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「リクナビ問題」のその後――ポストリクナビはリクナビ?就職活動は変化したのか

石渡嶺司大学ジャーナリスト
2019年の合同説明会(著者撮影後、一部加工)。リクナビ問題の影響は?

就職ポータルサイト大手のリクナビは、2019年の内定辞退率販売で大学・学生からの不信を招きました。学生や企業にとって欠かせない存在といっても過言ではなかったリクナビは、その後の就職活動でどのような存在に変化したのでしょうか。取材すると、学生や企業と大学側のスタンスの違い、新しい就職サイトの広がりが見えてきました。信頼はゆらぎつつも、リクナビに頼らざるを得ない就職活動の現状がそこにはあったのです。

リクナビを就活の場から遠ざけた、大学の怒り

2019年8月、リクナビを運営するリクルートキャリアは、学生の同意を得ないまま、内定辞退率を予測して企業に販売していたことが発覚しました。大問題に発展し、同社の社長と担当役員が謝罪。厚生労働省からは職業安定法違反による指導が入りました。

2019年8月、リクルートキャリア社長(左)の謝罪会見(著者撮影)
2019年8月、リクルートキャリア社長(左)の謝罪会見(著者撮影)

直後に筆者が各大学を取材すると「なぜ、リクルートという人材・採用分野のトップ企業が職業安定法に抵触する内定辞退率販売をやらかすのか」(首都圏・難関私立大)など、各大学のキャリアセンター・就職課職員は怒り心頭に発するというところが多数でした。

中央大学、明治大学などは「信頼関係が崩れた」としてリクナビを就職イベントに呼ばないことを決め、別の国立大学では「リクナビのチラシくらいは置くようにする。ただ、この問題が収束しない限りは、就職イベントには呼びづらい」という回答があり、このように就職活動の場からリクナビを遠ざける動きは各大学でありました。

「ポストリクナビ」を探す動き

リクナビ問題を受けて、「ポストリクナビ」を探そうという動きもあります。

その一番手として名前が挙がるのは、2010年代に入ってから、リクナビと激しいトップ争いを演じる「マイナビ」です。

採用アナリストの谷出正直さんは、リクナビ、マイナビ、キャリタスナビ(旧・日経就職ナビ)の3社を比較調査したところ、変動があった、と指摘します。

「1月時点でのインターンシップサイトの掲載社数・シェアを私が調査したところ、18年卒・19年卒サイトはリクナビ、マイナビがどちらも40%台で拮抗していました。しかし、21年卒はマイナビが53%と大きく伸ばし、リクナビは31%とシェアを大きく落としました。リクナビ問題の影響は相当あったと見るべきでしょう」

現在、就活の広報解禁前にあたる1・2月にはインターンシップに参加する学生が増えています。そのインターンシップの掲載社数・シェアでこれだけ大きな変動があることはリクナビの影響力が低下していることを示しています。

採用アナリスト・谷出正直さん(谷出氏提供)
採用アナリスト・谷出正直さん(谷出氏提供)

また、従来型の就職サイトとは異なる流れもでき上がりつつあります。その一つが「逆求人型サイト」です。

逆求人型サイトは学生が個人情報を登録する際、自己PRなども合わせて登録。利用企業は学生の自己PRなどを見たうえで、気になる学生に説明会参加や選考参加などを呼びかけるオファーを出します。従来型の就職サイトとは流れが逆なので逆求人型サイトと言われています。自己PRを読んだうえでオファーを出す分、ミスマッチが減ります。

逆求人型サイトはアイデムが運営する「JOBRASS」(ジョブラス)やアイプラグが運営する「offerbox」(オファーボックス)などが企業・学生とも認知度が高く、利用者・企業が増えています。

さらに、転職市場のエージェントと同じ仕組みが就職エージェントとして新卒市場でも広がっています。アイデムやディスコ(キャリタスナビを運営)、ベネッセなど大手企業が就職エージェントに参入し、2018年には社会人向け転職サービスが中心だったレバレジーズも就職エージェントに参入しました。

就職エージェントを利用するプラスチック原料や土木資材を扱う商社、フジモリ産業の採用担当・吉田真和さんは、「弊社のような中堅規模の企業ですと、リクナビやマイナビなどはエントリーしてくれた学生であっても、その後の選考に参加してくれる可能性が低く、費用対効果が悪い印象です。ですので、直接大学を訪問し、小規模な就活イベントに参加し、リアルな接点を重要視しています。また、就職エージェントも利用しています」と話します。理由としては、「やはり、費用対効果。ナビサイトだと、採用がゼロだった場合でも、費用が発生します。その点、就職エージェントだと入社してはじめて報酬、となります」ということが上げられるようです。

フジモリ産業の採用担当者・吉田真和さん(著者撮影)
フジモリ産業の採用担当者・吉田真和さん(著者撮影)

ただ、就職エージェントは、成果報酬であるため、企業・担当者によっては企業を強引に勧める、という転職市場で起きている問題と同じことが起こる可能性があります。トラブルの懸念もあり、大学キャリアセンター・就職課職員の中には就職エージェントを否定的に見る人もいます。

結局、採用側はリクナビには抗えない?

リクナビ問題や就職ポータルサイトの広がりを受け、マイナビや逆求人型サイトなどに切り替えた、とする企業もありました。しかし、実は一番多かったのが「ポストリクナビは結局、リクナビ」という意見です。

・リクナビは料金こそ高いが、フォローもしっかりしている。都合の悪い話もちゃんと持ってくる。費用対効果を考えればリクナビを切る理由はない(東京・機械メーカー)

・内定辞退率販売はどこもやっているという話もある。大きな声では言えないが、流れ弾に当たったな、という印象程度しかない(東京・IT)

・(逆求人型サイトについて)リクナビには、オープンES(エントリーシート)という機能がある。あれは逆求人型サイトの自己PRなどとそう大きくは変わらない。無理に逆求人型サイトを使わなくても、学生に『オープンESをちゃんと書いて』とアナウンスすれば、それで事足りる(東北・流通)

企業側からこうした消極的な理由でリクナビを推す意見がある一方で、当事者である学生はどう受け止めていたのでしょうか。

実際に、筆者が聞き取り取材をしたところ、リクナビを使用しないとした学生は少なく、ほとんどは変わらずに利用するという解答でした。

「ニュースになったのは知っているが、結局、何が問題か、よくわからない。ただ、キャリア講義で担当の先生がやたらと怒っていたので、使うのは、やめようか、と」(関西・中堅私大)

一方、気にしない学生からは、

「行きたい企業がリクナビを使っているので」(中央大)、「問題が起きた以上、逆に安心できそう」(慶応義塾大)、「リクナビは、やはり外せない」(大阪経済大)

などの意見が多くありました。

リクナビを問題後も利用し続ける傾向は難関大生ほど変わらない、思わぬ指摘をしたのは関西のある専門商社の採用担当者です。

「うちは、問題以降もリクナビを経由したエントリー方法を変えませんでした。すると、関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)クラス、首都圏だと早慶上智~明治・中央クラスの学生のエントリーが増えた。それまでは、そのクラスより下の大学からのエントリーが『リクナビ経由』で多かったのです。多くの大学がリクナビの利用を控えるよう学生に指導した一方で、大学教職員が何を言っても、自分にとって必要かどうか、ちゃんと考えて行動する学生が難関大ほど多いと感じてしまいました。『大学の先生がリクナビを使うなと言った』をそのまま信じ込んでしまう学生もいたと思います。ただ、リクナビの是非はともかく、企業からすれば、自分で考えられる学生の方が採用したい」

確かに上位校になればなるほど、リクナビ利用者は増えた印象があります。一企業の採用担当者の意見ではありますが、筆者にとっては非常に考えさせられる意見でした。

人手不足倒産が叫ばれている中で、ポストリクナビはどこになるのか、採用担当者は模索しています。もともと、リクナビを含む従来型サイトだけでは採用氷河期を乗り切れない、という漠然とした不安感も底流にあったとみるべきでしょう。しかし、はっきりとしたポストリクナビは存在せず、企業側の模索は当面続きそうです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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