産大差別騒動を繰り返さないために

石渡嶺司大学ジャーナリスト
成人式で話し込む新成人(写真はイメージ)。今年は会話も控えめに(写真:アフロ)

◆コロナ禍で成人式が続々中止・延期に

成人式と言えば2000年代に入ってから、荒れる式典として注目され続けてきました。

その契機は2001年です。

高知市での来賓だった橋本大二郎知事(当時)が祝辞を述べている最中に一部のグループが野次を飛ばしました。これに知事が「静かにしろ」「出ていけ」と一喝。

同日、香川県高松市では、式典中に酒盛りを始めるグループが出て、祝辞を述べている市長に対してクラッカーを数発鳴らす騒動が起きました。同じ香川県の観音寺市では、おもちゃのピストルを壇上に向け数発発射する騒動も。

これらが各メディアで流れ、良くも悪くも、季節ネタとなってしまったのです。

実際には、そこまで荒れる成人式など多くはないのですが。

それが今年はコロナ禍により、開催の是非を巡って荒れることとなりました。

特に緊急事態宣言が再度、発令された1都3県では、開催か、中止か、揺れ動くこととなりました。

東京23区では、当初、開催予定だった新宿区が8日に中止を決定。同じく、豊島区、江戸川区も中止。

一方、杉並区は開催を決定。他、稲城市など7区市町が開催予定です。

東京都の成人式開催状況(10日現在/島しょ部は除く)

中止:新宿区など20区、立川市、多摩市、八王子市など

延期:渋谷区、中野区

開催(11日):杉並区、昭島市、国立市、福生市、武蔵村山市、稲城市

開催(10日):瑞穂町

◆岩田健太郎教授「成人式には行かないで」

10日は感染症専門医の岩田健太郎・神戸大教授が、「成人式には行かないで」とするコラムを発表し、話題となりました。

タイトル通り、新成人に対して、成人式には参加しないよう、呼び掛けるものです。

成人式の感染対策は「バッチリ」かもしれません。でも、そのあとで「久しぶりにあったんだから、ちょっと飲みに行かないか」という話になるかもしれません。もう、お酒も飲めるんだし。居酒屋じゃなくたって、友達のうちに集まることだってできるでしょう。久しぶりの旧友にあえば気も休まります。それでなくても、この1年は気が休まらなかった1年だったのですから。大声で近況を知らせ合う、ということも十分にありそうなことです。昔からの友達に会えば、ハメを外したくなるのが人情です。

そうやって都会から持ち込まれたウイルスが田舎で広がります。

岩田教授はご自身の出身である島根県を例に出しています。

これは同じことが首都圏や関西圏など都市部の成人式にも当てはまります。

◆「ちょっと飲みに行こう」がクラスターになった京都産業大

これと全く同じ状況が、コロナ感染が広がりつつあった2020年3月にもありました。

当時、卒業式の開催を巡り各大学は大混乱の末、多くの大学は中止か規模縮小を決めました。

規模縮小を決めた大学は、卒業生にすぐ帰宅するよう呼びかけてはいましたが、そうは言っても、一生に一度の卒業式です。

「ちょっと飲みに行こう」と懇親会を開く卒業生は全国の大学に存在しました。

せっかくの機会なのだから、飲みに行こう。

これ自体は自然な感情ですし、平時であれば全く責められる行動ではありません。

しかし、コロナ禍においては話は変わります。

京都産業大学の場合、ヨーロッパ卒業旅行に行っていた卒業生を含むゼミの懇親会が元でクラスターとなってしまいました。

しかも、学生・卒業生の感染が判明してから2週間で数百件以上もの抗議が大学に殺到。京都市内では、京都産業大生というだけで飲食店への入店拒絶やアルバイトの解雇、教職員子弟の幼稚園登園拒否など、いわゆるコロナ差別が発生します。

この京都産業大のクラスター化による死亡例は確認されていません。

しかし、死亡例がなくても、京都産業大はコロナ差別という深い傷を負ってしまったのです。

岩田教授の「成人式には行かないで」には、感染を広げてしまった場合についても触れています。

想像してみてください。もし、みなさんのご両親やおじいさん、おばあさんが「あなたが」持ち込んだウイルスのために病気になってしまったら。それが理由で長くて苦しい重症治療を受け、場合によっては死んでしまったら。それがもし、成人式がきっかけになったものであったならば。

ぼくだったら、そんな体験をしたら悔やんでも悔やみきれないことでしょう。なにしろ「一生一度の成人式」なのです。何十年たっても、その成人式を苦い思いで振り返らねばならなくなるでしょう。

◆「海外渡航者はいないから大丈夫」ではない

もちろん、こういう言い方もできます。

「京都産業大の場合、海外渡航者がいたから感染が広まった。成人式に海外渡航者はいないから大丈夫だ」

なるほど、確かに、ほとんどの成人式では、京都産業大のように海外渡航者はいないでしょう。

それでは、海外渡航者がいないから大丈夫、と言い切れるでしょうか。

私は医療の専門家ではありませんので、軽々に断じることはできません。

が、データを示すことはできます。

京都産業大のクラスターが公表されたのは2020年3月29日。同日、日本での感染者数は総計1728人(前日比198人)。

2021年1月9日現在、感染者数は総計27万4947人(前日比7863人)。

変異種が見つかるなど、昨年春よりも良い状況ではなく、むしろ悪化していることは誰の目にも明らかです。

◆自分と家族を守るためにも家に帰ろう

本日11日、東京都では杉並区など6区市で成人式が開催されます。

中止とした自治体でも、写真撮影などのスポットを設けています。

10日開催分について、10日のニュース番組を見ていると、写真撮影スポットの外で新成人同士が話し込むシーンが多く流れていました。

中には、そのまま、飲みに行くグループがあるかもしれません。

東京だと、飲食店は20時閉店なので、誰かの家で飲もう、という話もあるかもしれません。

しかし、飲食店であれ、家であれ、飲食をともにすれば、それだけ感染リスクが高まることは確かです。

新成人ご本人が無症状だったとしても、家族や近隣住民に感染を広げるかもしれません。

もし、成人式に参加するとしても、今年は、終わったらすぐ家に帰りましょう。

飲みに行く話があっても、断りましょう。どうしても話したいなら、オンライン飲み会でいいじゃないですか。

もし、飲みに行く誘惑を断ち切れなさそう、ということであれば、成人式の出席はやめましょう。

自分と家族と地域を守るためにも、成人式後の行動が新成人には問われることになります。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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