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卒業式は中止か参加自粛を~コロナウイルス対策で中止・縮小が相次ぐ(追記あり)

石渡嶺司大学ジャーナリスト
卒業式に向かう女子学生(写真はイメージ)。近畿大学などはすでに中止を表明(写真:アフロ)

◆2月25日、政府の基本方針が出たが

1月25日に日本国内での新型コロナウイルスの感染者が確認されてから一か月が経過しました。感染は収束するどころか、拡大しています。

これを受けて、本日、2月25日、政府の基本方針が加藤勝信・厚生労働大臣によって発表されました。

感染拡大の防止へ「極めて重要な時期」 政府、新型コロナ対策の基本方針を発表(THE PAGE 2020年2月25日16時配信)

加藤厚労相は、イベント開催について次のように述べています。

今後は患者の集団が確認された地域などでは、関係する施設やイベントなどの自粛を検討していただくこともお願いする

これまで政府・厚生労働省は「一律の自粛要請はしない」としていました。

イベント等の主催者においては、感染拡大の防止という観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討していただくようお願いします。なお、イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではありません。

 また、開催にあたっては、感染機会を減らすための工夫を講じていただくようお願いいたします。例えば、参加者への手洗いの推奨やアルコール消毒薬の設置、風邪のような症状のある方には参加をしないよう依頼をすることなど、感染拡大の防止に向けた対策の準備をしていただくようお願いいたします。

厚生労働省サイト イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ(2月20日公開)

◆25日方針は踏み込んだがまだ不十分

2月20日時点では「一律の自粛要請はしない」という曖昧な文言でした。

それが、2月25日の政府方針/大臣会見では感染地域について「イベントなどの自粛を検討していただくことも」と一歩、踏み込んでいます。

しかし、それでもまだ、実施の最終判断はイベント主催者に任されている、と解釈できる表現に留まっています。

この新型コロナウイルスについては、感染について楽観的な見方も存在します。

「マスコミは騒ぎ過ぎだ…!」新型コロナ“対策慎重派”たちの本音(現代ビジネス 2020年2月25日配信記事)

私も素人ながら、1月下旬までは大量の中国人観光客が訪日しており、もっと感染リスクがあったことを考えれば、感染者は少ない、と感じています。そのため、こうした楽観論も、そうだろう、という気がしないでもありません。

しかし、感染者が増えるだけでなく、高齢者の致死率が高いことなどがすでに判明しています。

まして新型コロナウイルスはまだワクチン等、治療方法が確立しているわけではありません。

そうした事情を考えれば、慎重な判断が求められます。

◆卒業式・入学式をどうする?~近畿大学・APUは中止

大型イベントで来月に展開されるのが卒業式です。そして4月上旬には入学式が控えています。

2月25日16時時点で、中止・縮小を発表した大学・高校・教育委員会は以下の通りです。

中止

立命館アジア太平洋大学(大分県):卒業式・入学式を中止

近畿大学(大阪府など):6キャンパスと大学院、附属学校・併設校19校の入学式、卒業式と3月開催予定だったオープンキャンパスを中止/学部・学科単位の小規模な卒業証書・学位記授与式は実施を検討

常葉大学:全体式典と卒業祝賀会・卒業パーティー(大学近隣のホテルなど)を中止/卒業証書・学位記の授与式は学科ごとに分かれて卒業生と教職員のみで実施

たちばな学園(愛知県):運営する3校の専門学校で卒業式・卒業パーティーを中止

国際教養大学(秋田県):卒業式・入学式を延期

東邦大学(東京都):卒業式を中止/学部学科ごとの卒業証書・学位記授与式は実施

都築学園グループ(福岡県、埼玉県など):第一薬科大学(福岡県)や日本薬科大学(埼玉県)など6大学、高校、専門学校、幼稚園など33校の卒業式を中止

東海大学熊本キャンパス(熊本県):卒業式を中止/阪神ドラフト1位小川一平投手、監督に挨拶できず(デイリースポーツ2月25日23時配信記事)

縮小

茨城県教育委員会:県立高校の卒業式について縮小/卒業生と保護者のみ体育館での式典に出席など

京都外国語大学:卒業式は実施。総長祝賀会招待を中止

北海道教育委員会・札幌市教育委員会:公立の小中学校、高校の卒業式について、在校生・保護者の出席抑制や開催時間の短縮などを要請/私立校にも同様の要請を通知

熊本市教育委員会:児童・生徒や家族などが感染した場合、即座に14日休校/期間中に卒業式がある場合は中止/実施でも在校生や来賓の参加を認めない

和歌山県教育委員会:県内の市町村教委に対し、学校行事の時間短縮を検討するよう通知

山梨学院高校・日大明誠高校(山梨県):卒業生と保護者、教員のみ/送辞を述べる一部の生徒を除いて在校生は出席しない

防衛大学校:規模縮小を検討(2月22日時点)→保護者や来賓を招かない形で実施(安倍首相、河野防衛相などは参加)

山形県教育委員会:出席者を限定し時間を短縮して実施/出席者は卒業生と保護者、教職員、来賓/在校生は送辞を述べる生徒や楽曲を演奏する生徒に限定

静岡県教育委員会:卒業式や入学式への出席は卒業生や入学生、その保護者らに限定/在校生は原則として不参加

長野県教育委員会:卒業式は参加者を極力限定/感染防止対策を徹底した上で開催

もっともはやく中止を発表したのは立命館アジア太平洋大学(APU)です。

さらに本日、2月25日、近畿大学が中止を表明しました。

近畿大学は大学広報の中ではトップクラスの宣伝力を誇ります。その宣伝策の一環が卒業式・入学式でした。

これをわざわざ中止したのです。

大学の大規模校として、卒業式・入学式を中止としたのは近畿大学は初めてです。

今後、この近畿大学にならって、中止ないし規模縮小を表明する大学は増加していくもの、と思われます。

◆卒業式は高齢者も参加で高リスク

卒業式や入学式は大学・高校などの教育機関にとって、重要な行事です。

教育の一環と位置付ける学校もあり、それを簡単に中止にしていいのか、という議論はあります。

私も、一律で何でも自粛するべき、とは思いません。

しかし、入試や就職活動関連のイベントと卒業式・入学式は大きく異なる点があります。

それは、家族の参加の有無です。

入試や就職活動関連のイベント・選考は受験生や就活生本人しか参加しません。

一方、卒業式や入学式は在校生も参加しますし、さらに言えば児童・生徒・学生の親や親族なども参加します。

その数は2000年代に入り、小中高だけでなく短大・大学でも増加。

卒業生・新入学生の倍以上、参加する学校も珍しくなくなりました。

たとえば、大学だと、同志社大学は学部ごとの卒業式を実施していますが2017年3月20日開催分はグローバル地域文化学部などの卒業生670人に対して父母・祖父母などは約900人参加。

※読売新聞2017年3月26日朝刊「平和と未来 伝え託す 学長、卒業式で式辞」

これは同志社大学だけでなく他大学でも同様の状況であり、「中規模以上の大学だともはや学内ホールでの開催は無理。学外のイベント会場で実施しないとパンクしてしまう」(首都圏私立大学広報課職員)。

◆政府への提言「実施か、中止か、段階別の目安表示を」

私も大学等の取材歴18年の経験から、卒業式や入学式がいかに重要な行事か、熟知しています。

しかし、密閉された空間に大人数が集まり、しかも、新型コロナウイルスの感染率・致死率が高い高齢者も含まれるわけです。

私は医療については専門外ですが、素人目にも感染リスクは高い、と言わざるを得ません。

一律に中止する、というのもいささか乱暴です。と言って、現状のように、最終判断は各学校や教育委員会に任せる、というのも、いかがなものでしょうか。

そこで政府・厚生労働省に提案したいのが、実施か中止か、段階別の目安を明示していくのはどうでしょうか。

すでに中止ないし縮小を決めている各学校・教育委員会の方針をまとめると、こういう段階表示ができるはずです。

縮小して実施:卒業生と保護者のみ/在校生・地域住民・来賓の出席は抑制

さらに縮小して実施:卒業生のみ/保護者の出席は認めない

中止:児童・生徒・学生・教職員または家族、地域等での感染が認められた/感染者が増加している国からの留学生が一定数いる/マスク・消毒液などの備蓄・提供が不十分、など

これに実施を入れて4段階。

実施だったとしても、出席者分のマスク・消毒液の備蓄・提供や実施時間の短縮、関連行事の中止など条件を付けるのもいいでしょう。

現在のように「自粛を要請する」という曖昧な表現よりも、政治決断によって、目安を提示していくことが結果的には児童・生徒・学生を守ることになるのではないでしょうか。

◆保護者・親族への提言「出席は自粛を」

仮に卒業式が実施された場合でも、保護者や親族の方に提言したいのが出席の自粛です。

「わが子の卒業式・入学式に参加できないなんて」と憤る方も多いでしょう。

そのお気持ちはよく分かります。

「ちょっとくらい、出席してもいいじゃないか」

という方も多いでしょう。

が、その「ちょっと」が大量に集まるのが卒業式・入学式です。

まだ、ワクチン開発や治療方法などが確立されていない中で従来通り、卒業式・入学式を開催していくのはどう考えてもリスクが高すぎます。

まして、ご家庭にご高齢の祖父母など親族の方がいる場合、どうでしょうか?

卒業式・入学式に出席した児童・生徒・学生などから家族に感染するリスクだってあります。

多くのことが明らかになっていない新型コロナウイルスですが、高齢者層の感染率・致死率が高いことはすでに日本でも国外でも判明しています。

もし、子どもが感染し、祖父母にさらに感染、死亡まで至った場合、子どもが負う傷は計り知れないものがあるのではないでしょうか。

感染リスクだけでなく、心理的なリスクという点でも、私は卒業式・入学式の実施ないし出席は高リスクと言わざるを得ません。

2011年、東日本大震災のときも卒業式や入学式は中止ないし規模縮小とした学校が東日本を中心に多数ありました。

しかし、そうした学校がそのまま中止としたわけではありません。

有志が集まり、落ち着いた時期に改めて開催した学校もまた、多くありました。

東日本大震災と異なり、新型コロナウイルスは建物を破壊したわけでも、電力不足にしたわけでもありません。

マスク着用者が増えた以外の見た目には何ら変わらない日常が続いています。

それでも、政府方針として「これからの1~2週間が、急速な拡大に進むか収束かの瀬戸際」としているのであれば、卒業式の中止や出席自粛を検討すべきではないでしょうか。

親にとって、わが子の卒業式や入学式は節目となるイベントです。

その節目は、あくまでも良い思い出となるべきでしょう。

それが「あの卒業式で感染者が増えた」など悪い思い出となるのは回避すべきではないか、と考える次第です。

追記(2020年2月25日23時)

記事公開後、山形県教育委員会の規模縮小実施(通達)と国際教養大学の卒業式・入学式延期の情報が入りましたので加筆しました。合わせてタイトルを一部修正しました。

追記(2020年2月26日8時55分)

記事公開後、静岡県教育委員会、長野県教育委員会、防衛大学校の規模縮小実施(通達)と東邦大学、都築学園グループ、東海大学熊本キャンパスの卒業式中止の情報が入りましたので加筆しました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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