内定取り消しでも就職率最高で2.6%増のカラクリ~意外と知らない就職率の話 #大卒採用

就職率がわからないと怒る就活生(写真はイメージ)。意外なカラクリがあった。(写真:アフロ)

◆内定取り消しがヤフトピ入りでも日経1面は「前年比2.6%増」

本日(6月29日)、Twitterのトレンドワードに「大卒採用」が入っていました。確認すると、本日の日本経済新聞朝刊1面に掲載された「大卒採用2.6%増 10年ぶり低水準 車など半数業種で減少 本社調査 コロナ禍響く」が元になっているようです。

一方、Yahoo!トピックスには「社会人新生活、コロナで暗転 内定先が入社延期重ねる」(岐阜新聞)が入っていました。

入社延期とありますが、これは要するに内定取り消しです。記事のメインとなっている女性がショックすぎたのか、それとも、労働法に詳しいハローワーク職員・キャリアセンター職員がいなかったのか、いずれにしても、この女性は補償金を求めることなく、結果、地元自治体の任期付き職員としてひとまず就職した、とあります。

※入社延期も内定取り消しとほぼ変わらず補償金を受け取れる可能性が高いです。詳しくは3月 日記事をお読みください。

「前年比2.6%増」という記事が1面に出てTwitterのトレンドワード入りする一方、入社延期という記事がヤフトピ入り。

Twitter等を見ていると、「就職氷河期なの?まだ就職できるの?どっち?」という書き込みがありました。

同様の書き込みは6月中旬にもありました。

6月12日に厚生労働省は20年卒の就職率と内定取り消し者数を公表。これを受けて、翌日、13日に各紙が朝刊で報じました。

この就職率が過去最高である98%である反面、内定取り消しは今春、87人(大卒のみ、高卒等を含めると107人)。

「就職率が過去最高で内定取り消しが87人もいるなんて、要するに、就職状況はいいの?悪いの?」との書き込みが多数あったのです。

確かに矛盾する内容ですが、背景には就職率のカラクリや採用計画の回答事情などがあります。

◆採用計画は「あくまでも計画」

まずは、日本経済新聞の採用計画調査について。

こちらは920社の回答をまとめた力作です。

掲載の日本経済新聞(6月29日朝刊)は、1面に概要、5面に補足と今年の就職状況(特にオンライン選考)の概観。25~29面に詳細が掲載されています。

就活をそこまで考えていない学生も読んでみるといいでしょう。

さて、この採用計画調査ですが、日本経済新聞の力作ですし、「20年卒に比べて2.6%増」というのは事実です。

ただし、記事にもありますが、2009年春調査の2010年度卒は前年比マイナス19.6%と大きく落ち込んでいました。その後、長い売り手市場もあり、プラス5~10ポイントで推移していました。そのため、「プラス2.6%」と言っても、そう高い水準ではないのです。

それと、回答する企業からすれば、あくまでも「採用計画」です。仮に計画通り、行かなくても罰則等があるわけではありません。

そのため、日本経済新聞に限らず、他の新聞やビジネス週刊誌の調査などでも同じように、企業は数字を「盛る」ことがあり得ます。

「仮に数字と違っても、計画を立てた時点から景況感が変わったので、と言えば済む」(元採用担当者)

それと、日本経済新聞の5面をよく読むと、文系・理系では差があることが分かります。

大卒の文科系は3.3%減っており、理工系を求める企業の多さが目立つ。短大・専門学校・高専卒も理工系の人気が高く、14.7%増と大幅に増えた。

※日本経済新聞2020年6月29日朝刊「デジタル人材 人気衰えず コロナ下も次世代投資 理系採用、大卒9%増・高専など14%増」より

いずれにしても、大学生は目安の一つ、と考える程度で十分でしょう。

◆実は2つある就職率

次に就職率について。

あまり知られていないことですが、国が出している就職率は2つあります。

1つは今月、厚生労働省が発表した就職率です。これは正確には厚生労働省と文部科学省による合同調査で「就職内定状況等調査」と言います。調査は1997年から実施されています。

1997年は94.5%(大卒)で、その後、最低は2011年の91.0%。最高は2018年と2020年の98.0%です。

ここで最低と最高の差がわずか7ポイントしかないことに気付いた方は、なかなか鋭い方です。

この就職率データの正式名称が「就職内定状況等調査」という点が気になった方は言葉のセンスに優れている方でしょう。

この詳細を説明する前に、もう一つの就職率をご紹介します。

こちらは文部科学省が単独で実施している学校基本調査です。1950年卒業者分から公開されており、大卒の1950年卒は63.8%。過去最高は1991年の81.3%、最低は2003年の55.1%でした。こちらの就職率は26.2ポイントも差があります。

なぜ、厚生労働省との合同調査では7ポイント差で、文部科学省単独だと約4倍もの差となるのでしょうか。

◆分母、分子というカラクリ

では、この2つの就職率のカラクリをご説明しましょう。

文部科学省単独の就職率は、正確には「卒業者に占める就職者の割合」と言います。

という正式名称が出た時点で、合点の行く読者も多いのではないでしょうか。

こちらは、卒業者総数が分母、就職者数が分子です。毎年8月にその年の卒業者について速報値を公表しています。大学、短大、高校などは全て回答する必要がありますので、実態としてはこちらの方が正確です。

では、厚生労働省と文部科学省の合同調査である「就職内定状況等調査」はどうでしょうか。

こちらは就職希望者が分母、就職者が分子です。

さらに付け加えると、この調査は全大学に対して調査するものではありません。

厚生労働省サイトに、調査の概要がありました。対象は、以下の通りです。

全国の大学、短期大学、高等専門学校、専修学校の中から、設置者・地域の別等を考慮して抽出した112校についての調査。調査校の内訳は、国立大学21校、公立大学3校、私立大学38校、短期大学20校、高等専門学校10校、専修学校20校。

調査対象人員は6,250人(大学、短期大学、高等専門学校合わせて5,690人、専修学校560人)。

調査対象は短大などを含めても6250人。一方、学校基本調査は卒業者総数が分母であり、この卒業者は大学卒だけで約56万人。

大学数は782校(2018年時点)に対して、就職内定状況等調査は112校。

学校基本調査と就職内定状況等調査、どちらがより正確か、どう考えても前者の方でしょう。

◆年4回あって「希望者」が消える?

しかも、就職内定状況等調査、各年の10月1日、12月1日、2月1日、4月1日(卒業)の4回あります。

毎年、10月調査の数字が低く、4月(卒業)調査が高くなるのは当然です。

ここで、読者の皆さんに質問しましょう。10月1日、12月1日、2月1日の調査は大学生だとどの学年に対しての調査でしょうか?

考える時間は5秒もなくても、回答される方が大半ですね。

そう、大学4年生です。

何を当たり前のことを聞く?

大学4年生で10月1日と言えば、就職が決まっていれば、この日は内定日であり、多くの企業は10月から11月にかけて内定式を開催します。

一方、この時期にまだ未内定の4年生はどうでしょうか。なかなか、厳しい状況にあります。

それでも、諦めずに就職活動を続ける学生もいれば、一度断念して、1月末の後期試験が終わった後に改めて就活を再開する、という学生もいるでしょう。あるいは12月ごろに発表となる卒業論文が一段落してから、という学生もいるでしょうし、そもそも就職留年を選択した、という学生もいるに違いありません。

それも当然だ?

そうですよね、では、先ほど挙げた就活を続ける・続けない学生について、調査統計の分類ではどうなるでしょうか。

就活を続けていれば「就職希望者」となります。そうではなく、一時中止や留年・浪人と言うことであれば「就職希望者」という概念からは外れます。

この裏事情について、内定状況等調査の対象校だったキャリアセンターの元職員氏は次のように話してくれました。

「時期が進めば進むほど、就活を断念するか、一時中断する学生が増える。そうなると、希望者の対象から外す。調査時期が進めば、対象者数が変わるわけで、その分だけ就職率が上がるのは当然と言えば当然」

◆文部科学省は就職率イコール内定状況等調査だが

この2つある就職率について、文部科学省は2013年12月に通知(文部科学省における大学等卒業者の「就職率」の取扱いについて/25文科高第667号 平成25年12月16日)を出し、厚生労働省との合同調査である内定状況等調査を就職率、としました。

大学等卒業者の卒業後の状況については、学校教育法施行規則において、各大学等が「卒業者数」、「進学者数」及び「就職者数」を含む「進学・就職等の状況」を公表するものとされているところですが、各大学等における「就職率」については、各大学等の判断で自主的に公表を行っているところもあると存じます。

しかしながら、「就職率」については、国、民間事業者、大学等の調査においてその定義や算出方法が不統一であることから、社会に対し混乱を招くのではないかとの指摘もあるところです。

このため、文部科学省では、これまで「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職(内定)状況調査」(以下、「就職(内定)状況調査」という。)及び「学校基本調査」において、「就職率」という表現を使用し、それぞれの定義を前者は「就職希望者に占める就職者の割合」、後者は「卒業者に占める就職者の割合」と異なる取扱いをしておりましたが、今後は下記のとおり就職(内定)状況調査の算出方法によるものを「就職率」と称し、平成26年度以降の学校基本調査においては、「卒業者に占める就職者の割合」と称することとしました。

つきましては、各大学等におかれては、文部科学省における「就職率」の取扱いを御参考にしていただくとともに、「就職率」を公表する場合は、「調査時点」、「就職希望者」や「就職者」などの定義や算出方法を明示いただくようお願い申し上げます

文部科学省における「就職率」の取扱いについて

1.「就職率」については、就職希望者に占める就職者の割合をいい、調査時点における就職者数を就職希望者で除したものとする。

2.「就職率」における「就職者」とは、正規の職員(1年以上の非正規の職員として就職した者を含む)として最終的に就職した者(企業等から採用通知などが出された者)をいう。

3.「就職率」における「就職希望者」とは、卒業年度中に就職活動を行い、大学等卒業後速やかに就職することを希望する者をいい、卒業後の進路として「進学」「自営業」「家事手伝い」「留年」「資格取得」などを希望する者は含まない。

4.「就職率」の調査時点は、「4月1日現在」とする。

※「就職(内定)状況調査」は年4回調査を実施しているが、10月1日現在、12月1日現在、2月1日現在の調査結果を就職内定率と称し、4月1日現在の調査結果を就職率と称している。

※「就職(内定)状況調査」における調査対象の抽出のための母集団となる学生等は、卒業年次に在籍している学生等としている。ただし、卒業の見込みのない者、休学中の者、留学生、聴講生、科目等履修生、研究生及び夜間部、医学科、歯学科、獣医学科、大学院、専攻科、別科の学生は除いている。

※両方とも文部科学省サイト「文部科学省における大学等卒業者の「就職率」の取扱いについて/25文科高第667号 平成25年12月16日」より引用

以降、マスコミで就職率と言えば、この内定状況等調査による就職率を示すようになりました。

◆石渡記事では学校基本調査の就職率を利用

ですが、他所は他所、うちはうち。どちらが読者に対して正確な情報を提供できるか、ということで、私はYahoo!記事も含め、文部科学省・学校基本調査を就職率としています。もちろん、注釈を入れないと混同を招くので必ず入れています。

理由としては、やはり、正確なデータはどう考えても学校基本調査のものだからです。

そもそも、内定状況等調査の始まった1997年は、就職活動時期が4年生夏ごろスタートでした。そのため、4年生10月、12月頃に就活を続ける学生はそう珍しくはなかったのです。

その後、就活時期は変化していきました。2000年代前半には3年生秋ごろに始まり、4年生4月~6月頃には内々定が出そろうようになっていきます。その後、若干の変動があったとは言え、この時期感覚はそう大きくは変わっていません。4年生10月頃に就活を続ける学生は福祉業界の一部、それと、長期留学からの帰国組に失敗組など、全体からすれば少数派になっています。

その時期に変化を調査すること自体、私はあまり意味があるとは思えません。まして、サンプル調査で正確なデータが出る、とするのは無理があるでしょう。

かくて、私は学校基本調査をずっと利用し続けています。が、マスコミ業界の中では少数派であり、本や記事を書く際に編集者や校正担当者から「この就職率データ、間違えています」と指摘され喧嘩することに。

今度から、揉めたら、この記事を見せればいいのか(苦笑)。

◆2021年卒・2022年卒はどうなる?

話を就職状況に戻しましょう。

6月12日に厚生労働省が出した98.0%という就職率は希望者ベースに内定状況等調査によるものです。売り手市場を反映していて、しかも希望者ベースなのですから高く出て当然です。

そして、同時に出た内定取り消しが107人とあります。

リーマンショックの影響を受けた2009年卒は、厚生労働省調査で内定取り消し2125人(うち、大卒1743人)、自宅待機・入社時期延期は1093人。

内定取り消し者数を比較すると、2009年が2125人に対して2020年は107人。これは前記の通り、影響が出たのが卒業直前の3月であり、秋ごろに影響の出た2009年に比較すると、軽微だったことが明らかです。

そして、2020年卒の学校基本調査版就職率はまだ公表されていません。

が、コロナショックの影響は卒業直前であり、ほぼ受けていません。

2019年卒は78.0%でした。この売り手市場の状況をほぼ受けているので、2020年卒は少なくとも2019年卒の78.0%と同じか、あるいは少し上回っている可能性が高いです。

一方、2021年卒は、選考が始まる3月頃に影響が出ました。

その結果、日本航空、全日本空輸、HIS、スカイマーク、USJなどが選考中止を公表しています(すでに内々定を出した学生は内定取り消しをせず、そのまま内定・入社)。

コロナショックによる影響は観光・ホテル・運輸業界を中止に大きく出ると見る方が自然でしょう。

そのため、就職率(学校基本調査)は、売り手市場だった2020年卒以前に比べて落ちることが予想されます。

これは現・3年生の2022年卒についても同様です。ただし、2022年卒については、コロナショックがどこまで収まるか、オリンピックが開催されるかどうか、などにも大きく影響されます。「第二波・第三波が想定以上に大きい・オリンピックが中止」となれば、かなりネガティブな結果が想定されます。

一方、「第二波・第三波がそれほどでもない(ワクチンも開発された)・オリンピックは開催」となれば、2021年卒の状況から一変、ということもあり得ます。

長く就活取材をしてきた私としては、学生が就職率や採用計画などの報道に一喜一憂する必要はない、と考えています。

それでも気になるのであれば、新聞やYahoo!記事などを読んで社会の変化などに注目していってはどうでしょうか。そうすれば、意外な優良企業が見つかるかもしれません。

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計28冊・55万部。

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