学習塾・スポーツクラブの雇用が危ない~コロナショックで廃業も

無人の教室(写真はイメージ)。コロナショックの影響で廃業した塾も。(写真:アフロ)

◆高校入試直前に老舗塾が廃業

3月5・6日は富山県の公立高校入試が実施日でした。

受験生がその追い込みにかかっていた3月2日、県内の塾で老舗だった志学アカデミーの廃業が報じられたのです。

帝国データバンク・信用情報「富山県(株)志学アカデミー 続報、学習塾運営 破産手続き開始決定受ける」(3月12日)によると、3月3日に富山地裁より破産手続き開始決定を受けました。

1975年(昭和50年)12月創業、76年(昭和51年)4月に法人改組した学習塾運営会社。

(中略)

安定した合格実績を背景に富山県内では地場大手学習塾の一つとして認知され、2003年3月期には年収入高約3億8000万円を計上していた。

(中略)

金融機関に担保提供していた代表者所有不動産を売却するなどで立て直しを図っていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け2020年3月以降に予定していたテスト・模試の中止を余儀なくされるなど資金状況は改善せず、事業継続は困難と判断。今回の措置となった。

申請時の負債は、債権者約68名に対し約3億3400万円。

※前記記事より引用

同記事にある通り、コロナショックの影響による3月以降のテスト・模試の実施中止が廃業の決め手となってしまいました。

コロナショックの影響による塾の倒産は3月16日現在、志学アカデミー1社にとどまっています。

が、今後、塾・スポーツクラブの倒産・廃業や関係者の大幅な収入減が関係者の間で続出する、と見られています。

◆スポーツクラブ~感染者が出て休業相次ぐ

まず、スポーツクラブですが、各報道にある通り、感染者の発症源となってしまいました。卓球教室やヨガスタジオなども含めると、感染者が出たのは主なところでも以下の通り。

千葉県市川市(2月25日)、愛知県名古屋市(2月29日)、静岡県静岡市(3月1日)、神奈川県鎌倉市(3月2日)、新潟県新潟市・加茂市(3月3日)、神奈川県横浜市(3月6日)…。

一部は集団感染(クラスター)となってしまっています。

こうした状況を受けて、3月1日、厚生労働省は「換気が悪く、人が密集して過ごす空間、不特定多数の人が接触する場所に行くことを避けるよう」勧告しました。

その具体例として挙げられたのが、屋形船、雀荘などとならび、スポーツジムなのです。

これを受けて全国のスポーツクラブやスイミングスクールなどは続々と休業を発表。

一般社団法人日本フィットネス産業協会は3月3日にガイドラインを公表、子ども向けスクールの休止、マシン設置のタオルの撤去、プールでの集団型レッスンの中止などです。

◆学習塾~休校か開校かで揺れる

一方、学習塾は3月15日現在、感染者は出ていません。

しかし、全国の小中高に対する一斉休校にあわせて、政府は学習塾に対しても休業を要請しました。

これに対して学習塾の対応は分かれています。

公益社団法人全国学習塾協会は2月28日に指針を発表。「およそ2週間の対面等での授業等の実施を最大限控える」などとしています。

ただし、「地域の状況に応じて」ともあり、実際に、地域や運営企業・塾によって対応は分かれています。

朝日新聞2020年3月6日朝刊(中部版)「塾の対応分かれる 対策取り開講 ネットで代替 新型肺炎=三重」によると、三重県の学習塾は3月10日が公立高校入試だった、という事情もあり、対応は分かれました。

県内に52校を展開する鈴鹿英数学院は、保護者や受講生から受講希望の声があり、対策を徹底して講義を続けることにした。「3月中は休みたい」などの要望にも対応、インターネットによる指導やテストも実施している。グループ本部の岩倉淳・代表室統括補佐は「安全と健康を最優先に、自主判断を大切にしている。学習の場を提供する社会的な責任もある」と説明した。

四日市市などで5校を運営する個別指導塾「スマイル」も通常通り講義している。同市や菰野町などの学童保育所に通う児童を対象に3月限定で無料授業も始めており、「児童や講師の感染防止を徹底しながら学習支援を続けたい」とした。

一方、四日市市を中心に8校を展開する学習塾「スタディー」は、5~19日に休校すると告知した。全国の学習塾でつくる全国学習塾協会(東京)理事も務める清水秀樹代表は「協会の方針や国の要請に従い、休校とした。受験や新学年を迎える大事な時期で、休校は非常に残念」と話した。

秀英予備校は、各市町の小中学校の休校期間に沿って校舎を休講させている。津本部校(津市)は2~14日に休講、ネットによる授業などで対応する。県内の一部校舎では、中学3年の受験生に限って一時的な講義を行うなどしており、担当者は「休講中も面談を実施するなど十分に指導し、受講生のやる気を維持していきたい」と語った。

※前記記事より引用

◆「保護者は開校を求めるが、感染者が出たら…」と悩む

公益社団法人全国学習塾協会は一斉休校期間中の3月11日~14日に保護者アンケートを実施(調査人数36,171名)。

「子供の生活リズムが崩れることに不安がある」は「とても不安がある」(43.2%)、「やや不安がある」(43.7%)を合わせて、86.9%が不安あり、と回答。

感染対策を前提として「学習塾で勉強させたい」は「とてもそう思う」(53.3%)、「ややそう思う」(34.4%)を合わせて87.7%が肯定的でした。

学校が一斉休校となり、子どもの居場所がない以上、学習塾へのニーズが高まるのは当然です。

それに、高校入試等を控えている地域も多く、開校したままの学習塾も多くありました。

しかし、関係者に取材したところ、開校か休校か、悩んだとのこと。

「今のところ、塾から感染者は出ていない。が、もし、塾講師や生徒から感染者が出た場合、『なぜ開校していたのか』とバッシングされる。スポーツクラブは他人事ではない。体温チェックなども含め、感染対策を万全にしていくしかない」

◆学習塾・スポーツクラブに共通する脆弱さ

3月15日現在、感染者を出していない学習塾、感染者を出しているスポーツクラブ、実はこの両者には共通点があります。

それは経営の脆弱さと非正規雇用の多さです。

経済産業省・特定サービス産業実態調査(2018年)によると学習塾の雇用形態はパート・アルバイトが71.9%と圧倒。

学習塾の雇用形態(経済産業省・特定サービス産業実態調査・2018年/Yahoo!ニュース個人編集部が作成)
学習塾の雇用形態(経済産業省・特定サービス産業実態調査・2018年/Yahoo!ニュース個人編集部が作成)

スポーツクラブ(スポーツ施設提供業)もパート・アルバイトが59.1%と半数以上を占めています。

スポーツクラブの雇用形態(経済産業省・特定サービス産業実態調査・2018年/Yahoo!ニュース個人編集部が作成)
スポーツクラブの雇用形態(経済産業省・特定サービス産業実態調査・2018年/Yahoo!ニュース個人編集部が作成)

さらに塾の場合、経営規模は小規模です。同調査によると、「従業員数4人以下」が57.2%を占め、「5~9人」22.5%、「10~29人」17.2%となっています。冒頭で出した、志学アカデミーは廃業決定時、従業員数は25人でした。その規模も合わせると96.9%を占め、従業員数100人以上の大規模な塾はわずか0.2%しかありません。

学習塾の経営規模(経済産業省・特定サービス産業実態調査・2018年/Yahoo!ニュース個人編集部が作成)
学習塾の経営規模(経済産業省・特定サービス産業実態調査・2018年/Yahoo!ニュース個人編集部が作成)

学習塾はもともと少子化の影響や競争激化もあって、2018年には93社が倒産しています(「建設工業新聞」2019年1月21日「学習塾の倒産、過去最多を記録/大手との競合や講師不足で増加」)。

帝国データバンクがとりまとめた「教育関連業者の倒産動向調査(2018)」によると、倒産件数(負債1000万円以上、法的整理のみ)は91件となり、リーマン・ショック後の2009年(93件)に続き過去2番目の高水準となった。

2015年以降、4年連続で増加している。中小規模業者は生徒数の減少に加え、人手不足で人件費コストが嵩み、経営環境が悪化している。

(中略)

クチコミや知名度が集客を大きく左右する業界だけに、中小規模業者の淘汰が進む可能性がある。

※前記記事より引用

◆経営者や非正規雇用者への支援を

非正規雇用者の多さや経営の脆弱さから、学習塾・スポーツクラブはコロナショックの影響で、今後、倒産や非正規雇用者の大幅な減収が予想されます。

非正規雇用者・フリーランスの大幅減収はすでに影響が出ており、信濃毎日新聞3月5日朝刊「声のチカラ スポーツジム、県内で休業増 新型ウイルス集団感染防止政府要請受け 利用者減や収入減…関係者困惑」には、こうあります。

「営業を自粛している所が複数ある。健康のためのジムなのにやりきれない」。松本市内のインストラクターの40代女性から本紙「声のチカラ」(コエチカ)にそんな声が寄せられた。調べてみると、利用者減少は売り上げにも響き、関係者に困惑が広がっていた。

女性はフリーランスで、松本市と岡谷市の3カ所でレッスンを受け持つ。2月までは週4日通っていたが、3月に入って仕事がない状態。「補助が出るスポーツクラブもあるが、微々たるもので3月は収入が激減する」とし、国の補償に期待をかける。

ジムの休業について、女性は「感染防止には必要で仕方ない」と受け止める一方、普段は免疫力向上などを目指して指導しているだけに「やりきれない気持ち」と話した。

※前記記事より引用

政府は中小企業やフリーランスへの支援制度を明らかにしています。

が、制度の分かりづらさや金額が不十分とする意見も多くあります。

学習塾は地域や保護者を支える教育機関であり、社会インフラとも言えます。

スポーツクラブも、オリンピックの開催国であり、健康維持・増進という点を考えれば、こちらも欠かせない産業です。

その反面、本稿で明らかにしたようにコロナショックで今後、経営や雇用でさらに大きな影響が考えられます。倒産や失業を防ぐために現状以上の対策が政府には求められます。

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。

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